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はじめに
会社の労務管理において、従業員の育児・介護に関する取り組みは必須であり、多くの会社は「育児・介護休業規程」などを定めて対応しています。
しかし、育児・介護休業法は法律の改正が特に多く、「法律の改正への対応漏れ」が生じやすい法律であるといえます。
したがって、規程をはじめとした社内の労務管理体制を見直す際には、これまでの法律の改正内容を知り、漏れている対応や誤っている対応がないかどうかを念のため確認しておくことが重要です。
そこで、今回は、育児・介護休業法がスタートしてから現在までの法律の改正内容をまとめたうえで、それぞれどのような内容の改正であったのかを解説します。
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1992(平成4)年4月1日施行
1992(平成4)年4月1日に、「育児休業法」が施行されました。
当時は、従業員数が常時30人以上の事業所を適用の対象としていました。
1995(平成7)年4月1日改正
1995(平成7)年4月1日に、育児休業法が改正され、現在の「育児・介護休業法」となり、介護休業制度が法制化されました(介護部分については、1999(平成11)年4月1日から施行)。
また、従業員数に関わらず、すべての事業所が法律の適用対象となりました。
1999(平成11)年4月1日改正
- 介護休業制度の義務化
- 深夜業の制限制度の創設
深夜業の制限制度の創設
小学校の入学までの子をもつ従業員から請求があった場合には、原則として、深夜(午後10時から午前5時までの間)に働かせてはならない制度が創設されました。
2002(平成14)年4月1日改正
- 子の看護休暇が努力義務として創設
- 時間外労働の制限
- 短時間勤務措置の対象年齢引き上げ
- 転勤への配慮など
子の看護休暇が努力義務として創設
小学校の入学までの子をもつ従業員から請求があった場合には、年に5日の看護休暇を与える努力義務が創設されました。
時間外労働の制限
小学校の入学までの子をもつ従業員から請求があった場合には、原則として、制限時間(1ヵ月24時間、1年について150時間)を超えて働かせてはならない制度が創設されました。
短時間勤務措置の対象年齢引き上げ
子が3歳未満の場合(法改正前は、子が1歳未満の場合)には、短時間勤務、フレックス、始業終業時刻の変更などからいずれか一つの措置を、会社が選択して措置を講ずることとなりました。
2005(平成17)年4月1日改正
- 子の看護休暇が義務化
- 有期雇用者など休業対象者の拡大
- 育児休業期間の延長
育児休業期間の延長
育児休業の期間は、原則として、「子が1歳に達するまで」とされていましたが、一定の場合に限り、「子が1歳6ヵ月に達するまで」育児休業期間を延長することが認められました。
2010(平成22)年6月30日改正
- 「パパ・ママ育休プラス」制度の創設
- 所定外労働の免除制度の創設
- 短時間勤務措置の内容変更
- 看護休暇の付与日数の変更
- 介護休暇制度の創設
- 配偶者が専業主婦(夫)である場合の除外規定を廃止
- 法違反に対する企業名公表制度と過料の創設
法改正の背景
当時、約6割の女性が第一子の出産前後で離職していたという状況(第6回21世紀成年者縦断調査(2009年))、男性の育児休業取得率が1.56%と一向に増加しない(雇用均等基本調査(2008年))といった状況を改善すべく、法律が改正されました。
「パパ・ママ育休プラス」制度の創設
父母が共に育児休業を取得する場合には、最長で子が1歳2ヵ月に達するまでの間に、1年間の育児休業を取得することができる制度を創設しました。
所定外労働の免除制度の創設
子育て期間中の働き方を見直すために、3歳までの子どもをもつ従業員から請求があった場合には、所定外労働を免除することを義務づけることとなりました(なお、100人以下の会社は2012(平成24)年7月1日施行)。
短時間勤務措置の内容変更
短時間勤務措置の内容が、「所定労働時間を6時間とする」措置の内容に変更されました(法改正前は、短時間勤務、フレックス、始業終業時刻の変更などからいずれか一つの措置を選択)(なお、100人以下の会社は2012(平成24)年7月1日施行)。
看護休暇の付与日数の変更
小学校の入学までの子の看護をするための「看護休暇」について、年5日を取得できることに加えて、子どもが2人以上いる場合には年10日の看護休暇を取得することができるように改正されました。
介護休暇制度の創設
仕事と介護の両立を支援するために、「介護休暇」制度を創設し、対象者1人で年5日、対象者が2人以上の場合には年10日の介護休暇を取得することができる制度を設けました。
配偶者が専業主婦(夫)である場合の除外規定を廃止
改正前は、労使協定を締結することにより、配偶者が専業主婦(夫)や育児休業中である場合などには、従業員からの育児休業の申出を拒むことができる制度となっていましたが、法改正により、これを廃止し、専業主婦(夫)家庭の夫(妻)であっても育児休業を取得することができるようになりました。
2017(平成29)年1月1日改正
- 最長2歳まで育児休業の再延長が可能
- 介護休業の分割取得
- 介護のための所定労働時間の短縮措置
- 介護のための所定外労働の制限
- 子の看護休暇・介護休暇の半日単位の取得
- 有期契約従業員の育児休業・介護休業の取得要件の緩和
