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はじめに
令和3(2021)年6月3日、国会の衆院本会議にて、「出生時育児休業」を新たに設けるなどの内容を盛り込んだ、育児・介護休業法の改正案が可決し、成立しました(同年6月9日公布)。
特に、改正により創設された「出生時育児休業」は、報道などでは「男性版の産休」とも呼ばれ、男性の育児休業の取得を促進するための制度として注目されました。
法律の改正内容は主に5つあり、それぞれ施行されるタイミングが異なるため、会社は、どんな内容の制度がいつからスタートするのか、また、それによってどのような対応が求められるのか、事前に把握しておく必要があります。
そこで、この記事では、今回の育児・介護休業法の改正内容のポイントについて、解説をします。
【関連動画(出生時育児休業の解説動画)はこちら↓】
育児・介護休業法の改正の内容
今回改正される法律は、育児・介護休業法です。
法律の改正内容は、主に次の5つです。
【法律の改正内容】
- 「出生時育児休業」制度の創設(男性版の産休)
- 雇用環境の整備義務・育児休業制度の周知義務・育児休業の取得意向の確認義務
- 育児休業の分割取得
- 有期雇用の従業員の育児休業の取得要件の緩和
- 育児休業の取得状況の公表義務
今回の法改正は、⑤を除き、会社の規模や業種、従業員数などに関係なく適用されるため、中小零細企業であっても対応が必要になります。
「出生時育児休業」制度の創設(男性版の産休)
「出生時育児休業」とは?
「出生時育児休業」は、今回の法律の改正によって、新たに設けられた制度であり、報道などでは「男性版の産休」と呼ばれています。
「出生時育児休業」とは、簡単にいうと、男性が、「子どもの出生後8週間以内」に、「4週間以内」の休業を取得することができる制度をいいます(育児・介護休業法第9条の2)。
一般に、女性にとっての産後8週間は、母体の回復に全力で努める期間とされており、労働基準法でも、原則として産後8週間は女性従業員の就労を禁止しています(労働基準法第65条第2項)。
出生時育児休業は、特にこのような時期に男性の育児参加を促し、配偶者への協力を行うことを目的としています。
分割取得について
出生時育児休業は、2回に分割して取得することが認められます(育児・介護休業法第9条の2第2項)。
2回に分割した場合には、合計で28日を限度として、休業を取得することができます。
分割を利用することにより、例えば、子どもの出生時や妻の退院時に7日間休業し、その後、妻が里帰りから戻るタイミングで残りの21日間休業するようなことが可能になります。
休業の申請について
出生時育児休業の申請は、原則として「育児休業の開始予定日の2週間前まで」に行う必要があります(育児・介護休業法第9条の2第3項)。
改正前の法律でも、男性が産後8週間の期間内に育児休業を取得することは可能でしたが、育児休業の申請期限が1ヵ月前までとされていたことから、法律の改正によって、より柔軟に休業を取得できるように配慮されました。
休業中の就労について
出生時育児休業の期間中の男性従業員であっても、一定の要件を満たす場合には、部分的に働くことが認められます。
ただし、無制限に働くことができないように、働くことができる上限日数や上限時間について、今後、厚生労働省の省令やガイドラインによって定められる予定です。
施行日
出生時育児休業の施行日は、「法律の公布日から1年6ヵ月以内」で政令によって定める日とされています。
法律の公布日は令和3(2021)年6月9日であることから、遅くとも、令和4(2022)年の年末までには施行されることを意味します。
法律の周知期間や準備期間などを考慮すると、予想としては、実際の施行日は令和4(2022)年10月頃になると考えられます。
雇用環境の整備義務・育児休業制度の周知義務・育児休業の取得意向の確認義務
法律の改正により、会社は、育児休業の取得の促進に向けて、次の措置を講じることが義務付けられました。
- 雇用環境の整備などに関する措置を講じる義務
- 育児休業制度の従業員への周知義務
- 育児休業の取得意向の確認義務
雇用環境の整備などに関する措置を講じる義務
①は、従業員が育児休業の申し出や、その取得を円滑にすることができるよう、会社に雇用環境を整備していくことを義務付けるものです。
具体的には、会社は、次のいずれかの措置を選択して講じなければならないと定められています(育児・介護休業法第22条第1項)。
