労働基準法

【労働基準法】付加金とは?法114条の要件・対象となる賃金・裁判例などを解説

労働基準法第114条では、「付加金」について定めています。

付加金については、会社による悪質な残業代の未払いなどがあった場合に、会社がその未払額の倍額を支払うリスクがあることはご存知の方も多いと思います。

今回は、労務の実務に携われている方を対象に、付加金の支払いが命じられるための要件や、関連する裁判例など、付加金について少し掘り下げた内容を解説します。

付加金とは?

「付加金」とは、簡単にいうと、会社が残業代など一定の賃金の支払いを怠った場合に、裁判所が、会社に対して、未払いの賃金を支払うことに加え、これと同額の支払いを命じることができる制度をいいます。

会社からすると、本来の未払い額の倍額の支払いを命じられるリスクがあるため、付加金の存在は大きいといえます。

付加金制度は、会社に付加金の支払いという、経済的な不利益を、いわば制裁的に課すことによって、会社が労働基準法に定められた賃金の支払義務を確実に履行することを目指すものです。

付加金の発生要件(労働基準法第114条)と対象対象となる賃金

付加金の支払義務が生じるための要件は、次の3つです(労働基準法第114条)。

【重要】付加金の支払義務の発生要件

  1. 会社が従業員に支払うべき、一定の「未払金」があること
  2. 従業員から付加金の「請求」があること
  3. 裁判所による付加金の「支払命令」があること

上記3つの要件をすべて満たす場合に限り、会社に付加金の支払義務が生じるものであり、どれか1つでも要件を欠いていると、付加金の支払義務は生じません

【要件①】会社が従業員に支払うべき、一定の「未払金」があること

「未払金」とは、労働基準法(以下、「法」といいます)によって、会社が従業員に対して支払わなければならない義務が定められている賃金のうち、違法に支払われていないものをいいます。

付加金は、あらゆる未払金について認められるものではなく、その対象を次の4つの賃金に限定しています。

【付加金の対象となる賃金】

  • 解雇の際の予告手当(法20条)
  • 休業手当(法26条)
  • 割増賃金(時間外・休日・深夜労働)(法37条)
  • 有給休暇を取得した際の賃金(法39条9項)

上記の4つの賃金が未払いになっている場合には、付加金の発生要件①を満たすこととなります。

なお、付加金とは別に、上記の賃金の支払義務に違反した場合には、労働基準法上の刑事罰(罰金など)が科されます(法119条、120条)。

・解雇の際の予告手当(法20条)

会社が従業員を解雇する場合には、その30日前に予告をしなければならず、30日前に予告をしない場合には、30日以上分の賃金を支払う義務を負います。

・休業手当(法26条)

会社の一方的な理由によって、従業員がやむなく休業をした場合、会社は休業手当として、従業員に対して平均賃金の60%以上を支払う義務を負います。

・割増賃金(時間外・休日・深夜労働)(法37条)

会社が従業員に、法定労働時間を超えて労働をさせた場合には、25%以上の割増賃金を支払う義務を負います。

また、法定休日労働をした場合には35%以上の割増賃金を、深夜労働(22時から5時)をした場合には25%以上の割増賃金を支払う義務を負います。

・有給休暇を取得した際の賃金(法39条9項)

従業員が有給休暇を取得した際、会社は原則として通常賃金または平均賃金を支払う義務を負います。

【要件②】従業員から付加金の「請求」があること

前述の賃金が未払いの状態にある場合で、話し合いでもその状態が解消されない場合には、最終的に従業員は会社に対して裁判による訴えを起こすことになります。

このとき、従業員から、会社に対して未払金を支払うように請求することはもちろんですが、従業員は、その未払金に加えて、それと同額の付加金も支払うよう請求することができます。

ただし、裁判で付加金を請求するかどうかは、あくまで従業員の意思にゆだねられています

したがって、従業員が付加金を請求しなければ、会社に付加金の支払義務が生じることはありません。

【要件③】裁判所による付加金の「支払命令」があること

付加金は、裁判所による「付加金の支払命令」があって、その支払義務が最終的に確定します。

そして、会社に付加金の支払いを命じるかどうかは、あくまで裁判所の裁量にゆだねられており、裁判所は、その判断によって、付加金の支払いを命じないこともできますし、また、命じるとしても、その金額がいくらになるのかは、裁判所の判断によって変わります。

参考までに、付加金に関する労働基準法の条文は以下のとおりです。

(付加金の支払)第114条

裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。

裁判で付加金の支払いが命じられる悪質なケースとは?

