有給休暇を取得した場合、多くの方は、その日はいつもと同じ給料が支払われていると認識しているのではないでしょうか。
しかし、法律的にみると、実は、必ずしもいつもと同じ額の賃金にする必要はなく、会社が選択する賃金の計算方法によっては、有給休暇を取得したことによって、受け取る給料が減ることもあり得ます。
また、日によって労働時間が異なるパート・アルバイトの方が有給休暇を取得する場合など、その取り扱いに迷うケースもあるかと思います。
そこで、今回は、有給休暇を取得した際の賃金について、法律上認められている3つの計算方法を解説するとともに、パート・アルバイトの場合の取り扱いなどについても説明します。
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なお、有給休暇の基本的な内容については、次の記事でわかりやすく説明しています。
Contents
有休取得時の賃金(給料)の計算方法
有給休暇を取得して会社を休んだ場合の賃金の計算方法については、労働基準法によって、3つの方法が認められています(労働基準法第39条第9項)。
【有休取得時の賃金の計算方法】
- 通常の賃金を支払う方法
- 平均賃金を支払う方法
- 健康保険法の標準報酬日額を支払う方法
原則的な計算方法は①または②であり、③の方法は労使協定を締結した場合に限り例外的に認められます。
以下、順に解説します。
通常の賃金を支払う方法
①は、3つの計算方法のうち、もっとも一般的な方法です。
おそらく、大多数の会社が、この方法を選択しているのではないでしょうか。
この方法は、簡単にいうと、「有給休暇を取得しても、いつもどおりの給料を支払う」という取り扱いです。
基本的には、有給休暇を取得して会社を休んだことによって、従業員が受け取る賃金の額は(休まなかった場合と比べて)まったく変わりません。
この方法を選択する場合の会社のメリットとしては、従業員が何日有給休暇を取得したとしても、いつもどおりに賃金計算をすれば良いため、事務処理が簡便になります。
また、従業員にとっても分かりやすい取り扱いであるといえます。
具体的な計算方法
具体的な計算方法は、時給や日給など、賃金の支給方法によって異なります。
- 時給の場合:時給×所定労働時間数
- 日給の場合:日給(そのまま支払う)
- 週給の場合:週給÷その週の所定労働日数
- 月給の場合:月給÷その月の所定労働日数
- 月、週以外の一定の期間の賃金:①~④に準じて算定した額
- 出来高払制・その他の請負制の場合:賃金算定期間の賃金総額÷当該期間における総労働時間数×当該期間における1日の平均所定労働時間数
- ①~⑥のうち2つ以上の賃金が含まれている場合:各賃金について、①~⑥によって算定した金額の合計額
平均賃金を支払う方法
この方法は、「平均賃金」を計算して支払う方法です。
「平均賃金」とは、その計算方法が労働基準法で定められており、原則として、有給休暇を取得した日から遡って、直近3ヵ月に支払った賃金の総額を、その総日数(休日含む)で割って算出した額をいいます。
平均賃金は、土日祝など、会社の休日が計算に含まれるため、①の「通常の賃金を支払う方法」よりも、従業員が受け取る賃金が少なくなることがあります。
会社にとっては、平均賃金を計算する事務処理が必要になる点でデメリットになる一方で、①の方法に比べて人件費を削減することができるというメリットがあります。
ただし、従業員にとっては、有給休暇を取得したことによって賃金が減ってしまうことによって、モチベーションが下がる可能性があることは否めません。
例外的な計算方法
平均賃金を計算する際に、直近の3ヵ月間の労働日数が少ないと、賃金額が少なくなってしまうケースがあります。
このような場合に備えて、直近3ヵ月に支払った賃金の総額を、その労働日数で割って算出した額に、60%を乗じた額を求め、原則どおり計算した平均賃金と比べて、いずれか高い額を従業員に支払う必要があります。
健康保険法の標準報酬日額を支払う方法
この方法は、健康保険料を決める際に用いる「標準報酬月額」から「標準報酬日額」を算出して支払う方法です。
標準報酬日額とは、「標準報酬月額」を30で割った額をいいます。
標準報酬月額とは、簡単にいうと、健康保険料の計算を簡便にするために用いられる仮の月給をいいます。
健康保険に加入している会社であれば、各従業員の標準報酬月額を把握しているので、この方法を用いることもできます。
ただし、標準報酬月額には、上限額が存在します。
