労働基準法

有給休暇の斉一的取扱い(斉一的付与・基準日の統一)とは?図解でわかりやすく解説

有給休暇の斉一的取扱い(斉一的付与・基準日の統一)とは?

「有給休暇の斉一的取扱い」とは、簡単にいうと、「有給休暇の基準日(権利が発生する日)を、あらかじめ一定の日に統一すること」をいいます。

「斉一(せいいつ)」とは、聞き慣れない言葉ですが、「ととのい、そろっていること」を意味し、有給休暇においては、「基準日をそろえる」ことを意味して使われています。

有給休暇の斉一的取扱いは、労働基準法には明記されておらず、行政通達(法律の解釈)によって認められています

実務においては、会社の有給休暇管理の負担を軽減することができ、従業員にとってもわかりやすい制度であるため、実際に多くの会社で導入されています。

ただし、有給休暇の斉一的取扱いは、その仕組みをしっかりと理解しておかないと、運用の仕方によっては違法にもなり得るため、この記事を参考に、制度をご理解していただきたいと思います。

有給休暇の原則と斉一的取扱いとの関係

労働基準法の原則として、入社日から6ヵ月が経過した日に、10日間の有給休暇が与えられます。

この有給休暇が与えられる日(図-1では10月1日)のことを、「基準日といいます。

この原則に従えば、有給休暇の権利は、従業員ごとに、その入社日に応じて個別に発生することとなります。

(参考)有給休暇の付与日数

勤続年数 6ヵ月 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日


これにより、会社は各従業員について個別に、入社日ごとにいつ有給休暇が発生するのかを把握し、使用した日数や残りの日数などを管理していくことが必要になるため、会社の労務管理においては、従業員数(特に中途入社)が増えれば増えるほど、事務手続が煩雑になります。

そこで、多くの会社が、従業員がある程度増えてきた段階で、有給休暇の斉一的取扱いを行うことによって、バラバラだった従業員ごとの基準日を統一しています。

基準日を年1回(例として「4月1日」)で統一する場合

それでは、具体的に、「基準日をどのように統一すればいいのか」について解説します。

基準日を統一する上での最大のポイントは、労働基準法は、従業員の「最低限の権利」を定めたものであるため、基準日の統一によって、『法律よりも不利な労働条件になってはならない』という点です。

これを踏まえて、どのような統一をすべきか(または、してはならないか)を検討する必要があります。

問題がある(違法となる)ケース

まずは、ある会社で、単純に、基準日を毎年1回、4月1日にそろえたとします。

【ルール①】

  • 基準日を毎年1回、4月1日とする

Aさんのケース

4月1日に入社した新入社員のAさんは、「入社日=基準日」となるため、入社した当日に、いきなり10日間の有給休暇が与えられます。

これは、労働基準法の定め(有給休暇は、入社日から6ヵ月間勤務することにより与えられる。つまりAさんの本来の基準日は10月1日)よりも、Aさんにとって「有利」になる取り扱いをしているため、法律的に問題ありません(労働基準法に違反しない)。

