労働基準法

半日単位の有給休暇は会社の義務か?区分時間、上限日数、残業時間の取り扱いなどを解説

有給休暇は、1日単位で取得するのが大原則です。

しかし、実際には、1日休むほどではないが、通院や役所の用事などの理由で、従業員から「有給休暇を半日単位で取得したい」という声が上がることがあります。

今回は、半日単位の有給休暇について、実務上問題となる点や検討すべき点について解説します。

半日単位の有給休暇は会社の義務か?行政通達を解説

そもそも、半日単位の有給休暇を取得させることは、会社の義務なのでしょうか。

つまり、従業員から「半日単位で休みたい」という要望があった場合に、会社はこれに応じなければならない義務があるのでしょうか。

結論として、会社はこれに応じる義務はありません。

この点、行政通達(昭和63年3月14日基発150号)は、次のように示しています。

法第39条に規定する年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない

つまり、半日単位での有給休暇の取得を認めるかどうかは、会社の判断(裁量)によるものであるといえます。

導入手続(就業規則、労使協定など)

会社が半日単位の有給休暇を導入する際の手続については、法律上の決まりはありません。ただし、社内制度である以上、最低限、就業規則や雇用契約書に記載することは必要でしょう。

その他、労使協定の締結などの手続も特に求められていません。

なお、1時間単位の有給休暇を取得する場合には、手続として労使協定が必要になりますので、混同しないようにしましょう。

「半日」の時間(区分時間)の取り扱い

実務上、「半日」の時間をどのように区分するべきかが問題になる場合があります。

区分の方法としては、主に次の2つがあります。

【半日の区分】

  1. 所定労働時間の2分の1とする方法
  2. 午前と午後に区切って2分割する方法

所定労働時間の2分の1とする方法(①)

「半日」とは、文字通り1日の半分です。

したがって、単純に「1日の所定労働時間の2分の1」を半日の単位とするのが素直な解釈であるといえるでしょう。

例えば、1日の所定労働時間が8時間であれば4時間、7時間30分であれば3時間45分が半日の単位となります。

午前と午後に区切って2分割する方法(②)

一般的に、勤務時間は休憩時間を挟んで午前・午後と分かれていることから、午前と午後で区切った時間を半日の単位とする場合があります。

このとき、午前と午後の所定労働時間が異なる場合に、半日単位の有給休暇をどのように扱うべきかが問題になることがあります。

以下の例をご覧ください。

【例】

  • 1日の所定労働時間…9:00から18:00まで(休憩1時間、実働8時間)
  • 午前の勤務時間…9:00から12:00まで(実働3時間)
  • 休憩時間…12:00から13:00まで
  • 午後の勤務時間…13:00から18:00まで(実働5時間)

この会社では、午前が3時間、午後が5時間を所定労働時間としています。

このように午前と午後の労働時間が異なる場合の運用としては、実務上、午前と午後のどちらに有給休暇を取得したとしても、同じく半日分(0.5日分)の有給休暇を取得したものとして取り扱う方法が考えられます。

ただし、この運用は、午後に有給休暇を取得するほど、従業員にとって得になり、午前に有給休暇を取得するほど不利になり得ます。

結果として、この運用により、従業員同士の間で不公平感が生じやすく、不平不満につながるおそれがあると考えます。

午前と午後とで、半日単位の有給休暇の取得に偏りが生じる場合には、1時間単位の有給休暇の制度を導入することにより、有給休暇を時間単位で厳密に管理する方が望ましいと考えます。

半日単位の有給休暇を年5日間の取得義務に含めることができるか?

働き方改革による2019年4月1日施行の労働基準法改正により、原則として有給休暇を年に5日間取得することが義務付けられました。

半日単位の有給休暇を取得した場合に、その分を5日間に含めて取得義務を果たすことができるかどうか、ご質問を受けることがあります。

この点、行政通達において、半日単位の有給休暇と取得した場合には、取得1回につき0.5日として、取得義務のある5日間から控除することが認められています(平成30年12月28日基発1228第15号)

なお、時間単位の有給休暇については、取得義務のある5日間から控除することは認められていません

半日単位の有給休暇を取得した場合の残業(時間外)時間の取り扱い

半日単位の有給休暇を取得した場合において、その日に残業(時間外労働)した場合、どの時間が法律上の残業(時間外労働)になるのか、判断に迷う場合があります。

例えば、上記の例の場合で、午前に有給休暇を取得し、13時から出社し、21時まで残業した場合、どの時間が残業という取り扱いになるのでしょうか。

この点を明らかにした法律や判例、通達はありません。

しかし、法律の一般的な解釈としては、本来の終業時刻(18時)を過ぎて仕事をしたとしても、1日単位でみた実労働時間が8時間(法定労働時間)を超えていない場合(つまり21時まで)には、残業代(時間外手当)を支払う必要はないと考えられます。

上記の根拠は、労働基準法が「実労働時間主義」を採用していることにありますが、法律の解釈論になるため、詳細は割愛します。

実務においては、半日単位の有給休暇を取得したとしても、通常どおり(上記の例では18時)残業をつけることが一般的かと思われます。

いずれにせよ、運用にバラつきが生じないよう、半日単位の有給休暇の取り扱いについて、給与計算の運用方法をあらかじめ決めておくことが必要であると考えます。

半日単位の有給休暇のパート(アルバイト)への適用

半日単位の有給休暇を導入する場合には、正社員に加え、パート(アルバイト)にも適用を認めるのかどうか、方針を決めておく必要があります。

実務上は、もともと時間単位で働くことの多い雇用形態であるパート(アルバイト)にまで半日単位の有給休暇を認める必要性に乏しく、認めている会社は少数派であると感じます。

ただし、パート(アルバイト)であっても、所定労働時間が7~8時間程度と比較的多めであり、労働時間が午前と午後にまたがっているようなケースであれば、半日単位の有給休暇の取得を認めてもよいと考えます。

半日単位の有給休暇の上限(取得制限)について

半日単位の有給休暇については、法律上、その取得回数について制限はありませんが、実務上は、その取得回数について上限を設ける場合があります。

もともと従業員の法律上の権利ではないため、上限を設けることには問題なく、例えば、就業規則などで「半日単位の有給休暇の取得は、年に10回を限度とする」などのように定めることは問題ありません。

有給休暇は本来1日単位で取得するのが望ましく、よほど有給休暇を取りにくい職場環境でない限りは、細分化して頻繁に取得することは、会社と従業員の双方にとってあまり望ましくないと考えます。

なお、時間単位の有給休暇は、法律上、取得の上限が「年に5日間まで」と定められています。

半日単位と1時間単位の有給休暇の併用の可否

有給休暇を分割する方法として、半日単位による方法と、1時間単位による方法があります。

両者を併用することは法律上問題ありませんが、会社の労務管理としては煩雑になる傾向があります。

従業員にとっては柔軟に有給休暇を取得することができるようになりますが、私見として、いずれか一つの制度を認めれば事足りるのではないかと考えます。

まとめ

半日単位の有給休暇は、業務の都合や繁閑に合わせて柔軟に有給休暇を取得しやすく、会社の有給休暇の取得を促進することができ、従業員にとってもありがたい制度です。

まだ制度がないという会社は、今回の内容を参考にしていただき、半日単位の有給休暇を上手に活用されてはいかがでしょうか。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。