2019年4月1日に労働基準法が改正され、年5日の有給休暇の取得が義務付けられることとなりました。
各会社においては、法律の改正に伴い、就業規則の記載の改訂を検討されていることと思います。
そこで、今回は、有給休暇の取得義務に関する就業規則の記載例(ひな型)をご紹介するとともに、関連する労使協定の記載例なども併せてご紹介します。
なお、有給休暇の取得義務化に関する基本的な知識については、以下の記事をご覧ください。
- 「有給休暇の取得義務」に関する就業規則の記載例をご紹介します。
- 「有給休暇の計画的付与」に関する就業規則と労使協定の記載例をご紹介します。
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Contents
有給休暇の取得義務と、就業規則への記載の要否
まず、有給休暇に関連する事項については、法律により、「就業規則に必ず記載しなければならない」と定められています(労働基準法第89条)。
これを就業規則の「絶対的必要記載事項」といいます。
したがって、有給休暇の取得義務化に伴い、会社が有給休暇の時季指定を行う場合には、その内容を就業規則に記載しなければなりません。
就業規則の記載例(ひな型)
有給休暇の取得義務に関する一般的な記載例
有給休暇の取得義務に関する就業規則の記載例として、以下のような定めをすることが考えられます。
年次有給休暇が10日以上与えられる従業員【注①】に対しては、原則として、有給休暇が付与された日から1年以内に【注②】、当該従業員の有する年次有給休暇の日数のうち5日【注③】について、会社がその従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して【注④】取得することとします。
ただし、従業員がこの規定の定めによることなく、自ら年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除【注⑤】することとします。
記載例の解説
以下、注①から⑤について解説します。
【注①】については、法律上、有給休暇の取得が義務付けられる対象は、「有給休暇が10日以上与えられる従業員」です。
なお、法律上、入社日から6ヵ月が経過した従業員には、原則として10日間の有給休暇が与えられます。
例えば、4月1日に入社した従業員は、原則として、入社日から6ヵ月が経過した10月1日に10日間の有給休暇が与えられます。
【注②】については、5日の有給休暇は、有給休暇が与えられた日(前述の例では、10月1日)から1年以内に取得することが義務付けられています。
【注③】については、法律どおり「5日」と定めています。
【注④】については、有給休暇は、従業員の希望に応じて自由に取得するのが原則ですが、取得が義務付けられる5日分の有給休暇については、会社が取得日を定める(法律上、これを「時季を指定する」といいます)ことができます。
ただし、この場合でも、あまり一方的に「この日に休みなさい」と強制するようなことは望ましくなく、あくまで、「従業員に意見を聴いたうえで」時季を指定するよう配慮しなければならない、と法律で定められています。
したがって、就業規則においても、きちんと従業員の意見を聴いたうえで、会社が時季を指定すること(会社による強制は行わないこと)を定めておく必要があります。
【注⑤】については、従業員が(会社の時季指定に基づかず)自ら取得した有給休暇がある場合には、その日数分を5日から控除することを定めています。
従業員が自ら5日の有給休暇を取得することができれば、会社による時季の指定をする必要がないためです。
記載例のバリエーション(その1)
例えば、ある程度従業員が自発的に有給休暇を取得することができている会社では、会社による時季の指定を行う範囲を狭めておくことも考えられます。
例えば、以下の記載例のように、まずは、しばらく様子をみて(記載例では6ヵ月間)、もしその間に5日の有給休暇をとることができていない場合に初めて、会社が時季を指定することが考えられます。
従業員の意見聴取と時季の指定は、基準日から6ヵ月が経過した時点において、有給休暇を取得した日数が5日に満たない従業員に対して行うこととします。
記載例のバリエーション(その2)
例えば、実務上、会社が従業員から意見を聴くに際して、「計画表」や「申請書」などの様式を用いる場合があります。
このような場合には、その際の手続を定めておくとよいと考えます。
会社による意見聴取に際し、従業員は会社に対して「有給休暇の取得計画表」を提出することにより、有給休暇の取得希望日を申告することとします。
また、会社は時季を指定するに際しては、原則として、従業員が申告した取得希望日を指定することとします。
記載例のバリエーション(その3)
例えば、会社が従業員から意見を聴いた際に、業務の都合上、どうしても従業員の希望する日に有給休暇を取得することができない場合があります。
そのような場合に、どのように折り合いをつけるのか、事前に手続を定めておくことが考えられます。
会社は、従業員が有給休暇の取得を希望する日に時季を指定することが困難なときは、従業員と所属長との面談のうえ、あらためて時季を決定することとします。
記載例のバリエーション(その4)
有給休暇は、会社が認めた場合には、半日単位で取得することができます。
そして、有給休暇の取得義務については、半日単位で取得した有給休暇を、5日のカウントに含めることができることとされています(平成30(2018)年12月28日付の通達 基発1228第15号)。
このときの記載例として、有給休暇の時季の指定は半日単位で行うことができること、そしてその場合には0.5日分の有給休暇を取得した取り扱いにすることを定めておくとよいと考えます。
会社が時季を指定して有給休暇を与える場合には、就業規則に定める半日年休を最小単位として与えることができることとします。
この場合には、当該従業員について0.5日分の有給休暇を取得したものとします。
有給休暇の管理簿の作成義務
有給休暇の取得の義務化に伴い、「有給休暇の管理簿」を作成することが義務付けられました。
これ自体は就業規則に記載する必要はありませんが、例えば、会社の所定様式として、有給休暇の管理簿や管理台帳を整備しておく必要があります。
なお、有給休暇の管理簿の詳しい内容については、以下の記事をご覧ください。
有給休暇の「計画的付与制度」を導入する場合
有給休暇の計画的付与制度とは?
