2020年4月1日から、大企業における社会保険手続の電子申請が義務化されます。
これにより、どのような手続が義務化の対象とされているのか、また、電子申請はどのような方法によるのかなどについて、整理して解説します。
これまでの経緯
これまでは、2008年9月12日にIT戦略本部によって決定された「オンライン利用拡大行動計画」に基づき、「重点手続」として定められた手続(利用頻度が高い手続など)を中心に、申請手続のオンライン利用の改善に取り組まれてきました。
その結果、事業主の行う社会保険・労働保険にかかる重点14手続について、企業におけるオンライン申請の利用率は13%(平成28年度速報値)となり、利用率は少しずつ伸びてきています。
(以上、2017年10月31日に厚生労働省が公表した「社会保険・労働保険手続等の電子申請の利用促進に関する取組について」より)
法令の根拠
電子申請の義務化を定めた法令は、執筆日現在(2019年2月16日時点)では、正式に公表されていません。
今後、法案が整備され、公表、施行される予定であると考えます。
義務化の対象(適用範囲)
「大企業」の定義
社会保険手続の電子申請が義務化されるのは、「大企業」とされています。
大企業の定義は以下のとおりです。
・資本金(または出資金、銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金)の額が1億円を超える法人
・相互会社
・投資法人
・特定目的会社
なお、社会保険労務士または社会保険労務士法人が、大企業の事業所に代わって手続を行う場合も同様とされています(平成30年4月24日規制改革推進会議)。
例外措置について
電子申請によらないことについて、やむを得ない理由がある場合には、従来どおり紙による申請を受け付けてもらうことができる、とされています。
ただし、その際には、窓口等で次回以降の電子申請が促されることとされています。
つまり、大企業の要件に該当する以上は、ずっと電子申請を拒み続けるようなことはできないということを意味します。
電子申請すべき法定書類の範囲
平成30年4月24日の規制改革推進会議の行政手続部会から公表された「行政手続コスト削減に向けて(見直し結果と今後の方針)」によると、電子申請が義務化される法定書類は以下のとおりです。
電子申請の方法
社会保険手続の電子申請は、主に次の2つの方法によることが認められています。
- e-Govによる電子申請
- APIによる電子申請
e-Govによる電子申請
e-Gov(イーガブ)とは、「電子政府の総合窓口」と呼ばれ、紙によって行われてきた申請や届出などの行政手続を、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするための電子申請システムをいいます。
行政手続は、社会保険手続に限らず、各府省が所管する様々な行政手続について申請や届出を行うことができます。
e-Govの電子申請から社会保険手続をするメリットには、次のような点があげられます。
- 所管の省庁や行政窓口に出かける必要がない
- 窓口の開庁時間にかかわらず、24時間いつでも申請できる
- 複数の手続きをまとめて一括で申請できる
- 手数料が必要な場合、ネットバンキングやペイジーを利用しての納付ができる
- 保有するデータを活用できる手続があり、その場合、書面準備の手間を減らすことができる
- 書面による提出のように、事業主の印鑑の押印が不要(電子証明書を用いて申請する)
APIによる電子申請
APIとは、「アプリケーション・プログラミング・インターフェース」の略で、民間の事業者の提供するサービスを利用して電子申請をする方法をいいます。
外部の事業者が作成したソフトウェアやサービス(いずれも有料)を利用して、e-Govのウェブページを経由することなく、ソフトウェアから直接に申請が可能となります。
APIのソフトウェアやサービスが提供するデータ管理やサポート機能を利用してオンライン申請を行うことが可能ですので、e-Govに比べると使い易さの点で有利になります。
また、労務会計ソフトウェア等に入力してあるデータからそのまま電子申請を行うことができるなど、労務管理の業務効率も高まるというメリットもあります。
まとめ
電子申請は、民間のシステムを利用する場合には業者の選定、また、担当者のシステム操作への順応、マニュアル作成などの準備期間が必要になります。
スムーズに電子申請に移行するためには、早めの準備が必要になると考えます。