そして、入社日から1年経過後の翌年4月1日には、2回目の基準日を迎え、Aさんには11日間の有給休暇が与えられることになります(以降も同様)。

Bさんのケース

次に、5月1日に入社した中途社員のBさんについてみてみましょう。

【ルール①】によると、Bさんは、入社後初めて迎える基準日である翌年4月1日に10日間の有給休暇が与えられることになります。

しかし、Bさんは、労働基準法によれば、入社日から6ヵ月が経過した、「11月1日」に10日間の有給休暇が与えられるべき立場にあります。

すると、このような基準日の統一の仕方は、Bさんにとって、法律よりも「不利」になる取り扱いをしているため、労働基準法に違反することになります。

したがって、結論として、【ルール①】のように基準日を統一することは「できない」ということになります。

問題がない(適法となる)ケース

前述のとおり、単純に基準日を年1回設けるだけでは、適法な制度にはならないことが分かりました。

そこで、基準日を統一する場合には、基準日を統一することに加えて、「入社日に一定日数の有給休暇を与える」という工夫が必要になります。

【ルール②】

  • 基準日を毎年1回、4月1日とする
  • 入社日に、10日間の有給休暇を与える

【ルール①】との違いは、「入社日に一定日数(例では10日間)の有給休暇を与える」という点にあります。

【ルール①】【ルール②】におけるBさんの場合の取扱いを比較してみましょう。

5月1日に入社した中途社員のBさんには、入社した当日に、10日間の有給休暇が与えられます(図中の「特別付与」)。

その後、Bさんは、入社後初めて迎える基準日である翌年4月1日に11日間の有給休暇が与えられることになります。

Bさんは、労働基準法によれば、入社日から6ヵ月が経過した、「11月1日」に10日間の有給休暇が与えられるべき立場にあります。

そして、このルールでは、Bさんは入社日の5月1日において、すでに10日間の有給休暇を与えられています。

すると、このような基準日の統一の仕方は、Bさんにとって、法律よりも「有利」になる取り扱いをしているため、法律的に問題ありません(労働基準法に違反しない)。

なお、基準日については、どの日でも構いませんが、実務上は、やはり「4月1日」に基準日を設ける会社が多いように感じます。

その理由としては、一般に新入社員が入社する日であること、事業年度の区切りとしてわかりやすいこと、従業員にとって覚えやすいこと等が挙げられます。

基準日を年1回にすることのデメリット

上記の【ルール②】の方法で年1回の基準日を設けて基準日を統一することにより、事務手続は簡便になりますが、その一方で、デメリットとして、「従業員間に不公平感が生じやすい」という点が挙げられます。

具体的には、【ルール②】によると、入社のタイミングによって、従業員に有給休暇が与えられるまでの日数が異なることになります。

例えば、【ルール②】において、Bさんの入社した翌年の1月1日に中途社員のCさんが入社したとします。

このCさんは、入社日に10日間の有給休暇が特別付与され、その後、会社の基準日である4月1日に11日間の有給休暇が与えられることになります。

すると、「入社後、次回の有給休暇が与えられるまで」の期間で、BさんとCさんを比較したときに、Bさんは11ヵ月、Cさんは3ヵ月となり、Cさんの方が得をする(入社後、次回の有給休暇が早く与えられる)結果となります。

つまり、【ルール②】によると、入社後、次回の有給休暇が与えられるまでの期間について、入社日によって、最大で1年近く(4月2日入社の従業員は、次回の有給休暇が翌年の4月1日に与えられる。一方、3月31日入社の従業員は、次回の有給休暇が翌日の4月1日に与えられる)の差が生じ、従業員間で不公平感が生じることがあります。

不公平感を解消する方法

上記のとおり、基準日を年1回とする場合には、従業員間の不公平感が生じやすいといえますが、不公平感を少しでも解消する方法として、次のように、従業員の入社月に応じて、入社日に与える有給休暇の日数を調整する方法があります。

入社月 4~9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
入社月の付与日数 10日 9日 7日 5日 3日 1日 0日

10月から3月の間に入社した従業員は、4月から9月の間に入社した従業員との不公平感を解消するために、入社月に応じて、段階的に有給休暇の日数を減らしていきます。

図-6の例で、Bさんは、入社後、次回の基準日(4月1日)まで、11ヵ月間待たないといけませんが、それまでの有給休暇の日数は10日間あります。

一方、Cさんは、入社後、次回の基準日(4月1日)まで、3ヵ月待つだけであるものの、それまでの有給休暇の日数は3日間しかありません。

このように、基準日を年1回に統一すると、入社のタイミングによって、次回の有給休暇が与えられるまでの期間に不公平感が生じるため、入社日に付与する日数を調整することによって、バランスをとろうとするものです。

基準日を年1回にする場合のバリエーション

さらに、上記【ルール②】で紹介したバリエーションとして、以下のような制度を導入している会社もあります。

【ルール②(バリエーション)】

  • 4月から9月までの間に入社した従業員については、初回の有給休暇の発生については、法定どおり(入社日後、6ヵ月の経過)、有給休暇を与える。
  • 10月から3月までの間に入社した従業員については、基準日(4月1日)までは有給休暇を与えない。

これは、初回の有給休暇に限って、法定どおりに与えることによって、初回の有給休暇の付与日が法律(入社日から6ヵ月経過)を下回らないように工夫するものです。

6月1日に入社した中途社員のDさんは、法律どおり、入社日から6ヵ月経過後の「12月1日」に初回の有給休暇を与えられます。

そして、翌年4月1日に会社の基準日を迎え、11日間の有給休暇が与えられます。

これは、初回の有給休暇を法律どおりに与えているため、当然ながら、法律上違法になることはありません。

一方、10月から3月までの間に入社した従業員については、基準日(4月1日)までは有給休暇を与えません。

これは、この期間に入社従業員は、基準日までの期間が6ヵ月未満であるため、わざわざ有給休暇を与えなくても、法律よりも不利になるおそれがないためです。

この方法によるデメリットは、やはり入社日によって有利、不利があるという点です。

その差が最も顕著に表れるのが、9月30日入社の場合で、この従業員は、入社日から6ヵ月経過後の3月30日に法定どおり10日間の有給休暇が与えられ、その後すぐに4月1日の基準日に11日間の有給休暇が与えられることとなります。