「有給休暇の計画的付与」とは、会社と従業員との取り決め(労使協定)によって、あらかじめ「〇月×日に有給休暇をとります」という計画を立てておき、その計画に沿って有給休暇を取得する制度をいいます。
なお、制度の詳しい内容については、以下の記事をご覧ください。
有給休暇の計画的付与制度は、有給休暇の取得義務との相性が良く、従業員による5日間の有給休暇の取得が、計画的に行われるようにするために活用することができます。
有給休暇の計画的付与制度を導入する場合には、就業規則においてその旨を記載したうえで、労使協定によって、その具体的内容を定めることが必要です。
就業規則の記載例(ひな型)
就業規則の記載例としては、以下のように、計画的付与制度によって有給休暇を取得することができることを、簡単に記載しておけば十分であると考えます。
制度の詳細な内容は、別に労使協定で定めるためです。
従業員の代表者との書面による協定により、各従業員の有する年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得することがあります。
労使協定の記載例(ひな型)
労使協定においては、最低限、以下の内容を協定する必要があります。
- 計画的付与の方法(一斉付与・グループ別付与・個人別付与)
- 指定日を変更する際の手続
- 有給休暇が5日に満たない者の取り扱い
計画的付与の方法(①)
会社で一斉に付与する場合
以下の記載例は、すべての従業員が一斉に(同じ日に)有給休暇を取得する場合を想定しています。
例えば、夏季休暇の前後に計画日を入れることで、会社全体の夏季休暇の日数を長くしたり、飛び石の連休の間に計画日を入れることで、いわゆる「ブリッジホリデー」を導入する場合などが考えられます。
(指定日)
従業員が有する本年度の年次有給休暇のうち、5日分については、本労使協定に基づいて、次の日に取得することとします。
一、○月×日
二、○月×日
三、○月×日
四、○月×日
五、○月×日
グループ別・班別に付与する場合
(指定日)
従業員が有する本年度の年次有給休暇のうち、5日分については、本労使協定に基づいて、各グループの区分に応じて、次の日に取得することとします。
一、Aグループ…○月×日~○月×日
二、Bグループ…○月×日~○月×日
個人別に付与する場合
従業員が有する本年度の年次有給休暇のうち、5日分については、本労使協定に基づいて、計画的に取得することとします。
各従業員は、「有給休暇の取得計画表」を、年度の開始する1ヵ月前までに、所属長に提出しなければならないこととします。
指定日を変更する際の手続(②)
次に、事前に計画していた有給休暇の取得日において、会社の事情により、計画日を変更せざるを得なくなった場合の手続について記載しておくことが望ましいと考えます。
(指定日の変更)
この協定の定めにかかわらず、業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員の過半数を代表する者との協議の上、指定日を変更するものとします。
有給休暇が5日に満たない者の取り扱い(③)
入社して間もないなどの理由により、有給休暇がない従業員について、どのように取り扱うかが問題になります。
一斉付与による計画的有給休暇を取得する場合に、このような従業員に一人だけ出勤しなさい、とすることはさすがにできませんので、法律とは別に、特別に休暇を与えるなどの対応が必要になります(個人別付与の場合にはこのような配慮は必要ないと考えます)。
以下の記載例では、有給休暇の日数が5日に満たない従業員については、計画的付与制度の運用において特別休暇を与えることを定めています。
(特別有給休暇の付与)
従業員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた残日数が5日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、指定日に特別有給休暇を与えることとします。
まとめ
有給休暇に関する取り決めは、労働条件の中でも、特に重要な位置づけにあります。
有給休暇の取得義務化に伴い、これを機に就業規則の見直しを行うと共に、最低でも1年に1回は定期的に見直しを行い、就業規則のメンテナンスをしていくことが必要です。