労働基準法

有給休暇の「分割付与」とは?その要件と基準日・出勤率の留意点について解説

有給休暇の「分割付与」とは?

有給休暇の「分割付与」とは、一般に、入社初年度の有給休暇について、最初の基準日よりも前に一部を分割して付与し、その後基準日に残りの日数を付与する制度をいいます。

分割付与の例として、「入社日に有給休暇を5日間付与し、入社6ヵ月後に残りの5日間を付与する」といった運用が考えられます。

なお、「基準日」とは、従業員に有給休暇が付与される日(有給休暇を取得する権利が発生する日)をいい、法律上は、入社日から6ヵ月を経過した日が(1回目の)基準日となります(労働基準法第39条)。

有給休暇の分割付与は、法律によって定められている制度ではなく、後述の行政通達を根拠として、会社ごとに独自に運用されている制度です。

なお、有給休暇の分割付与と似ている制度として、有給休暇の「前借り」があります。

有給休暇の前借りとは、従業員の求めに応じて、有給休暇を基準日よりも前に取得することを認め、その後基準日に前借り分の日数を控除して有給休暇を付与することをいいます。

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また、ある1日の有給休暇を「時間的に」分割する、例えば1日分の有給休暇を半日単位や1時間単位に分割して取得する制度もありますので、これらの制度と混同しないように留意してください。

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有給休暇の分割付与のメリット・デメリット

有給休暇の分割付与を行うことによるメリット・デメリットは次のとおりです。

【メリット】

新入社員にとって、法律よりも早いタイミングで有給休暇を取得することができるため、体調不良やケガなどで会社を休んだとしても、欠勤扱いにならない(有給休暇の日数分は給与が保障される)

【デメリット】

会社にとって、労務管理上の負担が生じる

有給休暇の分割付与により、従業員にとっては、例えば入社日など、法律よりも早いタイミングで有給休暇を取得することができます。

一方、これにより会社にとっては労務管理上の手間が増えますし、また、有給休暇の基準日を統一する制度(有給休暇の斉一的付与)を運用している場合には、併せて分割付与を行うことによって、かえって運用が複雑になることが懸念されます。

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有給休暇の分割付与が認められるための要件

有給休暇の分割付与の要件

有給休暇の分割付与は、行政通達に基づき、次の要件を満たす場合に限り認められます(平成6年1月4日基発1号)。

【有給休暇の分割付与の要件】

  1. 分割付与の対象となる有給休暇は、入社初年度に生じる有給休暇に限ること
  2. 前倒しして付与した際の残りの有給休暇の日数は、入社後6ヵ月を経過する日までにすべて付与すること
  3. 2回目の有給休暇は、分割付与した初回の付与日から1年以内に付与すること
  4. 出勤率の算定の際には、基準日を統一することによって短縮された期間は、すべて出勤したものとして取り扱うこと

有給休暇の分割付与をした場合の基準日の留意点

有給休暇の分割付与をした場合には、特に基準日について留意する必要があります。

以下、例を挙げて説明します。

【例】

2021年4月1日入社時…5日を分割付与

2021年10月1日(6ヵ月勤務)…5日を付与(法定10日の残り)

2022年4月1日最初に付与した日から1年経過後)…11日を付与

ここでのポイントは、入社後2回目の有給休暇の基準日が、2022年4月1日になる点です。

本来、法律どおりに有給休暇を与えていたならば、有給休暇の基準日は次のようになります。

2021年4月1日入社

2021年10月1日(1回目の基準日)…10日を付与

2022年10月1日(1回目の基準日から1年後)…11日を付与

つまり、有給休暇を分割付与することによって、法律で定められた基準日(入社後1年6ヵ月経過日)と比べて、基準日を全体的に前倒しにしなければなりません

基準日を統一した場合の出勤率の留意点

法律上、有給休暇が与えられるためには、その要件として「全労働日の8割以上」出勤することが必要です。

このとき、出勤率の算定に際しては、行政通達(平成6年1月4日基発1号)によって、有給休暇を分割付与することによって(法定の有給休暇の基準日と比べて)短縮された期間(前倒しされた期間)は、「その期間について全期間を出勤したもの」とみなす必要があります。

【例】

基準日…1月1日

2021年4月1日入社時…10日を付与

2022年1月1日(★)…11日を付与

ここで、入社後に初めて訪れる基準日(上記の例の★印)における出勤率の算定について、どのように行うべきかが問題となります。

このとき、上記の例では、まず入社日の2021年4月1日から2021年12月31日までの9ヵ月間の出勤実績を把握します。

そして、残りの3ヵ月間(2022年1月1日から同年3月31日までの期間)については、「その期間について全期間を出勤したもの」とみなして、1年間の出勤率を算定します。

結果として、出勤率の計算は、次のようになります。

(実際の出勤日数+短縮された期間のすべての労働日数)÷1年間の労働日数(短縮された期間を含む)

なお、1回目の基準日以降は、通常どおり、基準日ごとに1年間の実績で出勤率を算定することとなります。

【参考】行政通達(平成6年1月4日基発1号)

最後に、ご参考に行政通達を掲載します(下線は筆者によります)。

平成6年1月4日基発1号

年次有給休暇について法律どおり付与すると年次有給休暇の基準日が複数となる等から、その斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう。)や分割付与(初年度において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与することをいう。)が問題となるが、以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

イ.斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

ロ.次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。

(例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年の4月1日に11日付与とする場合、また、分割付与として、4月1日入社した者に入社時に5日、法定の基準日である6ヵ月後の10月1日に5日付与し、次年度の基準日は本来翌年10月1日であるが、初年度に10日のうち5日分について6ヵ月繰り上げたことから同様に6ヵ月繰り上げ、4月1日に11日付与する場合などが考えられること。)

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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