付加金について、裁判所が支払いを命じるかどうか、また、支払いを命じるとしても、その金額をいくらにするのかは、一般的に以下の内容を考慮して判断すると考えられています(松山石油事件 大阪地方裁判所平成13年10月19日判決)。

【付加金の支払命令において考慮される内容】

  • 会社による法律違反の程度、態様
  • 法律違反に至った経緯
  • 従業員が受けた不利益の性質、内容
  • その後の会社の対応などの諸事情

要するに、会社の法律違反の度合いや、その後の対応などの事情を考慮した結果、「悪質さ」がどの程度認められるかによって、付加金が認められる可能性が高まり、認められた場合の金額も高額になり得るといえそうです。

付加金については、個別の裁判の事情が大きく影響するため、明確な線引きをすることはできませんが、過去の裁判例をみると、例えば次のような事情がある場合には、悪質であるという印象を裁判所に与えやすくなるといえるのではないでしょうか。

  • 36協定を締結することなく、従業員に時間外労働や深夜労働を行わせた上に、その割増賃金の支払いを怠っていたこと(朝日急配事件 名古屋地方裁判所昭和58年3月25日判決)。
  • 管理監督者ではないことが明らかな従業員について、かなりの時間外労働を行わせた上に、割増賃金を支払わない運用をしていたこと(H会計事務所事件 東京地方裁判所平成22年6月30日判決)
  • 会社がタイムカードを導入しないなど、自ら出退勤管理を怠り、そのために相当長期間の超過勤務手当が支給されずに放置されており、労働基準監督署からもその旨の是正勧告を受けていたこと(ゴムノナイキ事件 大阪高等裁判所平成17年12月1日判決)
  • 会社は従業員の雇用期間を通じて時間外手当の支払いを怠ってきたこと、および、元従業員が内容証明郵便によって時間外手当を請求したにも関わらず、会社が誠意ある対応をしてこなかったこと(Aラーメン事件 仙台高等裁判所平成20年7月25日判決)

上記のケースに対して、事情によっては、会社側の付加金を課すことが不相当であると認められるケースもあります。

例えば、会社による賃金の未払いが、「単に、労働基準法などの法律の正確な知識を欠いていたことの結果に過ぎない」と判断され、付加金の支払いを命じることは酷として、付加金を免れたケースもあります(江東運送事件 東京地方裁判所平成8年10月14日判決)。

付加金は労働審判の場合にも命じられるのか?

結論からいうと、付加金は労働審判の場合には認められません

労働審判は、訴訟の前段階の手続として用意されている制度であり、労働審判委員会が、会社と従業員の間に入り、調停を試みることによって、トラブルを迅速に解決しようとする制度をいいます。

付加金は、裁判所の「判決」によって命ぜられるものです。

労働審判は、労働審判委員会が行うものであり、判決は裁判所によってしか行うことはないため、労働審判によって付加金の支払いを命じることは認められません。

付加金にも遅延損害金が発生するのか?

付加金は、付加金が命じられた裁判所の判決によって、その支払い義務が確定します。

したがって、判決が確定したにも関わらず、会社が付加金を支払わないときには、その付加金に対して遅延損害金が生じます。

付加金の支払請求権の遅延損害金は、付加金の支払いを命ずる判決が確定した日の翌日から、支払い済みの日まで、民法所定(第404条)の年5%の割合で計算された金額が付されます(江東ダイハツ自動車事件 最高裁判所昭和50年7月17日判決)。

まとめ

付加金は、裁判になったからといって、必ず命じられるものではありませんが、会社としては、やはり労務リスクの一つとして、無関心では問題があると考えます。

特に、時間外労働に対する残業代は、時効が2年であることもあって、未払金が高額になる傾向があるため、付加金が命じられることによる影響も大きくなります。

少なくとも、付加金の対象となる4つの賃金については、果たして未払いになっているものがないかどうか、今一度、再確認していただきたく思います。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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