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【2021法改正】看護休暇・介護休暇の1時間単位の取得(育児介護休業法)をわかりやすく解説

育児介護休業法が令和3(2021)年1月1日に改正され、看護休暇と介護休暇について、1時間単位で取得することが可能になります。

平成30 年度の雇用均等基本調査(令和元年7月30 日公表)によると、看護休暇について「時間単位で取得することができる」と答えた企業の割合は19.5%でした。

これは、単純にとらえると、およそ8割の企業においては、今回の法改正による対応を迫られることを意味します。

今回は、看護休暇と介護休暇の基本的な内容を確認しつつ、法改正の内容について実務上影響する事項を中心に解説します。

なお、今回のテーマに類似する制度として、有給休暇の1時間単位の取得(時間単位年休)があります。

時間単位年休については、以下の記事をご参考にしてください。

1時間単位の有給休暇(時間単位年休)とは?上限日数、繰越、労使協定など労働基準法を解説働き方改革を推進すべく、2019年4月1日に労働基準法が改正され、会社には、原則として、年5日間の有給休暇を従業員に取得させることが義務...

看護休暇とは?

子の看護休暇とは、小学校に就学する前の子を養育する従業員を対象に、育児介護休業法において定められた従業員の権利です。

看護休暇は、主に、病気やケガをした子の看護をするためや、子に予防接種や健康診断を受けさせるために利用することができます。

看護休暇は、休暇が取得できる病気やケガについて、その種類や程度(症状の軽重など)に特に制限はありません。

例えば、短期間で治癒する傷病であっても、親である従業員が、看護が必要と考える場合には、看護休暇を取得することができます。

介護休暇とは?

介護休暇とは、病気やケガ、高齢といった理由で要介護状態になった家族の介護や世話をする従業員を対象に、育児介護休業法において定められた従業員の権利です。

介護休暇の対象となる家族の範囲は、配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母が該当します。

介護休暇は、看護休暇と異なり、休暇が取得できる場合について、対象となる家族が「要介護状態」であることが要件とされています。

看護休暇・介護休暇の法律上の取得日数の上限

看護休暇の取得日数の上限

看護休暇は、法律により、原則として、1年度に5日を限度として取得することができます(法第16条の2第1項)。

また、対象となる子が2人以上の場合には、1年度に10日を限度として取得することができます。

ここでは「2人以上」と定められているため、例えば子が3人以上いる場合でも、看護休暇の取得できる日数はあくまで10日が上限となります。

なお、「1年度」とは、会社が特に定めをしなければ、原則として、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間をいいます(法第16条の2第4項)。

介護休暇の取得日数の上限

介護休暇については、対象となる家族の人数に応じて、看護休暇と同じ日数を限度として取得することが認められています(法第16条の5第1項)。

法律では上記のとおり定められていますが、もちろん、会社独自の福利厚生として、法律を上回る日数を取得できるようにすることは可能です。

看護休暇・介護休暇は有給?無給?

看護休暇・介護休暇を取得した日について、賃金を支給するかどうか(有給か無給か)については、法律上の定めはありません。

つまり、就業規則などにおいて、看護休暇・介護休暇を有給とする旨の定めをしなければ、原則として無給となります。

なお、平成30 年度の雇用均等基本調査(令和元年7月30 日公表)によると、看護休暇を取得した際の賃金について、「有給にしている」と答えた企業の割合は28.0%でした。

看護休暇・介護休暇の取得単位の改正内容【2021法改正】

育児介護休業法の改正はいつから?【施行日】

育児介護休業法は、令和3(2021)年1月1日を施行日として改正されます。

看護休暇・介護休暇の取得単位【改正内容】

法律の改正前

法律の改正前は、看護休暇・介護休暇の取得単位は、「1日」または「半日」単位とされていました。

ここで「半日」とは、原則として所定労働時間の2分の1であり、労使協定でこれと異なる時間数を半日と定めた場合(例えば、午前3時間・午後5時間など)には、その半日をいいます。

法律の改正後

法律の改正により、看護休暇・介護休暇の取得単位は、「1日」または「1時間」単位となります。

法律の改正前は、1日の所定労働時間が4時間以下の従業員は、半日単位の看護休暇・介護休暇を取得することができませんでした。

法律の改正により、従業員の1日の所定労働時間に関係なく、休暇を取得することができるようになりました。

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1日の所定労働時間に1時間未満の端数がある場合

「1時間単位」で看護休暇・介護休暇を取得する場合

時間単位の取得について、所定労働時間に1時間未満の時間がある場合、例えば、所定労働時間が6時間45分や7時間30分である場合、端数の時間をどのように取り扱うべきかが問題となります。

