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はじめに
2021(令和3)年6月4日、国会で健康保険法と厚生年金保険法の改正案が成立し、同年6月11日に公布されました。
改正内容のひとつとして、子育て支援の拡充を目的として、従業員が育児休業を取得した場合の社会保険料の免除について改正がありました。
これは、同時期に成立した育児・介護休業法の改正に合わせた改正であり、特に男性の育児休業に影響するものです。
男性の育児休業の取得を促進していくうえで、特に男性が利用することが多い、短期間の育児休業について、これまでの制度で生じていた問題点を解消するための法改正といえます。
【法改正のポイント】
- 短期の育児休業を取得した場合の、社会保険料免除の「対象者」を「拡大」する
- 短期の育児休業を取得した場合の、「賞与」の社会保険料免除の要件を「厳しく」する
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【前提知識】育児休業における社会保険料の免除制度とは?
育児休業における社会保険料の免除対象者
育児・介護休業法に基づいて、「3歳未満の子」を養育している従業員は、育児休業中の社会保険料が免除される対象となります。
ここでいう「社会保険料」とは、健康保険料と、厚生年金保険料をいいます。
社会保険料の免除を申し出ることにより、健康保険・厚生年金保険の保険料(労使折半)は、従業員負担分と、会社負担分の両方が免除されることとなります。
そして、免除されている期間中においても、従業員は免除前と同様に、健康保険から保険給付(医療費負担の軽減など)を受けることができ、また、厚生年金保険から将来受け取る年金額が減ることもありません(免除前と同額の保険料を納め続けているものとみなされる)。
「3歳未満の子」を養育していること
育児・介護休業法では、育児休業が取得できるのは、原則として子が1歳になるまでとし、保育所に入所できないなどの事情がある場合には、例外的に最長2歳まで取得することができます。
その後は、法的な権利とは別に、会社が独自の制度(福利厚生)として育児休業の延長を認めている場合には、最長3歳までの育児休業について、社会保険料の免除の対象となります。
【前提知識】現行制度の社会保険料免除の対象期間
社会保険料の免除の対象となるかどうかは、1ヵ月単位で判断されます。
現行(改正前の法律をいう、以下同じ)の制度では、従業員が、ある月の「末日時点」で育児休業をしている場合、その月の「給与」と「賞与」にかかる社会保険料が免除されます。
具体的には、現行の法律の条文では、社会保険料の免除の対象となる月について、次のように定めています(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。
【条文の定め(現行)】
育児休業を開始した日の属する月から、育児休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間
例を挙げて説明します。
【例1】
4月1日から、6月30日まで育児休業を取得した場合
→社会保険料が免除されるのは、「4月分から6月分まで」の3ヵ月間
条文に当てはめると、「育児休業を開始した日(4/1)の属する月」は「4月」、「育児休業が終了する日(6/30)の翌日(7/1)が属する月(7月)の前月」は「6月」となります。
したがって、4月分から6月分までの社会保険料が免除となります。
条文に当てはめると少し周りくどいのですが、要するに、「月末時点で休業している月=社会保険料が免除される月」となることを意味します。
【例2】
4月1日から、6月29日まで育児休業を取得した場合
→社会保険料が免除されるのは、「4月分から5月分まで」の2ヵ月間
条文に当てはめると、「育児休業を開始した日(4/1)の属する月」は「4月」、「育児休業が終了する日(6/29)の翌日(6/30)が属する月(6月)の前月」は「5月」となります。
したがって、4月分から5月分までの社会保険料が免除となります。
例1と比べて、休業期間は1日しか変わりませんが、月末時点で休業していないことをもって、免除される月は1ヵ月分変わります。
現行の制度の問題点(法改正の趣旨)
現行の制度では、月末時点で育児休業を取得している場合に、その月の社会保険料が免除される仕組みになっている、と説明をしました。
これは、もし月末に1日だけ育児休業を取得した場合であっても、その月の社会保険料が免除されることを意味します。
特に、この問題が表面化しやすいのが、短期間の育児休業の取得です。
短期間の育児休業の場合、何日の休業をしたかは関係なく、月の末日時点で休業しているか否か(月末をまたぐか否か)によって、社会保険料が免除されるか否かが決まるという不公平が生じやすくなります。
