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フレックスタイム制とは?
「フレックスタイム制」とは、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限をあらかじめ決めておき、従業員がその範囲内で、日々の始業・終業の時刻を選択して働くことを認める制度をいいます(昭和63年1月1日基発第一号)(労働基準法第32条の3)。
フレックスタイム制による従業員の最大のメリットは、始業時刻と終業時刻を自分で選ぶことができるという意味で、自由な働き方ができるようになることです。
もともと、フレックスタイム制は、従業員がそのワーク・ライフ・バランスを図りながら、効率的に働くことを認めることによって、結果として労働時間を短縮しようとする狙いで導入された制度です(昭和63年1月1日基発第一号)。
フレックスタイム制を採用する場合には、始業と終業の時刻の両方を従業員の決定にゆだねる必要があり、始業時刻または終業時刻の一方についてのみ従業員の決定にゆだねているだけでは、法律の定めるフレックスタイム制とは認められません(昭和63年1月1日基発第一号)。
なお、満18歳未満の従業員(年少者)には、フレックスタイム制を適用することはできません(労働基準法第60条第1項)。
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コアタイムとフレキシブルタイムとは?
フレックスタイム制を導入する場合には、日々の勤務時間の中で、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」の時刻を設定することが一般的です。
「コアタイム」とは、従業員が必ず勤務しなければならない時間帯をいいます。
「フレキシブルタイム」とは、従業員がその時間帯であればいつ出社または退社してもよい時間帯をいいます。
コタタイムとフレキシブルタイムは、法律上必ず定めなければならないものではありません。
なお、フレキシブルタイムが極端に短い場合や、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致しているなどの場合は、基本的にはフレックスタイム制の趣旨に合わず、制度として認められないものと解されています(昭和63年1月1日基発第一号)。
フレックスタイム制における総労働時間(総枠)の決め方
フレックスタイム制では、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限(労働時間の総枠)の範囲内に収まるように、従業員が日々の所定労働時間を決定します。
例えば、ある会社で1ヵ月の労働時間の総枠を160時間と定めた場合、その1ヵ月の労働時間が結果として160時間に達すれば、1日10時間働く日があれば、5時間で仕事を切り上げる日があってもよい、という働き方をすることが認められます。
この際、一定の期間のことを「清算期間」といい、労働時間の総枠は、清算期間を単位として決定します。
そして、従業員が清算期間における労働時間の総枠の範囲内で働く限り、ある日の労働時間が1日8時間を超えても、あるいはある週の労働時間が40時間を超えても、時間外労働とはなりません。
一方、フレックスタイム制では、清算期間における労働時間の総枠の範囲内で働く限り、時間外労働が生じない点で大きく異なります。
なお、時間外労働にならない、ということは、割増賃金(残業代)を支払う義務が生じない、ということを意味します。
総労働時間(労働時間の総枠)の求め方
総労働時間(労働時間の総枠)は、次の計算によって求めます。
【清算期間における総労働時間】
1週間の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7
なお、この計算は、変形労働時間制における労働時間の総枠を求める際の計算と同様です。
フレックスタイム制における休憩時間の取り扱い
フレックスタイム制を採用した場合でも、会社は、法律の定めるとおりに休憩時間を与えることが必要です(労働基準法第34条)。
休憩時間は、原則として従業員が一斉に取得しなければならない、とされており(「一斉付与の原則」といいます)、これによって、コアタイムがある場合には、コアタイム中に一定の休憩時間を定める必要があります(労働基準法第34条第2項)。
なお、一斉付与の原則は、会社と従業員との間で労使協定を締結することによって適用を除外することができるため、コアタイムがない場合には、労使協定を締結しておく必要があります。
フレックスタイム制における遅刻・早退の取り扱い
フレックスタイム制においては、遅刻・早退は、コアタイムについてのみ発生します。
フレキシブルタイムについては、従業員の裁量で始業・就業時刻を決めることができるため、遅刻・早退という概念はありません。
フレックスタイム制における有給休暇の取り扱い
フレックスタイム制においては、従業員が自分で始業・終業時刻を決めることから、1日の労働時間が一定にならず、そのため有給休暇を取得した日が何時間の労働に相当するのか(何時間分の賃金を支払えばいいのか)が問題となります。