この場合には、1時間未満の端数を「1時間に切り上げる」必要があります。

したがって、1日の所定労働時間が6時間45分であれば「7時間」、7時間45分であれば「8時間」とする必要があります。

「日単位」で看護休暇・介護休暇を取得する場合

1日単位で看護休暇・介護休暇を取得する場合には、所定労働時間の端数を考慮する必要はなく、1日の所定労働時間をもって休暇を取得したものと取り扱うこととなります。

例えば、1日の所定労働時間が7時間30分であれば、1日単位で休暇を取得する場合には、7時間30分の休暇となり、1時間単位で休暇を取得する場合には、1日分の合計は8時間分(端数切り上げ)となるように、実務上、取得時間にズレが生じる場合があります。

このズレは、特に休暇を有給とする場合に、取得のあり方によって不公平感が生じる(金額に差が生じる)可能性があります。

日によって所定労働時間数が異なる場合

日によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1日の平均所定労働時間数を用いることとなります。

1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合

1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には、所定労働時間数が決まっている期間における1日平均所定労働時間数を用いることとなります。

看護休暇の時間単位取得にかかる就業規則の規定例(記載例)

以下、看護休暇の時間単位の取得に関する就業規則の規定例をご紹介します(引用:厚生労働省リーフレット)。

なお、介護休暇についても、同様の規定で問題ないでしょう。

【参考】就業規則の規定例

第○条

1 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員は、負傷し、または疾病にかかった当該子の世話をするために、または当該子に予防接種や健康診断を受けさせるために、就業規則第〇条に規定する年次有給休暇とは別に、当該子が1人の場合は1年間につき5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として、子の看護休暇を取得することができる。この場合の1年間とは、4月1日から翌年3月31日までの期間とする。

2 の看護休暇は、時間単位で始業時刻から連続または終業時刻まで連続して取得することができる

「中抜け」を認めるか否か

就業規則の規定例においては、「始業時刻から連続または終業時刻まで連続して取得」と記載しています。

これは、いわゆる勤務時間の途中で休暇を取得する「中抜け」を認めない場合の規定例であることに留意してください。

法律上は、看護休暇・介護休暇は、始業時刻の最初から取得するか、終業時刻の最後に取得するかの二択しかありません。

したがって、法律上は、例えば、所定労働時間が午前9時から午後6時までの会社で、「午後2時から3時までの間だけ休暇を取得する」という、いわゆる中抜けするために1時間単位の休暇を取得することを認めていません

もっとも、会社が中抜けを認めることは自由であるため、これを認める場合には、上記の就業規則の規定は削除してください。

なお、有給休暇を1時間単位で取得することを会社が認める場合(時間単位年休)については、法律上、従業員は中抜けによって有給休暇を取得することが認められますので、混同しないように区別して理解してください。

有給休暇の取得については、「事前に申し出ること」、「書面で申し出ること」などのように、事前申請や書面申請を義務付ける規定を設けることがあります。

しかし、看護休暇・介護休暇の利用については、性質上、緊急を要する場合も多いことから、当日(緊急時には事後)の申出を認め、申請方法についても電話など口頭の申出を認めることが望ましいと考えます。

看護休暇の対象にならない従業員について

法律の改正前より、会社は、労使協定によって、一定の業務に就く従業員に限り、看護休暇の取得の対象としない旨を定めることができます。

このことは、法律の改正により1時間単位の取得ができるようになった後も変わりません。

ここで、「一定の業務」とは、正確には、「業務の性質または実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難な業務」をいいます。

具体例としては、以下の業務が挙げられます。

  • 航空機において従事する客室乗務員、操縦士など
  • 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務
  • 流れ作業方式で行う業務
  • 交替制勤務で行う業務

育児介護休業法に違反した場合の罰則

育児介護休業には、労働基準法のような罰則規定は定められていません

したがって、会社が従業員に看護休暇を時間単位で取得させなかったとしても、それをもって直ちに罰金などの罰則が科せられることはありません。

しかし、会社が育児介護休業法に違反している場合には、行政は会社に対して報告を求め、または違反を是正するように勧告することができることとされています。

そして、これに対して、会社が行政に虚偽の報告をしたり、報告を怠った場合には、最大20万円の過料を課すこととし、行政の勧告に会社が従わない場合は、企業名を公表することができることとされています。

まとめ

1時間単位の看護休暇・介護休暇は、特に有給休暇の1時間単位の取得を認めていない会社にとっては、従業員にとって、とても使い勝手のよい制度であるといえます。

さらに、看護休暇・介護休暇を有給として取り扱うことで、会社の福利厚生として、従業員にとって大変ありがたい制度となります。

今回の法改正を機に、看護休暇・介護休暇の1時間単位の取得に際して、当該休暇を有給にすることも検討されてはいかがでしょうか。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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