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【看護・介護休暇の時間単位取得】中抜けの可否・端数処理・上限時間・労使協定など実務上の留意点を解説(2021年法改正)

2021年1月1日に育児・介護休業法の施行規則が改正され、子の看護休暇および介護休暇(以下、「看護・介護休暇」といいます)が1時間単位で取得することができるようになります

なお、改正される法律の正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(以下、「施行規則」といいます)です。

法改正の内容や看護・介護休暇の基本的な知識については、以下の記事をご覧ください。

【2021法改正】看護休暇・介護休暇の1時間単位の取得(育児介護休業法)をわかりやすく解説育児介護休業法が令和3(2021)年1月1日に改正され、看護休暇と介護休暇について、1時間単位で取得することが可能になります。 平...

今回は、実務的な視点から、会社が看護・介護休暇の改正に対応する際の留意点について、厚生労働省の「子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得に関するQ&A(2020年9月11日改定版)」(以下、「Q&A」といいます)をもとに解説します。

なお、今回の改正内容は、子の看護休暇および介護休暇について、同様に改正されるものであるため、基本的には両者について同じ取り扱いとなります。

1時間未満の「端数」時間の処理方法

基本的な時間の取り扱い

時間単位の看護・介護休暇における「時間」とは、1時間の整数倍の時間をいいます(Q&A問1-1)。

したがって、例えば、会社が「看護・介護休暇の取得は2時間単位とする」などにように定めることは、従業員にとって法律の内容よりも不利な条件になるため、認められません(Q&A問1-1)。

一方、15分単位や30分単位など「分単位」での看護・介護休暇の取得を認めることは、従業員にとって法律の内容よりも有利な条件であるため、認められます(Q&A問1-2)。

基本的な時間の管理としては、例えば会社の1日の所定労働時間が8時間である場合には、1時間単位の看護・介護休暇を8回分取得した時点で、1日分の看護・介護休暇を取得したものとして取り扱われます(施行規則第34条第2項・同第40条第2項)。

「端数」時間の処理

会社の1日の所定労働時間が7時間15分や7時間30分などの場合、1時間単位の看護・介護休暇を7回分取得した時点で、1時間に満たない端数(15分・30分)が残るため、この端数をどのように取り扱うべきかが問題となります。

この端数について、法律では、「1時間に満たない端数がある場合は、1時間に切り上げるものとする」として、端数を切り上げるべきとしています(施行規則第34条第2項・同第40条第2項)(Q&A問1-4)。

具体例

例えば、1日の所定労働時間が7時間30分の会社の場合、看護・介護休暇の取得の仕方は次のいずれかによります。

【1日の所定労働時間が7時間30分の会社の例】

  • 1時間単位」で看護・介護休暇を取得する場合には、30分の端数を繰り上げて、「1日あたり8時間」として取り扱う
  • 1日単位」で看護・介護休暇を取得する場合には、「1日あたり7時間30分」として取り扱う。
この取り扱いの違いによって、看護・介護休暇を有給(法律上は、原則として無給)としている場合に、1日単位で取得するか、1時間単位で取得するかによって、従業員が受け取る賃金に差異が生じることがあります

つまり、上記の例では、看護・介護休暇を1日単位で5回取得する(計37.5時間分)よりも、例えば4時間ずつ10回に分けて取得する(計40時間分)方が、従業員が受け取る賃金が多くなり得るといえます。

休憩時間の取り扱い

看護・介護休暇を時間単位で取得すると、休憩時間に差し掛かることがあります。

例えば、始業時刻が9時、終業時刻が18時、休憩時間が12時から13時までの会社において、始業時刻の9時から4時間の看護・介護休暇を取得する場合です。

この場合の考え方として、休憩時間はもともと働く義務がないとされている時間であり、法的にみると、「休憩時間について休暇を取得する」という概念がありません

そこで、この場合には実際の労働時間でみて、9時から12時までの3時間と、(休憩時間を除いて)13時から14時までの1時間の計4時間について、看護・介護休暇を取得したものと取り扱われます(Q&A問1-9)。

時間単位取得できる上限時間

看護・介護休暇について時間単位で取得できる上限時間は、1日単位の所定労働時間(1時間未満の端数がある場合には、1時間に切り上げた時間)に、原則として1年度に5日間(看護・介護の対象者が2人以上いる場合には、1年度に10日間)を乗じた時間となります。

例えば、1日の所定労働時間が7時間30分で、対象となる子が1人いる場合、時間単位で看護休暇を取得することができる上限時間は、40時間(8時間×5日間)となります。