- 育児休業の対象となる子の範囲の見直し
- マタハラ・パタハラなどの防止措置義務
- 育児休業制度の個別周知(努力義務)
- 育児目的休暇の新設(努力義務)
最長2歳まで育児休業の再延長が可能
改正前は、原則1歳までの育児休業期間を、保育所に入れないなどの場合には1歳6ヵ月まで延長することが可能でしたが、法改正によって、従業員の申請により「最長2歳まで」育児休業を再度延長することが認められました。
また、この場合、育児休業給付金を最長2歳まで支給することとなりました。
介護休業の分割取得
法律の改正により、介護を必要とする家族(対象家族といいます)1人につき通算93日の介護休業について、最大で3回まで分割して取得することが可能になりました(改正前は、原則1回に限り取得可能)。
介護のための所定労働時間の短縮措置
会社は、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上、介護のための所定労働時間の短縮措置を講じる必要があります(改正前は、介護休業と通算して93日の範囲内で取得可能)。
介護のための所定外労働の制限
法律の改正により、介護を必要とする家族(対象家族)1人につき、介護の必要がなくなるまで、残業の免除を受けることができる制度が新設されました。
子の看護休暇・介護休暇の半日単位の取得
法律の改正により、子の看護休暇・介護休暇が、1日単位での取得から、半日単位(所定労働時間の2分の1)で取得可能になりました。
有期契約従業員の育児休業・介護休業の取得要件の緩和
法律の改正により、有期契約従業員の育児休業の取得要件を、①申請時点で過去1年以上の雇用があること、②子が1歳6ヵ月になるまで雇用契約が終了しないこと(改正前は子が2歳になるまで)、に緩和されました。
育児休業の対象となる子の範囲の見直し
改正前は、育児休業の対象になるのは、法律上の親子関係である実子・養子に限られていましたが、改正後は、特別養子縁組の監護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子などについても、新たに対象とされました。
マタハラ・パタハラなどの防止措置義務
妊娠、出産、育児休業、介護休業などを理由とする、上司、同僚による就業環境を害する行為を防止するため、雇用管理上必要な措置を講じること会社に義務付けられました。
なお、雇用管理上の必要な措置とは、会社の方針の明確化と、従業員への周知・啓発、相談体制の整備、ハラスメント行為への対応をいいます。
育児休業制度の個別周知(努力義務)
会社は、従業員またはその配偶者が妊娠・出産した場合、あるいは家族を介護していることを知った場合には、当該従業員に対して、個別に、育児休業・介護休業に関する定め(育児休業中や休業後の待遇や労働条件など)を周知するよう努めることとされました(努力義務)。
育児目的休暇の新設(努力義務)
会社は、就学前の子を養育する従業員が、育児に関する目的で利用できる休暇制度(配偶者出産休暇など)の措置を設けることに努めることとされました(努力義務)。
2021(令和3)年1月1日改正
- 子の看護休暇・介護休暇の1時間単位取得
- 看護休暇を取得できる従業員の対象拡大
子の看護休暇・介護休暇の1時間単位取得
子の看護休暇・介護休暇が、半日単位から、1時間単位で取得することが可能になりました。
看護休暇を取得できる従業員の対象拡大
看護休暇を取得できる従業員の対象範囲が拡大され、改正前は1日の所定労働時間が4時間以下の従業員は看護休暇・介護休暇を取得できませんでしたが、改正後はすべての従業員が子の看護休暇・介護休暇を取得することが可能になりました。
2022(令和4)年4月1日改正
- 雇用環境の整備義務・育児休業制度の周知義務・育児休業の取得意向の確認義務
- 有期雇用の従業員の育児休業の取得要件の緩和
雇用環境の整備義務・育児休業制度の周知義務・育児休業の取得意向の確認義務
法律の改正により、会社は、育児休業の取得の促進に向けて、①雇用環境の整備などに関する措置を講じる義務、②育児休業制度の従業員への周知義務、③育児休業の取得意向の確認義務が設けられました。
有期雇用の従業員の育児休業の取得要件の緩和
法律の改正前は、有期雇用の従業員が育児休業を取得するための要件として、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」が必要であるとされていましたが、法律の改正により、この要件が廃止されました。
2023(令和5)年4月1日改正
- 育児休業の取得状況の公表義務
育児休業の取得状況の公表義務
法律の改正により、常時雇用する従業員数が1,000人を超える会社は、毎年少なくとも1回、育児休業の取得の状況(男性の育児休業の取得率など)を公表することが義務付けられます。
現時点で施行日が未定のもの
- 「出生時育児休業」制度の創設(男性版の産休)
- 育児休業の分割取得
「出生時育児休業」制度の創設(男性版の産休)
「出生時育児休業」は、今回の法律の改正によって、新たに設けられた制度であり、報道などでは「男性版の産休」と呼ばれています。
出生時育児休業とは、簡単にいうと、男性が子どもの出生後8週間以内に、4週間以内の休業を取得することができる制度をいいます。
育児休業の分割取得
法律の改正により、新制度である出産時育児休業とは別に、その後取得する育児休業についても、2回まで分割することが認められるようになりました。