働き方改革に伴う労働基準法の改正により、2019年4月1日から、有給休暇を年5日取得することが義務化されました。
あまり知られていませんが、これに併せて、会社には「有給休暇の管理簿」を作成することが義務付けられます。
比較的大きな会社で、総務や人事の担当者が労務管理を行っている場合には、すでにパソコンのシステムやエクセルシートなどできちんと有給休暇の管理をされていることと思います。
しかし、中小零細企業では、専任の担当者がおらず、「有給休暇の管理にまで手が回らない」という声を聞くことも少なくありません。
そこで、今回は、法律の改正に伴い、これから初めて有給休暇の管理簿を作成する会社(担当者)を対象に、できる限り時間と労力をかけずに、まずは最低限の管理をスタートすることを目標にした、有給休暇の管理の実務をご紹介します。
すでに有給休暇の管理をきちんとしている、という方でも、法律の基本的な知識を併せて解説していますので、知識の再確認にお役立ていただければと思います。
有給休暇の管理簿の作成の義務化
具体的な内容に入る前に、まずは、法律の内容を確認しましょう。
有給休暇の管理簿については、「労働基準法施行規則」の改正により、以下のように定められました(2019年4月1日改正により新設)。
使用者は、法第39条第5項から第7項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第55条の2において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければならない。
これにより、会社は、有給休暇の管理簿を作成して、それを3年間保存することが義務になりました。
さらに、文中にある「第55の2」についてご紹介します。
使用者は、年次有給休暇管理簿、第53条による労働者名簿又は第55条による賃金台帳をあわせて調製することができる。
ここでは、有給休暇の管理簿は、労働者名簿や賃金台帳などとあわせて作成し、管理することができるとされています。
この点については、私は、「罰則はない」とお答えしています。
なぜなら、通達(2018年9月7日基発0907第1号)により、「年次有給休暇管理簿については、労働基準法第109条に規定する重要な書類には該当しない」と定められており、重要な書類に該当しないということは、すなわち労働基準法第120条の罰則(第109条違反)が適用されない、と解されるからです。
有給休暇の管理簿の記載内容と雛型
それでは、具体的に有給休暇の管理簿の記載内容について解説します。
有給休暇の管理簿の様式や書式については、何ら決まりはありません。
したがって、有給休暇の管理簿をどのようなフォーマットにするのかについては自由ですが、前掲の施行規則に基づくと、最低限、以下の内容を記載できるものにする必要があります。
有給休暇の管理簿の記載内容(最低限必要なもの)
- 時季(有給休暇を取得した日付)
- 日数(有給休暇を取得した日数)
- 基準日(有給休暇が与えられた日)
それぞれの具体的な内容については後述するとして、まずはこれら最低限の内容を含んだ有給休暇の管理簿の雛型をご紹介します。
これは、厚生労働省のリーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」を参考に、私が独自に作成したものです。
なお、有給休暇の管理簿は、書面(紙)で作成していただいても、エクセルなどのデータで作成していただいても結構です(2018年12月28日付の通達(基発1228第15号)参照)。
ただし、複雑なエクセル表は、便利な反面、かえって労務管理のハードルを上げてしまうこともあります。
これから有給休暇の管理をスタートする会社については、まずは、当ブログで紹介するようなシンプルな方法で管理を始め、慣れてきたら徐々にグレードアップさせていくことを提案します。
それでは、前掲の雛型の各項目を順に説明していきます。
入社日
「入社日」は、前掲の施行規則では記載することは求められていませんが、有給休暇の管理において重要な日付になりますので、個人的には記載することをお勧めします。
基準日
「基準日」は、前掲の施行規則で記載することが求められています。
基準日とは、簡単にいうと、「有給休暇の権利が発生する日」のことです。
有給休暇は、原則として、入社日から6ヵ月継続して勤務すると、その権利が発生します。
このとき、入社日から6ヵ月が経過した日を基準日といい、さらに、その基準日を起点として1年が経過する日ごとに基準日が訪れ、有給休暇の権利が発生します。
