労働基準法

【36協定】従業員(労働者)過半数代表者の選出方法と手続について

36(さぶろく)協定は、原則として、従業員が残業(正確には、「時間外労働」といいます)をする場合に、事前に締結しなければならない書面です。

36協定を締結しないと、法的には、たとえ1分でも従業員を残業させることはできません。

36協定の締結においては、「何時間まで残業できるようにするのか」や、「特別条項の内容をどうするか」など、主にその中身について議論されがちですが、実は、36協定を締結する当事者となる「従業員の過半数代表者」の選任が、36協定を適法に締結するための要件として、とても重要です。

従業員の過半数代表者を適法に選出していない場合、最悪の場合、36協定の効力自体が否定されてしまう(法的に無効とされる)ことになるばかりか、悪質であると評価される場合には、労働基準法による罰則が適用されることもあります。

そこで、今回は、従業員の過半数代表者を選出するための要件や選出方法について、しっかりとご説明しますので、ぜひ36協定を締結する際には、この記事をご参考にしてください。

なお、この記事では、時間外労働に関する基本的な知識については説明していませんので、必要に応じて以下の記事をご覧ください。

【働き方改革法】時間外労働(残業時間)の上限規制(36協定)働き方改革法(2018年6月29日成立)によって労働基準法が改正され、時間外労働(残業時間)について上限が定められました。 法律の...
この記事でわかること
  • 36協定の締結における、従業員の過半数代表者を適法に選出するための要件、選出方法などがわかります。

36協定の締結当事者

はじめに、36協定の締結当事者を確認しましょう。

36協定の協定当事者は次のとおりです。

  • 使用者
  • 従業員の過半数代表者または過半数労働組合

使用者側については、法人の場合には会社(押印は代表取締役名義)、または個人の場合には代表者が当事者になります。

一方、従業員側については、選挙などによって選ばれた事業場の過半数を代表する者か、または従業員の過半数が加入する労働組合がある場合には、その労働組合が当事者になります。

この記事では、労働組合があるケースについては説明を割愛します。

従業員の過半数代表者の要件【重要】

従業員の過半数代表者を適法に選任するための要件は、次の3つです。

【従業員の過半数代表者の要件】

  1. 従業員の過半数を代表していること
  2. 選出に当たっては、すべての従業員が参加した民主的な手続がとられていること
  3. 管理監督者に該当しないこと

以下、それぞれの要件について順に説明します。

従業員の過半数代表者の選出方法(決め方)

まず、要件①の「従業員の過半数を代表していること」についてご説明します。

この要件をクリアするために、次の点を確認してください。

  • 選出する事業場の単位の確認
  • 従業員の母数の確認

選出する事業場の単位の確認

36協定は、「事業場ごと」に締結する必要があります(「会社ごと」ではありませんので、ご注意ください)。

したがって、従業員の過半数代表者についても、事業場ごとに、それぞれ選任する必要があります

事業場ごとに選任しなければならない理由は、本社と工場など、事業場が違えば、労働条件や労働環境などの事情も異なるため、やはりその事業場の事情に精通し、適切に従業員の意見を反映できる代表者が36協定の締結をする必要があると考えられるためです。

事業場は、主に場所的に離れているかどうかによって判断されます。

例えば、東京に本社があり、大阪に支店がある場合には、2つの事業場を有する会社ということになります。

そして、この場合には、従業員の過半数代表者は、本社と支店でそれぞれ1名ずつ選出する必要があります。

従業員の母数の確認

次に、事業場ごとに、何人の従業員がいるのかを正確に把握する必要があります。

分母を正確に把握しないと、過半数要件を満たしているかどうかを正確に判断できないため、母数のカウントが重要になります。

母数のカウントは、原則として、その事業場で雇われている、すべての従業員を数えてください。

ただし、以下の従業員については、少し判断に迷う場合があると思いますので、念のため確認しておいてください。

  • パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員…従業員数に含む
  • 派遣社員…従業員数に含まない
  • 管理監督者…従業員数に含む
  • 役員…従業員数に含まない(原則)
  • 休職中の社員…従業員数に含む(協定期間中に出勤することがまったく予想されない場合でも含む)

派遣社員については、派遣の会社において、従業員のカウントに含められます。

管理監督者は従業員の過半数代表者になることはできません(詳細は後述)が、過半数の分母の算定においては頭数に含まれることに注意してください。

従業員の過半数代表者の要件と選出方法

次に、要件②の「選出に当たっては、すべての従業員が参加した民主的な手続きがとられていること」についてご説明します。

36協定で締結する内容は、従業員にとって重要な利害関係があるため、簡単に手続を済ませてしまえるような軽いものではありません。

だからこそ、その手続に際しては、従業員の意思をしっかりと汲み取り、それを会社に伝え、意見を表明できる代表者を選出することがとても重要になります。

そこで、すべての従業員の意思を反映するために、その手続を民主的なものにすることが求められています。

民主的な手続と認められるものの例は、以下のとおりです。

従業員の過半数代表者の選出方法として認められるもの

  1. 挙手による選出
  2. 投票による選出
  3. 同意書の回覧による選出
  4. 電子メール社内イントラネットによる選出

①②の挙手・投票による選出は、例えば、その事業場の全員が参加するような、朝礼や集会などの場で、「36協定の締結のために、従業員の代表者として立候補する方は挙手してください」などのアナウンスをして、その場の多数決で決めたり、複数の立候補者がいる場合には、投票などによって代表者を決めたりするような場面をイメージしてください。

