労働基準法

積立有給休暇(積立保存・ストック休暇)制度とは?制度の内容と就業規則の規程(定)例を解説

昨今、世間では働き方改革の波を受けて、有給休暇の取得の促進をはじめとする「ワークライフバランス」への関心が一層高まってきているように感じます。

それに伴って、会社が福利厚生のひとつとして導入する「積立有給休暇制度」についても、世間の関心が高まっているように感じています。

積立有給休暇は法律上の制度ではありませんが、従業員にとって、会社で末永く安心して働くことができる魅力的な制度であり、ぜひ導入を検討すべき制度といえます

この記事では、会社が積立有給休暇制度を導入する際に検討すべきポイントと、その際の就業規則の規定例を解説します。

この記事でわかること
  • 積立有給休暇制度とは、どのような制度なのかを理解することができます。
  • 会社が積立有給休暇制度を導入する際に検討すべきポイントや、就業規則の規定例を知ることができます。

積立有給休暇(積立保存・ストック休暇)制度とは?

「積立有給休暇」とは

「積立有給休暇」とは、従業員が取得しないまま時効によって消滅した有給休暇を、貯金のように積み立てておく制度をいいます。

法律に従って従業員に与えられた有給休暇(以下、「法定の有給休暇」といいます)は、時効によって、与えられてから2年間で消滅します。

そこで、この消滅した有給休暇を積み立てておき、病気など、いざというときのために残しておくことができる制度が、積立有給休暇制度です。

積立有給休暇は、法律に定めがないため、どのような内容にするかは会社の自由です。

名称についても、「有給休暇のストック制度」や「保存休暇」、または社内で公募したユニークな名称を付けるなど、会社によって様々です。

積立有給休暇の導入状況(統計)

それでは、世間的には、どれくらいの会社がこの制度を導入しているのでしょうか。

「民間企業の勤務条件制度等調査(2016年人事院)」によると、正社員について、「積立有給休暇制度がある」と回答した企業の割合は、以下のとおりです。

  • 全体…54.6%
  • 100人以上500人未満の企業…31.0%
  • 50人以上100人未満の企業…19.2%

全体でみると、約半数の会社が制度を導入していると回答しています。

また、会社の規模が小さいほど、制度を導入している割合は少なくなるようです。

法定の有給休暇と、積立有給休暇の違い

法定の有給休暇は、その与えられる時期や日数、時効の期間などが、労働基準法によって定められています。

また、有給休暇を取得した日の賃金額をどのように計算するのかについても、法律で定められています。

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一方、積立有給休暇は、その内容について法律による決まりがなく、それを与えられる時期や日数、時効の期間などの制約がないため、制度をどのような内容にするかについては、会社の裁量に委ねられています。

また、有給休暇を取得した日の賃金額についても制約がないため、例えば、「積立有給休暇を取得した日は、1日につき日額5,000円を支払う」などのように、一律に支給するようなことも可能です。

さらに、法定の有給休暇は、一定の要件を満たす従業員については年に5日間以上取得することが義務付けられていますが、積立有給休暇についてはそのような義務はありません。

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積立有給休暇制度を導入するメリット・デメリット

積立有給休暇制度を導入することによる、会社や従業員のメリットとデメリットは、以下のとおりです。

メリット

従業員にとっては、本来であれば消滅するはずだった有給休暇を、病気など将来の不測の事態に備えて積み立てておくことができることにより、安心して働くことができる、というメリットがあります。

また、会社にとっては、制度を導入することにより、採用面で有利になる、社内のワークライフバランスを促進できる、優秀な人材の確保(流出防止)をすることができるなどのメリットがあります。

デメリット

従業員にとっては、メリットこそあれ、デメリットはありません。

会社にとっては、本来であれば時効で消滅するはずの有給休暇の取得を認めることにより、コスト面では負担が増えます

また、制度を導入するだけでなく、併せて休暇を申請しやすい社風や職場環境を整備しておかないと、せっかく導入した制度が機能せず、効果を発揮しません。

会社にとっては、制度をいかに周知させ、従業員が制度を利用しやすい環境づくりをするかが、成功の鍵となるでしょう。

積立有給休暇(積立保存休暇)制度の就業規則の内容と規程(定)例

前述のとおり、積立有給休暇制度の内容は会社が自由に決めることができます。

一般的には、積立有給休暇制度を導入する場合には、次の事項を検討し、就業規則に盛り込むことが考えられます。

以下、主に②、③、④、⑦について解説します。

【就業規則への記載内容(例)】

  1. 制度の名称
  2. 積立日数の限度…何日まで積立できるようにするか
  3. 利用目的…病気療養、家族の看護・介護など、利用目的を制限するかどうか
  4. 休暇取得の優先順位…法定の有給休暇とどちらの休暇を優先的に取得するか
  5. 1回あたりの利用日数…1回に何日まで休暇を取得できるか
  6. 申請書・証明書の提出…取得にあたって、申請書や証明書の提出を求めるか
  7. 休暇期間の取扱い…法定の有給休暇との優先順位や、出勤率の算定における取り扱い

