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1年単位の変形労働時間制とは?
「1年単位の変形労働時間制」とは、簡単にいうと、1年以内の一定期間において、1週間あたりの労働時間が平均して40時間を超えないことを条件として、業務の繁閑に応じて所定労働時間を柔軟に設定することを認める制度をいいます。
繁忙期には長めの労働時間を設定する一方、閑散期には短めの労働時間を設定することにより、効率的に労働時間を配分することが可能になり、結果的に年間の総労働時間の短縮を目的とする制度です。
このような業種は、お中元やお歳暮、セールの時期などには特に多忙である一方、月によっては閑散としているなど、年間を通じて時季による業務の繁閑が顕著であるため、変形労働時間制を採用することにより、働き方にメリハリを付けることが可能になります。
なお、1ヵ月のうち、特に月末の数日だけが忙しい場合など、1ヵ月の範囲内で業務の繁閑がみられる場合には、「1ヵ月単位の変形労働時間制」を採用する選択肢もあります。
1ヵ月単位の変形労働時間制については、次の記事をご参考にしてください。
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対象期間と特定期間とは?
対象期間
「対象期間」とは、会社が定める変形労働時間制の単位となる期間であり、この期間内において、平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲で所定労働時間を設定する必要があります。
対象期間は、「1ヵ月を超え、1年以内の期間」を定める必要があります。
したがって、例えば、3ヵ月や6ヵ月を対象期間とする変形労働時間制も認められます。
特定期間
「特定期間」とは、対象期間のうち、特に業務が忙しい期間として、会社が定めた期間をいいます。
例えば、対象期間を1年とし、そのうち特定期間は特に業務が忙しい6月と12月に設定するといったイメージです。
特定期間の長さについては法律上の上限はありませんが、対象期間のうち相当部分を特定期間として定めることは認められません(平成11年3月31日基発169号)。
例えば、対象期間1年のうち、特定期間を8ヵ月にするような場合、労務管理上の問題が生じるおそれがあると考えます。
1年単位の変形労働時間制の限度時間(対象期間・特定期間)
対象期間における労働時間
1年単位の変形労働時間制は、1週間あたりの法定労働時間である40時間を変形させることによって、対象期間の範囲内で帳尻を合わせる(平均して週40時間に収める)制度です。
ここで「変形させる」とは、1週間の法定労働時間である40時間を、計算式を用いて対象期間に置き換えることにより、いわば「対象期間中の総枠の法定労働時間」を設定することをいいます。
対象期間中の総枠の法定労働時間を求める際の計算式は、次のとおりです。
【対象期間中の総枠の法定労働時間】
40時間(1週間の法定労働時間)÷7日×対象期間の歴日数
この計算式によって計算すると、各対象期間における労働時間の総枠は、次の表のようになります(小数点第2位以下を切捨)。
対象期間 | 労働時間の総枠 |
1年(365日の場合) | 2,085.7時間 |
6ヵ月(183日の場合) | 1,045.7時間 |
4ヵ月(122日の場合) | 697.1時間 |
3ヵ月(92日の場合) | 525.7時間 |
計算する際に用いる「1週間の法定労働時間」は、1週あたり40時間です。
なお、1週間の法定労働時間については、労働基準法によって特例が認められる事業があり、特例により1週間の法定労働時間が44時間になる場合があります。
しかし、この労働時間の特例は、1年単位の変形労働時間制を採用する場合には適用されないことに注意が必要です。
この労働時間の特例を用いることができなくなる点が、1年単位の変形労働時間制のデメリットといえます。
1日あたりの限度時間
1年単位の変形労働時間制においては、1日あたりの労働時間の限度は「10時間」と定められています。
1週間あたりの労働時間
1年単位の変形労働時間制においては、1週間あたりの労働時間の限度は「52時間」と定められています。
ただし、対象期間が3ヵ月を超えるときは、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 対象期間において、労働時間が48時間を超える週が連続する場合の週数が3以下であること
- 対象期間をその初日から3ヵ月ごとに区分した各期間(3ヵ月未満の期間を生じたときは、その期間)において、労働時間が48時間を超える週の初日の数が3以下であること
労働日数の限度
1年単位の変形労働時間制において、対象期間が3ヵ月を超える場合、対象期間について1年あたり280日となります(うるう年の場合も同じ)。
