その他の法律

「従業員数」を基準に、法律上対応が必要になる労務管理を解説

はじめに

会社の労務管理においては、労働基準法を始めとして、多数の労働関連の法律が適用されますが、労働関連の法律の中には、会社(または、会社の事業場ごと)の従業員の人数」によって、適用の有無が異なるものがあります。

これにより、従業員数が法律上の基準に達しているにも関わらず、対応を失念していて、必要な労務管理ができていないという事態が生じることがあります。

そこで、このような対応の漏れが生じないよう、この記事では、従業員数の増加に伴って、労務管理においてどのような法律が適用され、会社はどのような対応が必要になるかを解説します。

なお、ここでいう「従業員数」とは、「常態として雇用する正社員」の従業員数を基準にして説明しています。

短期的に雇用する契約社員や、短時間だけ働くパート・アルバイトなどについても従業員数に含まれるかどうかについては、各法律の内容を個別にご確認ください。

従業員数1人以上の場合

【従業員数1人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 労働条件通知書の作成・交付義務
  • 36(さぶろく)協定の締結・届出義務
  • 健康診断の実施義務
  • 労働保険(労災保険・雇用保険)への加入義務

労働基準法が適用される

会社が従業員を1人でも雇う場合には、「労働基準法」が適用されます。

労働基準法では、労働時間、休憩時間、有給休暇などの最低基準について定められています。

労働基準法の定めの中でも、会社の労務管理において手続面で重要なのが、「労働条件通知書の作成・交付」と、「36(さぶろく)協定の締結・届出」です。

労働条件通知書」とは、会社が従業員を雇い入れた際に、その従業員の労働条件(就業時間や給料など)について記載された書面をいい、会社はこれを従業員に対して交付する義務があります(労働基準法第15条)。

36(さぶろく)協定」とは、会社が従業員に対して、法定労働時間(原則として1日8時間、1週間40時間)を超えて労働を命じる場合(簡単にいうと残業を命じる場合)に、必要となる手続をいいます(労働基準法第36条)。

労働安全衛生法が適用される

会社が従業員を1人でも雇う場合には、「労働安全衛生法」が適用されます。

労働安全衛生法は、従業員が働くうえでの安全面、衛生面に配慮することを会社に義務付けるものであり、中でも重要な対応のひとつが、健康診断の実施です。

会社は従業員について、入社の際(雇い入れの際)、および、1年以内に1回、定期的に健康診断を実施する義務を負います(労働安全衛生規則第43条、44条)。

労働保険に加入する義務がある

会社が従業員を1人でも雇う場合には、「労働保険」に加入する義務があります(労働者災害補償保険法第3条、雇用保険法第5条)。

「労働保険」とは、労働者災害補償保険(一般に「労災保険」といいます) と、雇用保険とを合わせた言葉です。

労災保険は、従業員が業務上で負傷などした場合に、その医療費の補償や休業補償などを行うために、政府が運営する公的な保険制度をいいます。

雇用保険は、従業員が失業などした場合に、その生活費の保障などを行うために、政府が運営する公的な保険制度をいいます。

保険給付は両保険で別個に行われますが、保険料の納付については、同じ労働保険として、一体のものとして取り扱われ、一つの手続によって行います。

会社は、雇用形態(パート・アルバイトなど)を問わず、従業員を一人でも雇っている場合には労働保険の適用事業となり、保険への加入手続を行ったうえで、毎年一回労働保険料を納付する必要があります。

従業員数5人以上の場合【個人事業主】

【従業員数5人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 社会保険への加入義務(個人事業主の場合)

社会保険への加入義務がある(個人事業主の場合)

ここでは、健康保険と、厚生年金保険を合わせて「社会保険」といいます。

法人(会社)であれば、従業員がたとえ1名であっても強制的に社会保険に加入する必要があります。

そして、個人事業主であっても、適用業種(法定されている16業種)であり、かつ従業員を5人以上雇っている場合には、社会保険に加入する義務があります(健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条)。

従業員数10人以上の場合【事業場単位】

【従業員数10人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 就業規則の作成義務
  • 安全衛生推進者の選任義務

就業規を作成する義務がある

会社は、事業場単位でみて、10人以上の従業員がいる場合には、「就業規則」を作成したうえで、管轄の労働基準監督署に提出する義務があります(労働基準法第89条)。

就業規則とは、会社が、従業員の労働条件(就業時間や休日など)や、服務上の規律などを定めた規定の総称をいいます。

基準となる10人の従業員数は、会社単位(会社全体の従業員数)ではなく、事業場単位で判断する点がポイントです。

事業場とは、本店や支店、本社と工場、営業所や出張所など、主に場所的に独立しているかどうかで決定されます。

安全衛生推進者を選任する義務がある

会社は、事業場単位でみて、10人以上の従業員がいる場合には、労働安全衛生法により、「安全衛生推進者」を選任する必要があり、従業員の安全や健康の確保などにかかわる業務を担当させる必要があります(労働安全衛生法第12条の2)。