積み立てることができる日数の上限

積立有給休暇制度を導入する場合には、積立日数の上限を定めることがポイントとなります。

積立日数については、「年間積立日数の上限」と、「総積立日数の上限」を定めることが必要になります。

年間積立日数の上限

時効消滅する有給休暇の日数のうち、年間で何日まで積み立てることができるのかを定める必要があります。

例えば、「年間で積み立てることができる日数は、10日までとする」などと定めることが考えられます。

総積立日数の上限

従業員が、最大で何日まで有給休暇の日数を積み立てることができるのかを定める必要があります。

積み立てることのできる日数が多くなるほど、当然ながら従業員にとっては有利になります。

しかし、あまりにも積立日数が多くなると、会社にとっては日数の管理が煩雑になり、また、長期間の休暇をとるために職場内での業務の調整が難しくなるなどの弊害が生じます。

これらのバランスを考慮すると、一般的には、積み立てることのできる日数の上限は、20日~60日程度が妥当なのではないでしょうか。

【就業規則の規定例】

この制度によって従業員が積み立てることができる有給休暇の日数は、年間で5日間を限度とし、かつ、保有することができる総日数は、40日を上限とします。

積立有給休暇(積立保存休暇)の利用目的(取得事由)

積立有給休暇の利用目的については、会社が任意に(自由に)決めることができます

法定の有給休暇は、従業員の権利として法律で定められていることから、会社が利用目的を決めることはできません。

一方、積立有給休暇は、会社独自の制度であるため、法律に縛られず(もともと法律で失効した有給休暇であるため)、会社の裁量で制度の内容を決めることができます。

一般的には、次のような利用目的を定めることが考えられます。

【積立有給休暇の利用目的(例)】

  • 病気(私傷病)の療養
  • 家族の看護・介護
  • 不妊治療
  • ボランティア
  • 自己啓発(資格の取得、海外留学など)
「民間企業の勤務条件制度等調査(2016年人事院)」によると、積立有給休暇制度を導入している企業のうち、利用目的(取得事由)に制限を設けている企業は74.9%でした。

個人的に、従業員が不必要に多くの有給休暇を取得したり、職場内で不公平感が生じることのないよう、きちんと利用目的や利用条件を定めておくことが望ましいと考えます。

【就業規則の規定例】

積立有給休暇は、以下の各号のいずれかに該当する場合に使用することができます。

一、私傷病により療養する場合であって、医師の診断により1週間以上の休業が必要とされたとき

二、扶養家族について、1週間以上の看護や介護を要するとき

三、その他会社が必要と認めるとき

法定の有給休暇との優先順位や、出勤率算定との関係

積立有給休暇を取得する場合には、例えば、法定の有給休暇との優先順位や、賞与における出勤率の算定における取り扱いをどうするかなど、他の制度との関係性を併せて検討する必要があります。

法定の有給休暇との優先順位

従業員が、法定の有給休暇と、積立有給休暇の両方をもっている場合、どちらの休暇から先に使うのかについては、法律による制限はありません。

例えば、積立有給休暇の要件を満たせば、そちらから先に使うように定めても、問題はありません。

ただし、この点については、2019年4月1に労働基準法が改正され、会社は原則として年に5日間の有給休暇を取得させることが義務になったため、従業員に最低限5日間の有給休暇を取得してもらうことが必要になることから、まずは(積立有給休暇に優先して)先に法定の有給休暇を取得するようにする方が、実務上は良いのではないかと考えます。

賞与などとの関係性

積立有給休暇を取得した場合に、出勤率の算定においてどのように取り扱うのか、明らかにしておく方がよいでしょう。

例えば、賞与や退職金の支給額の算定において、出勤率を考慮することがあります。

この場合に、積立有給休暇を取得した日について、出勤扱いとするのか、欠勤扱いとするのかについて、事前に取り決めておく必要があります。

なお、法定の有給休暇については、有給休暇を取得したことによって、従業員が不利になってはいけません。

したがって、賞与や退職金の支給額の算定においては、有給休暇を取得した日を欠勤扱いとすることは認められません。

また、法定の有給休暇についても、それが与えられる要件として、8割以上の出勤が求められます。

この出勤率の算定においても、積立有給休暇を取得した日を含めるのか、含めないのか、検討しておく必要があります。

【就業規則の規定例】

一、翌年度の年次有給休暇算出のための出勤率の計算については、出勤したものとして取り扱う。

二、賞与の支給額の算定においては欠勤として取り扱う。

三、退職金の支給額の算定においては欠勤として取り扱う。

積立有給休暇を退職時に取得することの可否

法定の有給休暇については、退職時にまとめて取得することができるかどうかについて、事前にルールを決めておかないとトラブルになることがあります。

法定の有給休暇は、法律で認められた従業員の権利であることから、原則として退職の直前であっても取得を認める必要がありますが、積立有給休暇制度については、あくまでも会社独自の制度ですから、無理に取得させる必要はありません。

しかし、無用なトラブルを避けるためにも、念のため、就業規則には、退職の直前においては、積立有給休暇の取得を認めないことを明記しておくことが望ましいと考えます。

まとめ

積立有給休暇は、従業員にとって、安心して働くことのできる魅力的な福利厚生です。

導入に際しては、実効性のある制度になるよう、この記事で解説したポイントは最低限検討していただく必要があると考えますので、ぜひご参考にしてください。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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