なお、「1年度」とは、会社が特に定めをしていなければ、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間をいいます(育児・介護休業法第16条の2第4項)。

パート・アルバイトなどシフト制の従業員の所定労働時間

1日の所定労働時間について、パート・アルバイトなどシフト制で働く従業員については、「日によって所定労働時間が異なる」という場合があります。

例えば、月曜日は6時間、水曜日は8時間など不規則に働いている場合です。

すると、このままでは、何時間をもって1日分の所定労働時間とするのかが確定できません。

そこで、この場合には、原則として「1年間における1日の平均所定労働時間数」をもって、1日分の所定労働時間として取り扱うこととされています(Q&A問1-4)。

例えば、1年の総所定労働時間数が合計で1,500時間であるという雇用契約があり、所定労働日数が250日であった場合、1日の平均所定労働時間数は6時間となります。

また、1年間における1日の平均所定労働時間数が決まっていない場合には、「所定労働時間数が決まっている期間における1日の平均所定労働時間数」をもって、1日分の所定労働時間として取り扱います(Q&A問1-4)。

例えば、シフトを3ヵ月ごとに組んでいるような場合で、向こう3ヵ月分の所定労働時間しか決まっていない場合には、その3ヵ月間の総所定労働時間を所定労働日数で割ることによって、1日の平均所定労働時間を算定します。

従業員ごとに所定労働時間が異なる場合

会社内において、複数の勤務形態やシフトがある場合には、従業員ごとに所定労働時間が異なることがあり得ます。

この場合、何時間分の看護・介護休暇で「1日分」の休暇となるかは、「従業員ごと」に決まります(Q&A問1-5)。

例えば、1日の所定労働時間数が7時間の従業員は、7時間分の看護・介護休暇をもって「1日分」となり、1日の所定労働時間数が8時間の従業員は、8時間分の看護・介護休暇をもって「1日分」となります。

特にシフト制のパート・アルバイトの従業員など、日によって所定労働時間が異なる従業員が多くいる場合には、それぞれの「1日分」の時間が異なることとなるため、労務管理は煩雑になることが予想されます。

「中抜け」による看護・介護休暇の取得の可否

法律上の取り扱い

「中抜け」とは、従業員が、就業時間の途中で職場を離れて看護・介護休暇を取得し、その後、就業時間の途中に再び職場に戻ることをいいます。

結論として、会社は従業員に「中抜け」を認める必要はありません(Q&A問1-14)。

法律上、看護・介護休暇は「始業の時刻から連続し、又は終業の時刻まで連続するものとする」と定められているためです(施行規則第34条第1項・同第40条第1項)。

つまり、法律が想定している時間単位の看護・介護休暇の取得方法は、

  • 始業時刻から看護・介護休暇を取得し、その後出勤する
  • 始業時刻から出勤し、その後看護・介護休暇を取得して退勤する

の2通りしかありません。

法律を上回る取り扱い

一方、会社が独自の制度として「中抜け」を認めることは、問題ありません

看護・介護休暇を取得する従業員には、様々な事情があるため、個別の事情に応じて柔軟に制度を利用できるようにする方が、従業員にとって望ましいといえます。

反対に、もともと「中抜け」による看護・介護休暇の取得を認めていた会社が、その後「中抜け」を認めないとする取り扱いに変更することは、いわゆる「労働条件の不利益変更」に該当するため、従業員の合意を得るなど適切な変更手続きを経る必要があることに留意してください。

労使協定の締結による対象者の限定について

会社は、従業員との間で労使協定を締結することにより、次の従業員については、看護・介護休暇を取得することができない者として定めることが認められます(育児・介護休業法第16条の3第2項)。

  1. 入社6ヵ月未満の従業員
  2. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
  3. 業務の性質または業務の実施体制に照らして、時間単位で子の看護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者

③について、具体的にどのような業務が該当するかについて、法律では触れられていませんが、例えば、次のような業務が該当すると思われます。

  • 交代勤務によって、夜勤の時間帯に行われる業務
  • トラックなどの長距離運転が伴う業務
  • 遠距離の出張業務

なお、法律の改正前は「1日の所定労働時間が4時間以下の従業員」については、原則として看護・介護休暇を取得することができないものとされていましたが、法律の改正によりこの条件はなくなりました。

したがって、労使協定を締結しない限り、基本的にはすべての従業員が時間単位の看護・介護休暇を取得することが認められます。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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