そこで、フレックスタイム制では、あらかじめ「標準となる1日の労働時間」を労使協定(後述)で定めておくことで、従業員が有給休暇を取得した場合には、その日は「標準となる1日の労働時間」を働いたものとして取り扱い、その時間の賃金を支払うこととされています。
フレックスタイム制における就業規則の取り扱い
労働基準法は、就業規則で始業および終業の時刻を定めなければならない旨を規定しています(第89条第1項)。
この点について、会社がフレックスタイム制を採用する場合には、就業規則では「始業および終業の時刻は従業員の決定にゆだねる」旨の定めをすれば、労働基準法の要件を満たすものと解されています。
フレックスタイム制における労使協定の取り扱い
フレックスタイム制を採用する場合には、労使協定において、次に掲げる事項を定める必要があります。
【労使協定の協定事項(労働基準法第60条第1項)】
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間(起算日)
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- 労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始および終了の時刻
- 労働者がその選択により労働することができる時間帯に制限を設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻
①対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲(対象部署など)を定めます。
②清算期間(起算日)
フレックスタイム制において、労働時間の総枠を定める期間であり、その長さは3ヵ月以内の期間に限ることとされています。
③清算期間における総労働時間
フレックスタイム制において、従業員が労働する義務のある時間を定めるものであり、この時間は、清算期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるような定めをする必要があり、その計算方法は、1ヵ月単位の変形労働時間制の場合と同様です。
④標準となる1日の労働時間
フレックスタイム制において、従業員が有給休暇を取得した際に支払われる賃金の計算の基礎となる労働時間を定めるものです。
ここでは、7時間や8時間など、単に時間数を定めれば足ります。
⑤労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始および終了の時刻
コアタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。
⑥労働者がその選択により労働することができる時間帯に制限を設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻
フレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。
フレックスタイム制における割増賃金(残業代)
フレックスタイム制でも割増賃金(残業代)が支払われることがあります。
割増賃金が発生するのは、定めた期間(清算期間)における総所定労働時間よりも、実際に働いた時間の方が長い場合です。
例えば、ある1ヵ月の清算期間において、総労働時間が160時間と決められている場合に、実際には合計200時間働いた場合には、「200時間-160時間=40時間」となり、40時間分の割増賃金(残業代)を支給する必要があります。
実労働時間が総労働時間に不足する場合
実労働時間が総労働時間に不足する場合、次の2通りの方法があり、労使協定で定めておく必要があります。
- 就業規則の欠勤控除を適用し、不足する時間分の賃金を控除する
- 賃金を控除せず(実質的には過払いとなる)、不足する時間を翌月に繰り越す(上乗せする)
②の場合、繰り越しを受けた翌月の総労働時間は、上乗せ分も含めて法定労働時間の範囲内でなければなりません(昭和63年1月1日基発第一号)。
実労働時間が総労働時間を超過する場合
前述の実労働時間が不足する場合と異なり、時間を貸し借りすることはできません。
したがって、実労働時間に応じた賃金を、その期間の賃金支払い日に支払う必要があります。
その期間に発生した賃金を、その期間に対応する賃金の支払い日に支払わないことは、労働基準法第24条に定める「賃金の全額払い」に違反するためです。
清算期間が1ヵ月を超える場合
清算期間が1ヵ月を超える場合には、従業員の過重労働を防止するために、各月における上限時間が設けられています。
清算期間が1ヵ月を超える場合には、その清算期間を1ヵ月ごとに区分した各期間(最後に1ヵ月未満の期間を生じたときには、その期間)ごとに、その期間を平均して1週間あたりの労働時間が50時間を超えることができません(平成30年9月7日基発0907第1号)。
具体的には、次の算式による時間が上限となります。
【各月における上限時間】
50時間×各月における暦日数÷7
これには、忙しい月だけ極端に労働時間が長くなるといった偏りを避ける狙いがあります。