付与日数
「付与日数」は、前掲の施行規則では記載することは求められていませんが、各従業員の有給休暇の残日数を把握するうえで、重要になりますので、個人的には記載することをお勧めします。
付与日数とは、各基準日に権利として発生し、従業員に与えられる有給休暇の日数をいいます。
付与日数は、法律により定められており、これを下回ることができません。
付与日数は、原則として、従業員の勤続年数に応じて増加します。
勤続年数と付与日数の一覧は、以下の表のとおりです。
有給休暇を取得した日
有給休暇を取得した「日付」と「日数」を記載できるようにすることが、前掲の施行規則で求められています。
ここでは、日付欄を複数(最大で20日分)設けることで、同時に取得した有給休暇の日数を管理することができるようにしています。
ケーススタディ
それでは、以下のAさんの事例をもとに、実際に有給休暇の管理簿を埋めてみましょう。
- Aさんは、2019年4月1日に入社した
- Aさんには、2019年10月1日に10日の有給休暇が与えられた
- Aさんは、2019年12月1日に有給休暇を取得した
いかがでしょうか。
それほど難しくはないと思います。
5.の「有給休暇を取得した日」の赤枠内については、基準日から1年以内に、5日の有給休暇を取得させて、その日付を記入してください。
では、Aさんについて、翌年の基準日はどうなるでしょうか。
- Aさんには、2020年10月1日に11日の有給休暇が与えられた
- Aさんは、2020年12月1日に有給休暇を取得した
ポイントは、1枚ごとに、優先的に赤枠内の5日の有給休暇を取得し、基準日から1年以内に5日の有給休暇を取得することができているかどうかを確認することです。
ところで、有給休暇の時効は2年です。
したがって、厳密には、2020年10月1日(入社後、2回目の基準日)の時点では、Aさんには、前年度から繰り越した有給休暇の日数(10日のうち、前年度に取得せずに余った有給休暇の日数)と、2回目の基準日に新たに与えられる有給休暇の日数(11日)とを合計した日数の有給休暇があります。
ここで、もし、Aさんが2020年10月1日(2回目の基準日)以降に取得した有給休暇を、1枚目のシートの続きに記入してしまうと、Aさんが2回目の基準日以降の1年に取得するべきとされる5日の有給休暇をきちんと取得することができたのかどうか、確認しづらくなります。
そこで、各シートについて、まずは、優先的に赤枠内を埋めていくということが必要になります。
そして、各シートについて、赤枠内がすべて埋まりましたら、その後に取得した有給休暇については、1枚目(前年度分)に記入しても、2枚目(今年度分)に記入しても、いずれでも構いません。
このシートの欠点は、従業員がもつ「有給休暇の残日数(前年度分と今年度分を足した日数)」を、やや管理しにくい点にあります。
これは、基準日ごとに新たなシートを作成していく都合上、どうしても致し方ないところです。
まずは、シートごとに「優先的に赤枠内を埋める」という管理を行い、確実に5日の有給休暇を取得させるよう意識することが大切です。
有給休暇管理簿の保存(保管)期間
前掲の施行規則では、「当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後、3年間保存しなければならない」とされています。
したがって、有給休暇の管理簿は、各基準日から1年経過した後、さらに3年間保存する義務があるということになります。
前掲のケーススタディに当てはめると、Aさんの1回目の基準日である2019年10月1日に作成した有給休暇の管理簿は、2020年10月1日から3年経過後の、「2023年10月1日まで」保管する必要があります。
まとめ
今回ご紹介した方法は、あくまで法律どおりに有給休暇を与えた場合を前提にしています。
一般的には、従業員数の増加に伴い、有給休暇を管理する上で「基準日」がネックになってくることが多いといえます。
従業員ごとに、入社日によって基準日が異なるため、労務管理が煩雑になるためです。
そこで、次のステップとして「基準日の統一」なども検討することが必要になってきます。
また、半日単位や時間単位の有給休暇を導入すれば、管理はさらに煩雑になります。
しかし、有給休暇の管理の第一歩目としては、今回ご紹介した内容で十分だと考えます。
有給休暇は、労務管理における従業員満足度を高める上で、欠かせない要素のひとつであることはいうまでもありません。
当ブログが、法律の理解を深め、適切な労務管理をスタートする一助になれば幸いです。