- 従業員に対する育児休業に関する研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備
- その他厚生労働省令で定める雇用環境の整備に関する措置
「研修の実施」を選択するのであれば、例えば、会社内で、定期的に育児休業に関する制度について従業員に向けた研修・講習を開催することなどが考えられます。
研修は、外部の専門家に依頼したり、または人事担当者が社内制度を説明するなどでもよいでしょう。
また、「相談体制の整備」を選択するのであれば、例えば「育児休業に関する相談については、人事部を窓口とする」などと定めて、社内で周知・啓蒙しておくことなどが考えられます。
また、相談窓口になった部署や担当者は、従業員から問い合わせがあった際には的確に対応できるよう事前に準備しておく必要があります。
その他、雇用環境の整備について、具体的にどのような措置が該当するのかについては、今後公表される厚生労働省の省令やガイドラインで定められる予定です。
育児休業制度の従業員への周知義務
従業員本人、または男性従業員の配偶者が妊娠・出産したことを会社に申し出た際に、会社は、当該従業員が利用できる制度について、本人に周知する義務が定められました(育児・介護休業法第21条第1項)。
この周知は、会社の労務担当者などが従業員との面談を実施して行う、もしくは書面に制度内容を記載して交付するなど、複数の選択肢が、今後の厚生労働省の省令やガイドラインによって示される予定です。
育児休業の取得意向の確認義務
会社は、育児休業を取得できる要件を満たしている従業員に対して、育児休業を取得する意向があるのかどうか、面談などによって確認することが義務付けられることとなりました(育児・介護休業法第21条第1項)。
施行日
法律の施行日は、令和4(2022)年4月1日です。
育児休業の分割取得
育児休業の分割取得(2回)
法律の改正により、新制度である出産時育児休業とは別に、その後取得する育児休業についても、2回まで分割することが認められるようになりました(育児・介護休業法第5条第2項)。
ここでいう「育児休業」とは、原則として、子どもが1歳になるまで(最長2歳まで)取得する育児休業(本来の育児休業)のことをいいます。
これにより、男性従業員は、出産時育児休業(出産後8週間以内)に、2回に分割して育児休業を取得し、その後、1歳に達するまで取得する育児休業についても、2回に分割することができるようになります。
つまり、今回の法改正により、1歳に達するまで計4回に分割して育児休業を取得することが可能になったことを意味します。
施行日
育児休業の分割取得についての施行日は、「法律の公布日から1年6ヵ月以内」で政令によって定める日とされています。
法律の公布日は令和3(2021)年6月9日であることから、遅くとも、令和4(2022)年の年末までには施行されることを意味します。
法律の周知期間や準備期間などを考慮すると、予想としては、実際の施行日は令和4(2022)年10月頃になると考えられます。
有期雇用の従業員の育児休業の取得要件の緩和
「有期」雇用の従業員、つまり契約社員などで、雇用期間があらかじめ決まっている従業員についても、育児休業を取得しやすくするために要件が緩和されました。
法律の改正前は、有期雇用の従業員が育児休業を取得するための要件として、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」が必要であるとされていましたが、法律の改正により、この要件が廃止されました(育児・介護休業法第5条)。
ただし、育児休業を取得してから1年6ヵ月が経過するまでに契約が終了することが明らかである場合(例えば、3ヵ月間の雇用契約を締結しており、更新がない場合)には、育児休業を取得することは認められません。
なお、法律の改正後においても、会社が従業員との間で労使協定を締結した場合には、引き続き雇用された期間が1年未満の従業員については、育児休業の取得対象から除くことが認められています。
施行日
法律の施行日は、令和4(2022)年4月1日です。
育児休業の取得状況の公表義務
公表義務の対象となる会社
法律の改正により、常時雇用する従業員数が1,000人を超える会社は、毎年少なくとも1回、育児休業の取得の状況を公表することが義務付けられました。
公表内容
公表内容は次のとおり予定されており、詳細は今後の厚生労働省の省令やガイドラインによって定められる予定です。
【公表内容】
- 男性の育児休業の取得率
- 育児休業と育児目的休暇の取得率
施行日
法律の施行日は、令和5(2023)年4月1日です。