安全衛生推進者の選任について労働基準監督署への報告義務はありませんが、氏名を事業場の見やすい場所などに掲示し、従業員に周知する必要があります。

なお、選任を怠ると、労働安全衛生法により、50万円以下の罰金の対象となります(労働安全衛生法第120条)。

また、安全管理者を選任する必要がない業種では、安全衛生推進者に代わり、「衛生推進者」を選任して、衛生にかかる業務を担当させることとなります。

従業員数50人以上の場合【事業場単位】

【従業員数50人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 産業医の選任義務
  • 安全管理者・衛生管理者の選任義務
  • 定期健康診断結果報告書の提出義務
  • ストレスチェックの実施・報告義務

産業医・安全管理者・衛生管理者を選任する義務がある

事業場単位で従業員数が50人以上の規模になると、安全衛生上の義務がさらに増えます。

産業医、安全管理者、衛生管理者を選任する義務があり、さらに安全委員会、衛生委員会の設置義務があります(労働安全衛生法第13条など)。

定期健康診断結果報告書を提出する義務がある

事業場単位で従業員数が50人以上の規模になると、会社は実施した定期健康診断の結果を、労働基準監督署に報告する義務があります(労働安全衛生規則第52条)。

ストレスチェックを実施して報告する義務がある

事業場単位で従業員数が50人以上の規模になると、会社は年に1回「ストレスチェック」を実施したうえで、その結果を労働基準監督署に報告する義務があります。

「ストレスチェック」とは、従業員に自身のストレスの状況について気づきを促すために、アンケートなどの調査票を用いて検査を実施することをいいます(労働安全衛生法第66条の10)。

なお、会社は、ストレスチェックを実施した場合でも、労働基準監督署への結果報告を怠った場合には、最大で50万円の罰金の対象となります(労働安全衛生法第120条)。

従業員数101人以上の場合【会社単位】

【従業員数101人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 一般事業主行動計画の策定・届出・公表義務
  • 自社の女性活躍に関する情報公表(2022年4月1日以降)
  • 障害者納付金制度の適用

一般事業主行動計画を策定、届出、公表する義務がある

一般事業主行動計画」とは、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、会社が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、「計画期間」、「目標」、「目標達成のための対策およびその実施時期」を定めるものをいいます。

会社全体の従業員数が101人以上の会社は、一般事業主行動計画の策定、届出、公表が義務付けられています(次世代育成支援対策推進法第12条)。

この場合の従業員数は、事業場単位ではなく、会社全体の人数であることに留意が必要です(以下、同じ)。

自社の女性活躍に関する情報を公表する義務がある

2022年4月1日以降は、従業員数が101人以上の会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」に基づき、自社の女性活躍に関する情報を公表することが義務付けられます(女性活躍推進法第8条)。

障害者納付金制度の適用がある

障害者納付金」とは、会社は雇用する従業員数に対し、法定された雇用率(2021年3月1日時点の法定雇用率は2.3%)以上の障害者を雇用する義務があり、法定雇用率に不足する障害者1人あたり月額5万円の納付金を納める義務があります(障害者の雇用の促進等に関する法律第53条)。

従業員数301人以上の場合【会社単位】

【従業員数301人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 月に60時間を超える時間外労働割増率の引き上げ(50%)
  • 中途採用比率の公表義務

月に60時間を超える時間外労働割増率が50%に引き上げられる

なお、従業員数が301人以上の場合に適用されているのは、経過措置であり、2023年4月1日以降は、従業員数が1人であっても、60時間を超える場合の時間外労働割増率は50%となります(労働基準法第37条)。

中途採用比率を公表する義務がある

2021(令和3)年4月1日に「労働施策総合推進法」が改正され、雇用する従業員数が301人以上の会社は、従業員に占める中途採用者の割合を、定期的に公表することが義務付けられました(労働施策総合推進法第27条の2)。

従業員数501人以上の場合【会社単位】

【従業員数501人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 短時間労働者(パート)の社会保険の適用拡大

短時間労働者(パート)の社会保険の適用が拡大される

パート・アルバイトなどで正社員よりも短時間で働く従業員については、原則として正社員の4分の3程度の労働日・労働時間を超える場合に、社会保険に加入する必要があります。

ただし、従業員(厚生年金保険の被保険者)の総数が、常時501人以上の事業所(これを「特定適用事業所」といいます)は、一定の要件を満たす場合には、短時間勤務の従業員であっても、社会保険に加入する義務が生じることがあります(健康保険法第46条)。

従業員数1,000人以上の場合【会社単位】

【従業員数1,000人以上の場合に必要となる労務管理】

  • 男性の育児休業の取得状況の公表義務

男性の育児休業の取得状況を公表する義務がある

法律の改正により、常時雇用する従業員数が1,000人を超える会社は、毎年少なくとも1回、男性の育児休業の取得率など、育児休業の取得の状況を公表することが義務付けられます。

法律の施行日は、令和5(2023)年4月1日です。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。