社会保険

複数の勤務先を掛け持ちする場合(兼業・副業)の雇用保険の加入条件(週20時間以上・週20時間未満)【2022年法改正】

雇用保険とは?

「雇用保険」とは、労働者が失業した場合や、自身の高齢化や育児・介護により、その雇用の継続が困難となる事情が生じた場合などに、その労働者に対して必要な生活保障を行うことにより、労働者の生活と雇用の安定を実現するための社会保険です。

雇用保険は、社会保険のひとつであり(労災保険と併せて、労働保険ということもあります)、会社は従業員を一人でも雇う場合には、原則として雇用保険に加入する義務があります。

雇用保険は政府が管掌する社会保険であり、その申請手続については、全国各地のハローワーク(公共職業安定所)が窓口となっています。

雇用保険の代表的な給付内容のひとつに、「基本手当」があり、一般的に「失業手当(失業保険)」といわれています。

これは、労働者が失業した場合に、再就職するまでの求職活動中の生活を保障する趣旨で支給される手当です。

【法改正】短時間労働者(パート)の社会保険の適用拡大(501人→51人以上)について解説【2020年・2024年改正予定】2019年12月現在、短時間労働者(パート)の社会保険への適用拡大を目指した法改正の動きがあります。 法改正の内容を簡単にいうと、...

雇用保険の加入要件(被保険者となる要件)

従業員が次の要件をいずれも満たす場合には、会社は当該従業員について雇用保険に加入する義務があります(雇用保険法第6条)。

【雇用保険の加入要件】

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 31日以上雇用されることが見込まれること

この要件は、雇用形態(正社員・パート・アルバイトなど)に関係なく適用されます

したがって、パートやアルバイトであっても、上記の要件に該当する場合には、雇用保険に加入する義務があることに留意が必要です。

なお、学生は、原則として雇用保険に加入することはできません。

「所定労働時間」とは?

要件①の「1週間の所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書などにより、その従業員が「通常の週に勤務すべき」と定められている時間のことをいい、ここでいう通常の週とは、年末年始、夏季冬季休暇、祝祭日などを含まない週をいいます。

複数の勤務先を掛け持ちする場合(兼業・副業)の取り扱い

従業員が兼業・副業により、複数の勤務先を掛け持ちして働く場合には、それぞれの勤務先における所定労働時間を把握し、場合分けして雇用保険の加入要件を判断する必要があります。

掛け持ち先(兼業・副業先)の所定労働時間が、いずれも週20時間以上

2以上の会社に雇用されている従業員で、いずれの会社も所定労働時間が週20時間以上である場合、すべての会社で雇用保険に加入するのではなく、そのうち1社についてのみ雇用保険に加入することとなります(雇用保険は二重加入することはできません)。

この場合、原則として、「その従業員が生計を維持するために必要な、主たる賃金をうけている雇用関係」についてのみ、雇用保険に加入することとなります(雇用保険法 業務取扱要領20352)。

なお、個人事業主は雇用保険の対象になりませんので、従業員が副業として個人事業主をしている場合には、当該事業について雇用保険に加入することはありません。

【例】

A社の所定労働時間…30時間/週 給料10万円

B社の所定労働時間…20時間/週 給料20万円

【結論】

B社にて、雇用保険に加入する。

上記の例では、所定労働時間ではA社がB社を上回っています(30時間>20時間)が、給料はB社の方が多い(10万円<20万円)ため、「主たる賃金」はB社から受け取っているものと判断されます。

したがって、この場合はB社にて雇用保険に加入をする必要があります。

掛け持ち先(兼業・副業先)の所定労働時間が、いずれか1社だけが週20時間以上

【例】

A社の所定労働時間…10時間/週

B社の所定労働時間…30時間/週

【結論】

所定労働時間が「週20時間以上」であるのはB社だけであるため、B社にて、雇用保険に加入する。

上記の例では、A社では雇用保険の加入要件を満たさず(10時間<20時間)、B社では雇用保険の加入要件を満たしている30時間>20時間)ことから、B社にて、雇用保険に加入することとなります。

掛け持ち先(兼業・副業先)の所定労働時間が、いずれも週20時間未満

【例】

A社の所定労働時間…15時間/週

B社の所定労働時間…15時間/週

【結論】

いずれの会社でも所定労働時間が「週20時間未満」であるため、雇用保険に加入できない

上記の例では、会社単位みると、いずれも週20時間に達していない(15時間<20時間)ことから、雇用保険に加入することができず、雇用保険による保護(失業時の生活保障など)を受けることができません。

しかし、2つの会社の所定労働時間を通算すれば、週30時間(15時間+15時間)になり、雇用保険の加入要件を満たす程度の仕事をしている以上は、このような掛け持ち(副業・兼業)をしている従業員についても、何らかの保護が必要ではないか、という議論がありました。

そこで、法改正が行われ、一定の条件を満たす場合には、掛け持ち先の所定労働時間が、いずれも週20時間未満である場合であっても、雇用保険に加入することができることとなります。

【2022年法改正】掛け持ち先の所定労働時間が、いずれも週20時間未満である場合の雇用保険の加入要件

法改正の概要

前述のとおり、掛け持ち先の所定労働時間が、いずれも週20時間未満である場合には、原則として雇用保険に加入することができませんが、一定の要件を満たす場合には、雇用保険に加入することができるように法律が改正されます。

法律の施行日

法律の施行日は、2022(令和4)年1月1日です。

法改正の内容

65歳以上の高年齢労働者で、次の要件を満たす場合には、本人の申し出に基づき、雇用保険に加入する(高年齢被保険者になる)ことが認められます(雇用保険法第37条の5)。

【法改正の内容】

  1. 2以上の事業主に雇用される、65歳以上の者であること
  2. 1つの事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満であること
  3. 2つの事業主における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること

ただし、③について合計することができるのは、1つの事業主における1週間の所定労働時間が5時間以上であるものに限られる予定です(この点については今後の厚生労働省令で定められる予定です)。

また、従業員がどのように申し出るか、具体的な手続については、今後の厚生労働省令で定められる予定です。

この法改正によって、掛け持ちをしている1つの会社についてのみ失業する場合であっても、その会社の賃金に基づいて算出された基本手当を受給することができるようになるため、これまでよりも手厚い保障を受けることができるようになります。

会社の労務管理の対応について

今回の法改正では、雇用保険の適用について、従業員本人の申出を出発点として対処(被保険者の資格取得手続)が必要となるものです。

したがって、会社の担当者が法改正の内容を理解しておき、従業員からの申出があった場合には適切に対処することができるように準備をしておけば、法改正への対応としては十分であると考えます。

ABOUT ME
上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。