そのため、限られた場合ではありますが、①や②の計算方法に比べて、従業員が不利になる(賃金の額が少なくなる)可能性があるため、従業員代表との間で「労使協定」を締結することが必要になります。
就業規則への記載と労使協定の締結
これまで解説した3つの計算方法のうち、会社がどの方法を選択しているのかについては、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。
したがって、会社は3つの方法のうち、同時に1つの方法しか選択することはできません。
例えば、会社が、支給する有給休暇の賃金額を安くする目的で、従業員ごとに、Aさんはこの方法、Bさんはこの方法、などというような選択をすることはできません(昭和27年9月20日 基発675号)。
就業規則の記載例
就業規則の記載例をご紹介します。
3つの計算方法のうち、どの計算方法を採用しているのかを明確に記載しておきましょう。
【記載例】
(年次有給休暇の賃金)
年次有給休暇を取得したときの賃金は、所定労働時間の労働をしたときに支払われる通常の賃金を支払うこととする。
パート・アルバイトの場合の有給休暇の賃金の計算方法
通常の賃金を支払う方法
パート・アルバイトの方に対して通常支払う賃金は、シフト表などで予定されている勤務時間をもとに計算することになります。
つまり、有給休暇を取得した日に、本来働くべき時間に相当する賃金を支払います。
具体的には、有給休暇を取得した日に予定していた所定労働時間をベースにして、時給を乗じます。
例えば、有給休暇をとった日に予定していた所定労働時間が3時間であれば、その時間に時給を乗じて計算します。
平均賃金を支払う方法
前述の平均賃金の計算方法をもとに、以下の例で計算してみましょう。
【例】
時給…1,000円
勤務時間…1日6時間
勤務日数…月8日
直近3ヵ月間の総日数…90日
平均賃金(原則)
3ヵ月間の賃金総額…144,000円(1,000円×6時間×8日×3ヵ月)
平均賃金…144,000円÷90日=1,600円
平均賃金(例外)
平均賃金…144,000円÷24日×0.6=3,600円
結論
上記(原則)と(例外)による算出額を比較すると、1,600円<3,600円となるため、従業員に支払う有給休暇の日の賃金は「3,600円」となります。
健康保険法の標準報酬日額を支払う方法
パート・アルバイトの方の勤務状況によっては、健康保険の加入条件を満たしていない場合もあるため、パート・アルバイトの方について、この計算方法を用いることは実務上ほとんどないと考えます。
皆勤手当・通勤手当の取り扱い
皆勤手当
もし、有給休暇を取得した場合には皆勤手当を支給しない、という会社があれば、要注意です。
皆勤手当については、「有給休暇を取得した場合には、皆勤手当を不支給とする」という取り扱いをしていた会社で、実際に裁判で争われた事例があります。
裁判では、「労働者が現実に出勤して労働したことの故に支払われる実費補償的性格の手当でない限り、(皆勤手当を支給しないことは)年休制度の趣旨に反する」と示されています(横浜地方裁判所 昭和51年3月4日判決)。
通勤手当
前掲の判例で、「実費補償的性格でない限り」とありますが、実費補償的な性格の手当とは、例えば、通勤にかかった費用を実費支給する通勤手当をいいます。
実費補償的な性格の通勤手当であれば、有給休暇を取得した日に、その日の通勤手当を支給しないとすることは、原則として、問題になりません。
ただし、これは平均賃金で支払う場合を前提とした考え方であると思った方がよいでしょう。
平均賃金で用いる直近3ヵ月の賃金総額には、通勤手当も含めて計算します。
つまり、平均賃金にはそもそも通勤手当分が含まれているので、重ねて通勤手当を支給しないように控除するとしても、従業員に不利益はないと考えられます。
通常の賃金による場合には、いつもどおりに通勤手当を支給する方が、むしろ制度の趣旨に沿うことになるため、通勤手当はできるだけ控除しない方が自然でしょう。
時間単位の有給休暇を取得した場合の賃金の計算
有給休暇は、1時間単位で取得することもできます。
このとき、有給休暇の1時間分の賃金額は、これまで解説した各計算方法によって算出された額を、その日の所定労働時間数で割った額になります。
単純な計算ですので、実務上は特に問題はないでしょう。
まとめ
有給休暇を取得した際の賃金の計算方法は、特にこだわりがなければ、通常の賃金を支払う方法を選択しておけばよいでしょう。
ただし、それぞれの計算方法に一長一短があるため、本記事をご参考にしていただきながら、一度あらためて自社の就業規則を見直されてはいかがでしょうか。