基準日を年1回にそろえることは、会社としては労務管理が簡便になりますが、制度上どうしても不公平感が生じてしまいます。

そこで、次に紹介する、「基準日を年に2回設ける」ことにより、このような不公平感を軽減することが可能になると考えます。

基準日を年2回(例として「4月1日」と「10月1日」)で統一する場合

基準日を年に2回設ける場合のルールとして、例えば次のような例が挙げられます。

【ルール③】

  • 基準日を毎年2回、4月1日と10月1日とする
  • 4月1日から9月30日に入社した従業員は、基準日を10月1日とする
  • 10月1日から3月31日に入社した従業員は、基準日を4月1日とする

6月1日に入社した中途社員のEさんは、入社後初めて迎える基準日である「10月1日」に10日間の有給休暇が与えられることになります。

Eさんは、労働基準法によれば、入社日から6ヵ月が経過した、「12月1日」に10日間の有給休暇が与えられるべき立場にあります。

すると、このような基準日の統一の仕方は、Eさんにとって、法律よりも「有利」になる取り扱いをしているため、法律的に問題ありません(労働基準法に違反しない)。

また、12月1日に入社した中途社員のFさんは、入社後初めて迎える基準日である「4月1日」に10日間の有給休暇が与えられることになります。

これもEさんと同様、Fさんにとって、法律よりも「有利」になる取り扱いをしているため、法律的に問題ありません(労働基準法に違反しない)。

この方法によれば、【ルール②】のように、わざわざ入社日に一定の有給休暇を与えなくても、入社日に応じた基準日に有給休暇を与えるだけで、法律上の要件をクリアできることになります。

しかし、制度設計上のデメリットとして、どうしても、「入社のタイミングによる不公平感」が生じることになります。

これは、基準日に近いタイミング(例えば9月30日や3月31日など)に入社した従業員は、入社後、すぐに有給休暇を与えられることによるものです。

不公平感を解消する方法

入社したタイミングによる不公平感を解消するために、例えば、入社月に応じて、次のように有給休暇を与えることが考えられます。

入社月 入社日の付与日数 基準日
4月・5月 2日 10月1日
6月・7月 1日
8月・9月 0日
10月・11月 2日 4月1日
12月・1月 1日
2月・3月 0日

図-9のように、入社月によって、4月など基準日から遠いタイミングで入社した従業員については、特別に一定日数の有給休暇を入社日に与えることによって、3月など基準日近くに入社した従業員との不公平感を解消することを目的としています。

基準日について、年3回や年4回とすることも、もちろん可能です。

しかし、それによって「有休管理の煩雑さを解消する」という本来の目的から遠ざかってしまうことも否めません。

有給休暇の斉一的取扱いにおいては、「費用対効果」、つまり、会社の有休管理の煩雑さの軽減と、従業員の不公平感の解消という2つのバランスをいかにとりながら制度設計するか、が重要な検討ポイントとなります。

有給休暇の斉一的取扱いに関する行政通達

最後に、有給休暇の斉一的取扱いに関する行政通達(平成6年1月4日基発第一号)を説明します。

以下、〔中略〕としているのは、通達の文書内にある「分割付与」に関する記載を省略するものです。

【年次有給休暇の斉一的取扱い】

年次有給休暇について法律どおり付与すると年次有給休暇の基準日が複数となる等から、その斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう。)〔中略〕が問題となるが、以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

①斉一的取扱い〔中略〕により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。(例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年の4月1日に11日付与とする場合〔中略〕などが考えられること。)

①については、これまでは説明を割愛していましたが、有給休暇が与えられる要件として、6ヵ月間会社に在籍することに加えて、その間の労働日のうち、8割以上出勤することが求められています。

そこで、有給休暇の基準日を統一した結果、例えば法律では本来5月1日に有給休暇が与えられるところ、基準日を4月1日に統一した場合、短縮された4月1日から5月1日の期間は、「出勤したもの」として出勤率を算定する必要があることを意味しています。

②については、一度基準日を設けたならば、その次年度以降も、同様に繰り上げる必要がある、という当然のことを確認的に示しています。

有給休暇の斉一的取扱いを行う際には、行政通達における2つの要件をクリアする必要がある、ということに留意しましょう。

まとめ

有給休暇の斉一的取扱いについては、運用の仕方によっては違法になり得ること、従業員に不公平感が生じる可能性があることを理解しておきましょう。

また、一度制度として導入すると、従業員の既得権となりますので、その後、有給休暇の日数を減らしたり、制度そのものを廃止する際などにおいて、「不利益変更」との兼ね合いで法的な問題が生じる可能性もあります。

したがって、巷の規定例などを安易に用いることなく、しっかりと制度を理解した上で、自社にあった制度を慎重に検討することをお勧めします。

ABOUT ME
上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。