また、選出された代表者について、確かに過半数の従業員が同意していることを記録として残しておくために、③の同意書や確認書を回覧し、従業員に署名・押印を求めることもあります。

④については、電子メールや社内イントラネットを用いて、立候補者を募り、当該立候補者について、各従業員の賛否の意思表示を会社に対してメールなどで送信する手続です。

法律では、どのような手続を行ったのかについて、記録を残すことまでは求められていません。

しかし、労務トラブルを防止するためにも、同意書やメールなど記録が残るようにして、必ず記録を保管しておくべきだと考えます。

従業員の過半数代表者の選出方法として認められないもの

以下の方法は、従業員の意見がまったく反映されないため、民主的な手続とはいえません。

  1. 会社が指名した者を代表者にする
  2. 一定の役職者(課長や係長など)が自動的に代表者になる
  3. 親睦会などの代表者が自動的に代表者になる

なお、③については、実際に裁判で争われた事例で、会社は敗訴しています(「トーコロ事件」最高裁判所判決 平成13年6月22日)。

選出方法の36協定への記載

36協定の書面においては、締結当事者の欄に、「職名・氏名」と、「選出方法」を記載する必要があります。

36協定を締結する際には、以下の図の赤枠内に、当該事項を記入してください。

従業員の過半数代表者の役割と権限とは

従業員の過半数代表者の役割

従業員の過半数代表者は、所属の事業場において、従業員の団体意思を取りまとめ、会社に対してそれを伝える役割を担っています。

権限

従業員の過半数代表者の権限としては、36協定に記載された内容について会社と協議し、必要があれば内容の変更を求め、最終的に署名・押印するか否かを決定する権限があります。

管理監督者は従業員の過半数代表者になれない

冒頭の要件③の「管理監督者に該当しないこと」について、ご説明します。

管理監督者とは

管理監督者とは、従業員を管理監督する立場にあり、出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けずに働く従業員をいいます。

管理監督者に該当すると、労働時間や休憩など、労働基準法の一部の適用が除外されます(労働基準法第41条)。

会社においては、課長職や部長職が該当することが一般的ですが、安易に「管理職イコール管理監督者」と解釈してはならず、役職名に関係なく、あくまでその実態がどうであるのかが重要になります。

管理監督者に該当するかどうかは、法的に多くの論点があるため、単純に「課長以上は管理監督者とする」などの線引きをすることはリスクがあります。

したがって、判断に際しては、労働基準監督者や弁護士・社労士などに相談することをお勧めします。

管理監督者は、「経営者と一体的な立場にある」と捉えられるため、従業員の意思を正しく反映できないと考えられており、したがって従業員の過半数代表者になることはできないとされています。

管理監督者に投票権はあるか

一方で、管理監督者は、従業員の過半数を判断する際の母数のカウントには含められることに注意してください。

また、管理監督者は、従業員の過半数代表者を選出する際の投票などにも参加できますので、36協定の手続におけるすべての場面で除かれるわけではないことに注意してください。

従業員の過半数代表者の任期と途中退職した場合の取り扱い

任期

従業員の過半数代表者は、原則的には、協定を締結する都度、その目的を明らかにして、選出する必要があります。

しかし、実務では、従業員の過半数代表者について、任期を設けることがあります。

そして、その任期の中で発生する就業規則の制改訂や労使協定の締結について、同じ代表者が意見を述べることとしても、法的には問題ありません。

従業員の過半数代表者の任期は、法律上はとくに定められていません。

実務上は、毎年1回、任期を1年として従業員の過半数代表者の任期を設けている会社も多い印象です。

ただし、一度選任して、その後あまりに長い任期を設けてしまうと、果たして従業員の意思をきちんと反映できているとは言い難い状況になるため、任期については、最長でも1年と考えておくべきでしょう。

期間の途中で退職などがあった場合

従業員の過半数代表者が、36協定の締結後、その期間中に転勤、退職、死亡した場合でも、その協定の効力はなくならない(そのまま存続する)と解されています。

また、同様に、期間の途中で昇進し、管理監督者になった場合でも、その協定の効力はなくなりません。

管理監督者ではないことは、36協定を有効に締結するための「成立要件」であって、協定の「存続要件」ではないと解されているためです。

従業員の過半数代表者に対する不利益取り扱いの禁止

会社は、従業員の過半数代者が、36協定の締結に際して、同意をしなかったことや、会社に意見をしたことなどを理由として、不利益な取り扱いをしてはならないことが労働基準法によって定められています。

何をもって不利益な取り扱いに該当するのかについては、法律に定めはありませんが、一般的には、理由のない不合理な減給や降格などの人事異動、解雇などの取り扱いが該当します。

まとめ

従業員の過半数代表者の選出は、36協定を適法に締結するうえで非常に重要な手続です。

選出の際には、この記事の内容をご参考にしていただき、面倒でもしっかりと手続きを進めてください。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。