【例3】
4月30日に、1日だけ育児休業を取得した場合
→4月分の社会保険料が免除される
この事例では、月末に育児休業を取得していれば、その休業がたとえ1日であっても社会保険料が免除されることを表しています。
【例4】
4月1日から4月20日まで、20日間の育児休業を取得した場合
→社会保険料は免除されない
この事例では、月の初めから20日間の育児休業を取得していますが、休業が月末にかかっていないため、社会保険料は免除されません。
すると、例1と比べて、育児休業期間が長いにもかかわらず、育児休業を取得したタイミングによって不公平が生じることとなります。
今回の改正は、育児・介護休業法の改正(2022年10月1日施行予定)により創設された「出生時育児休業」制度とリンクしています。
出生時育児休業は「男性版産休」ともいわれ、子が出生してから8週間以内に、4週間以内の休業を取得することを認める制度です。
出生時育児休業を取得した場合にも、社会保険料の免除の対象になります。
すると、今後は、男性が出生時育児休業を取得することにより、短期の休業が増加することが見込まれるため、不公平が生じる可能性も高まります。
そこで、育児・介護休業法の改正に伴って、社会保険料の免除のあり方についても見直しが行われました。
改正後の制度
法律の改正により、社会保険料の免除について、次のとおり改正されました。
開始月≠終了日の翌日が属する月
育児休業を開始した日の属する月と、終了する日の翌日が属する月とが異なる場合
→育児休業を開始した日の属する月から、終了する日の翌日が属する月の前月までの期間について、社会保険料を免除する(現行と同じ)
この点については、現行の制度と同様の内容です。
開始月=終了日の翌日が属する月(短期の休業)
育児休業を開始した日の属する月と、終了する日の翌日が属する月とが同じ場合
→育児休業を開始した日の属する月について、休業している期間が月中の場合でも、14日(2週間)以上休業した場合には、その月の社会保険料が免除される。
これによって、前述の【例4】は次のように取り扱いが変わります。
【例5】
4月1日から4月20日まで、20日間の育児休業を取得した場合
→14日以上の育児休業を取得しているため、4月分の社会保険料が免除される
これにより、短期の育児休業で、かつ月末時点で休業していない場合であっても、14日以上の育児休業を取得していれば、社会保険料が免除されることになります。
ただし、この制度は「育児休業を開始した日の属する月と、終了する日の翌日が属する月とが同じ」であること、つまり短期の育児休業を前提としており、長期の育児休業を取得した場合には、現行と同じであることに留意する必要があります。
【例6】
4月1日から、6月29日まで育児休業を取得した場合
→社会保険料が免除されるのは、「4月分から5月分まで」の2ヵ月間
前述の【例2】と同じ事例ですが、育児休業を開始した日の属する月(4月)と、終了する日の翌日が属する月(6月)とが異なるため、改正後においても6月分の社会保険料が免除されることはありません。
つまり、単純に「1ヵ月に14日以上休業していれば免除される」などと認識してしまうと、事務手続にミスが生じますので、留意してください。
「賞与」にかかる社会保険料免除要件の見直し
賞与にかかる社会保険料免除の現行の制度と、その問題点
賞与についても、現行の制度では、「月末時点」で育児休業をしている場合、その月に支払われた賞与にかかる社会保険料が免除されます。
【例7】
6月30日に、1日だけ育児休業を取得した場合
→6月に支給された賞与の社会保険料が免除される
賞与が支給される月の月末時点で育児休業を取得していると、支払われた賞与について社会保険料が免除されるという仕組みの影響もあって、賞与月に短期の育児休業を取得する傾向がみられるとの指摘がありました。
つまり、短期の育児休業であるほど、賞与にかかる社会保険料の免除を目的として、休業する月を選択する誘因が働きやすいため、要件の見直しが行われました。
ボーナスが社会保険料の免除の対象になると、手取り額が大きくなりますが、このような状況は制度の趣旨に反するため、賞与の保険料免除を受ける条件を厳しくする方向に改正をしたものです。
改正後の制度
法律の改正により、賞与にかかる社会保険料は、1ヵ月を超える休業をした場合にのみ、免除されることとなりました。
【例8】
育児休業:12月15日~1月31日
賞与支給日:12月10日
→12月が社会保険料の免除対象期間となるため、賞与の社会保険料が免除される
【例9】
育児休業:12月15日~12月31日
賞与支給日:12月10日
→休業期間が1ヵ月に満たないため、12月が社会保険料の免除対象期間とならず、賞与の社会保険料は免除されない
法律の施行日
施行日は、2022(令和4)年10月1日です。