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【2021法改正】中途採用比率の公表義務化|公表内容・公表方法・比率の計算方法を解説

2021(令和3)年4月1日に「労働施策総合推進法」が改正され、対象企業には中途採用比率を公表することが義務付けられます。

ごく簡単に法律の内容を説明すると、「雇用する従業員数が301人以上の大企業は、従業員に占める中途採用者の割合を、定期的に公表しなければならない」とするものです。

一般に、中途採用の比率は、企業規模が大きくなるほど減少する傾向(新卒採用を重視する傾向)にあります。

中途採用比率の公表義務化によって、主に大企業における中途採用の動きを見える化・活性化させることにより、中途採用に関する環境整備・雇用の促進を図りたい、という政府の思惑があります。

改正される法律と施行日

改正される法律

改正される法律は、「労働施策総合推進法」(正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)と、その施行規則です。

施行日

改正法の施行日は、2021(令和3)年4月1日です。

ただし、施行日の時点ですでに中途採用比率を公表していなければならない、という必要はなく、会社は、「法律の施行後、最初の事業年度内に、可能な限り速やかに公表を行う」こととされています(厚生労働省「中途採用比率の公表における解釈事項等について(2021年2月9日公開)」(以下、「厚生労働省解釈」といいます)Q17)。

したがって、法律の施行日時点で中途採用比率を公表していなければ、直ちに法律違反になるというものではありません。

参考(労働施策総合推進法)

改正によって、労働施策総合推進法において、新たに条文(第27条の2)が1条追加されました。

ご参考に、条文の内容を掲載します(下線は筆者によります)。

労働施策総合推進法

第7章 中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等

第27条の2

常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者の数に占める中途採用(新規学卒等採用者(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(小学校及び幼稚園を除く。)その他厚生労働省令で定める施設の学生又は生徒であって卒業することが見込まれる者その他厚生労働省令で定める者であることを条件とした求人により雇い入れられた者をいう。)以外の雇入れをいう。次項において同じ。)により雇い入れられた者の数の割合を定期的に公表しなければならない

2 国は、事業主による前項に規定する割合その他の中途採用に関する情報の自主的な公表が促進されるよう、必要な支援を行うものとする。

公表義務の対象となる企業

公表義務の対象となるのは、法律上、「常時雇用する労働者が301人以上の企業」とされています。

ここで、「常時雇用する労働者」とは、雇用の形態(正社員であるかパートであるか、など)を問わず、次のいずれかを満たす従業員をいいます(令和3年2月9日 職発0209第3号)。

【常時雇用する労働者】

  1. 期間の定めなく雇用されている者
  2. 一定の期間を定めて雇用されている者であって、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者
  3. 一定の期間を定めて雇用されている者であって、雇入れの時から1年以上引き続き雇用されることが見込まれる
②と③は、契約社員やパートなどの雇用形態であっても、雇用期間が1年を超えている場合(またはそれが見込まれる場合)には、事実上①と同等にあるものとして、「常時雇用する労働者」に含まれます。

公表する内容

会社が公表しなければならないのは、「正規雇用労働者の採用者数に占める、正規雇用労働者の中途採用者数の割合」とされています(「厚生労働省解釈」Q2)。

あくまで、公表する義務があるのは、中途採用者の「割合」のみとされています。

したがって、例えば、中途採用者が10人であるなど、採用人数まで公表する義務はありません。

なお、会社の判断によって、採用人数や、男女別の中途採用比率などを公表することは問題ありません。

中途採用の定義

「中途採用」とは、「新規学卒等採用者以外」の雇い入れであって、「正規雇用労働者として採用した者」をいいます

ここで「新規学卒等採用者」とは、新たに学校・専修学校を卒業した者、職業能力開発促進施設(職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、障害者職業能力開発校)、職業能力開発総合大学校の行う職業訓練を修了した者であることを条件とした求人により雇い入れられた者をいいます。

なお、新規学卒者と同じ採用枠で採用した者など、新規学卒者と同等の処遇を行う者についても、これに準ずるものとして取り扱われます。

また、「正規雇用労働者」とは、厳密な定義をいうと「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の第2条における「通常の労働者」をいうとされています。

基本的には、いわゆる「正規型の従業員」を意味するものとして解釈しておけば問題ありません(「厚生労働省解釈」Q11)。

中途採用率の計算方法(中途採用率の出し方)

中途採用率は、次の計算で算出します。

【中途採用率の計算式】

正規雇用労働者のうち中途採用者数÷正規雇用労働者の採用数×100

中途採用比率の計算の結果、生じた端数の処理については、原則として、小数点以下第1位を四捨五入した整数値で公表することとされています(「厚生労働省解釈」Q25)。

【計算例】

  • 一事業年度における正規雇用労働者の新規採用者の人数…46人
  • 正規雇用労働者である中途採用者の人数…16人

(計算)

16÷46=0.34782…

(公表する数値)

35%

なお、事業主の判断で小数点以下の値(上記の計算例では、34.8%)まで公表することは差し支えありません。

公表する具体的方法

中途採用比率を公表する具体的方法は、次のとおりです(労働施策総合推進法 施行規則第9条の2)。

【中途採用比率の公表の具体的方法】

  1. おおむね、1年に1回以上公表する
  2. 直近の3事業年度について公表する
  3. インターネットの利用その他の方法により公表する
  4. 求職者等が容易に閲覧できるように公表する

「直近の3事業年度」とは?(②)

「直近の3事業年度」とは、各事業年度における正規雇用労働者の採用活動が終了し、正規雇用による中途採用者の状況を「見える化」することができる状態となった時点の、最新の事業年度を含めた3事業年度を指します。・「直近の3事業年度」とは?(②)

(以下、厚生労働省リーフレットより引用)

【例】4月1日~3月31日を事業年度とする会社が、2021年8月31日に公表を行う場合

2021年8月31日の公表時点において、2021年度の採用活動が継続中であり、公表が可能な事業年度(中途採用比率が確定している事業年度)が2018年度・2019年度・2020年度である場合は、2018年度~2020年度までの3事業年度の情報を公表する。

なお、直近の3事業年度を一括して(まとめて)計算・公表するのではなく、事業年度ごとに計算して、毎年公表する必要があります(「厚生労働省解釈」Q23)。

「インターネットの利用その他の方法」とは?(③)

「インターネット」とは、原則として自社のホームページを利用することをいいます。

また、厚生労働省がインターネット上に開設する「職場情報総合サイト「しょくばらぼ」の利用もこれに含まれるとしています(「厚生労働省解釈」Q20)。

「その他の方法」とは、インターネット以外の方法として、例えば、日刊紙への掲載や、事業所への掲示・書類の備え付けなど、一般の求職者が容易に閲覧できる方法(どこに情報が掲載されているかが明確になっている方法)をいいます。

なお、そもそもの採用を行っていない年がある場合には、公表を行わないのではなく、「当該事業年度は採用を行わなかった」旨を記載して公表することとされています(「厚生労働省解釈」Q24)。

公表義務に違反した場合の罰則

中途採用比率の公表義務に違反した場合の罰則規定は、特に設けられていません

なお、労働施策総合推進法の第33条では、「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。」と定められていることから、会社が中途採用比率の公表義務に違反している場合には、何らかの行政指導が行われる可能性はあります。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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