対象期間が3ヵ月以内の場合には、労働日数の限度を1年あたり280日にする必要はありません。
これをまとめると、次のとおりです。
【年間休日数】
- 対象期間が1年 …280日
- 対象期間が3ヵ月超1年未満 …280日×対象期間中の暦日数÷365日
- 対象期間が3ヵ月以内 …制限なし
連続する労働日数の限度
対象期間
対象期間において、連続して働くことができる日数の限度は、最長「6日」とされています。
特定期間
特定期間において、連続して働くことができる日数の限度は、「1週間に1日の休日が確保できる日数」とされています。
つまり、特定期間において連続して働くことができる日数は、最長「12日」となります。
1年単位の変形労働時間制の手続
1年単位の変形労働時間制の手続
会社が1年単位の変形労働時間制を導入する場合の手続として、変形労働時間制について「就業規則」に定めるとともに、会社と従業員の過半数代表者との間で「労使協定」を締結し、その労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
労使協定に定める内容
労使協定においては、次の事項を定める必要があります。
【労使協定の記載事項】
- 対象となる従業員の範囲
- 対象期間
- 対象期間の起算日
- 対象期間における労働日・その労働日ごとの労働時間
- 特定期間
- 労使協定の有効期間
④の「対象期間における労働日・その労働日ごとの労働時間」では、対象期間における労働日と、その日の労働時間を定めます。
しかし、1年単位の変形労働時間制は、対象期間が長くなるため、計画段階であらかじめ労働日・労働時間を明確に定めておくことが困難な場合があります。
そこで、対象期間を1ヵ月以上の期間ごとに区分する場合に限って、次の特例が認められています。
【対象期間を1ヵ月以上の期間に区分する場合】
- 最初の期間における労働日・労働日ごとの労働時間
- その後の各期間における労働日数・総労働時間
つまり、例えば対象期間を1ヵ月ごとに区分した場合には、まずは最初の1ヵ月については、カレンダーなどによって労働日と労働時間を定めておく必要があります。
一方、その後の各期間については、労働日数と総労働時間、つまり枠組みだけ決めておき、個別の労働日と労働時間については、後から定めることが認められます。
ただし、この場合には、その対象期間が始まる30日以上前に、労働日と労働時間を定めた書面を作成し、従業員の過半数代表者の同意を得る必要があります。
1年単位の変形労働時間制の時間外の計算(残業代・割増賃金)
変形労働時間制は、法定労働時間を変形させていることから、時間外労働の取扱いが異なることに注意が必要です。
時間外労働の算定は、「1日→1週→対象期間」の順で行います。
1日の法定時間外労働
①1日の所定労働時間が8時間以内である場合
8時間を超えた時間について、法定時間外労働となります。
例えば、1日の所定労働時間を6時間と定めている場合には、8時間を超えた分について割増賃金を支払うこととなります。
②1日の所定労働時間が8時間超である場合
あらかじめ定めた所定労働時間を超えた時間について、法定時間外労働となります。
例えば、1日の所定労働時間を9時間と定めている場合には、9時間を超えた分について割増賃金を支払うこととなります。
1週の法定時間外労働
①1週の所定労働時間が40時間以内である場合
40時間を超えた時間について、法定時間外労働となります。
②1週の所定労働時間が40時間超である場合
あらかじめ定めた所定労働時間を超えた時間について、法定時間外労働となります。
対象期間の法定時間外労働
対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間について、法定時間外労働となります。
ただし、上記の1日または1週単位ですでに時間外労働としてカウントされた時間を除きます。
中途採用者・途中退職者
1年単位の変形労働時間制では、対象期間が長期におよぶため、中途採用、配置転換、途中退職する従業員が生じます。
中途採用、配置転換、途中退職した従業員がいる場合には、その従業員は対象期間よりも短い期間働くこととなります。
1年単位の変形労働時間制は、対象期間の繁閑に関わらず、対象期間を通じて平均週40時間に収める制度です。
すると、繁忙期(長めの労働時間を設定)に多く働いた従業員が、閑散期(短めの労働時間を設定)の前に退職したような場合、結果的に、平均週40時間を超えた労働をしたことになることがあります。
この場合には、次の計算式のとおり、実際に働いた期間における実労働時間で、時間外労働を把握し、割増賃金を精算して支払う必要があります。
【中途採用者・途中退職者の割増賃金】
実労働期間における実労働時間-実労働期間における法定労働時間の総枠(※)-実労働期間にすでに割増賃金を支払った時間外労働
(※)実労働期間における実労働時間
(実労働期間の暦日数÷7日)×40時間