労働基準法

労働時間・残業時間と賃金(給与・割増賃金)の端数処理に関する労働基準法の通達を具体例付で解説

労務管理においては、従業員の労働時間を正確に把握し、残業時間などを的確に反映した賃金を支給する必要があります。

そして、実際には、労働時間については1時間未満の時間(本記事では当該時間を「端数」といいます)、賃金については1円未満の端数が生じる場合があり、このような場合に、法律に反しない正しい端数処理をする必要があります。

もし誤った端数処理、例えば、1時間未満の残業時間を切り捨てするなどしてしまうと、当該時間に対する賃金が支給されず、未払い賃金が発生することになります。

このような未払い賃金が積み重なると、当然ながら労務トラブルに発展するリスクが生じます。

そこで、今回は、労働基準法の通達において認められる端数処理の方法を、具体例を交えながら解説します。

労働基準法に関連する端数処理の方法

労務管理においては、まず、従業員の労働時間を把握(第一段階)し、把握した労働時間に基づいて賃金を計算(第二段階)し、支給日に賃金を支給(第三段階)します。

そして、これら各段階において生じ得る端数について、行政の通達により、認められる端数処理が定められています。

  1. 「労働時間を把握する段階」の、「労働時間」の端数処理
  2. 把握した労働時間に基づき「賃金を計算する段階」の、「1時間あたりの賃金」の端数処理
  3. 計算した賃金を「支給する段階」の、「1ヵ月あたりの賃金」の端数処理

また、上記の他、労務管理においては、以下の場面で端数が生じ得ます。

  • 遅刻、早退した時間の端数処理
  • 平均賃金の計算時に生じる端数処理
  • 時間単位年休を取得する際に生じる(時間の)端数処理

以下、上記の各場面で認められる端数処理の方法を、順に説明します。

労働時間(残業時間)の端数処理

1日ごとの時間外労働の時間(残業時間)

まず、1日ごとの労働時間は、「1分単位」で把握することが大原則です。

これは、時間外労働の時間(残業時間)にも当てはまります。

したがって、1日ごとの時間外労働について、1時間未満の時間を切り捨てるなどの端数処理は、労働基準法に違反することになります。

認められる残業時間の端数処理

1ヵ月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の時間数の合計時間に、1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

ここで重要なのは、「1ヵ月における」時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの合計時間についてのみ、端数処理を行うことが認められている点です。

したがって、この端数処理は1ヵ月単位でしか行うことはできず、1日単位などで行うことはできません。

この端数処理をする場合には、時間を切り捨てる場合(従業員に不利)もあれば、切り上げる場合(従業員に有利)もありますが、例えば、「切り捨てはするが、切り上げはしない」というような、従業員にとってのみ不利になる取り扱いは認められません

具体例

例えば、1日の所定労働時間が7時間である会社において、4月の最初の3日間の残業時間が次のような状況であったとします。

なお、4月4日以降は時間外労働がなかったと仮定します。

労働日 労働時間 時間外労働
4月1日 7時間16分 16分
4月2日 7時間31分 31分
4月3日 7時間45分 45分

例えば、4月1日に時間外労働をした16分について、これを切り捨て、労働時間を7時間とすることは、労働基準法に違反します。

この事例では、1ヵ月の時間外労働の合計時間は1時間32分(16+31+45)となります。

これに対して、労働基準法で認められる端数処理は、端数の32分を1時間に切り上げ、4月の時間外労働を「2時間」として割増賃金を計算するものです。

時間外手当(割増賃金・残業代)の端数処理

次に、把握した労働時間に対する割増賃金を計算する段階の端数処理を説明します。

1時間あたりの賃金・割増賃金

1時間あたりの賃金額および割増賃金額に、1円未満の端数が生じた場合には、50銭未満(0.5円未満)の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

具体例

(例)

  • 月給…200,000円
  • 1ヵ月の所定労働時間…172.5時間(1日7時間30分×23日)
  • 1ヵ月の時間外労働の時間…15時間

時給額の計算

200,000円÷172.5時間=1,159.4202…円

このような場合、50銭未満の端数(0.4202…)を切捨て、時給額を「1,159円」とすることが認められます。

割増賃金額の計算

1,159円×15時間=17,385円

1ヵ月あたりの割増賃金額の端数処理

1ヵ月間における割増賃金の総額に、1円未満の端数が生じた場合には、上記(1時間あたりの割増賃金)と同様に、50銭未満(0.5円未満)の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

具体例

(例)

  • 月給…200,000円
  • 1ヵ月の所定労働時間…172.5時間(1日7時間30分×23日)
  • 1ヵ月の時間外労働の時間…15時15分(15.25時間)

時給額の計算

200,000円÷172.5時間≒1,159円(50銭未満の端数を切捨て)

割増賃金額の計算

1,159円×15.25時間=17,674.75円

このような場合、50銭以上1円未満の端数(0.75)を1円に切り上げ、割増賃金の額を「17,675円」とすることが認められます。

賃金(給料・給与)の端数処理

次に、計算した賃金を「支給する段階」において認められる、「1ヵ月あたりの賃金」の端数処理を説明します。

1ヵ月の賃金額の端数処理

1ヵ月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合には、50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

具体例

例えば、計算された1ヵ月の賃金が210,545円であった場合には、50円未満の端数である45円を切り捨て、「210,500円」を支給することが認められます。

1ヵ月の賃金額の翌月への繰り越し

1ヵ月の賃金額1,000円未満の端数がある場合は、その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

具体例

例えば、計算された1ヵ月の賃金が210,545円であった場合には、その端数である545円を、翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことが認められます。

就業規則への記載の必要性

上記の1ヵ月の賃金支払額における端数処理、および翌月への繰り越しが認められるためには、就業規則において、その旨を定める必要があるとされています(昭和63年3月14日基発第150号)。

遅刻、早退した時間の端数処理

例えば、従業員が30分にも満たない程度の遅刻や早退をしたときなど、労働時間において端数が生じる場合があります。

この場合において、賃金の計算を簡略化するために、当該時間を30分に切り上げて賃金を控除していることがありますが、これは法律に違反することとなります。

遅刻や早退をした時間について端数処理は認められていません

したがって、法律の原則どおり、1分単位で遅刻・早退時間を把握し、それに対応する賃金を計算する必要があります。

なお、このような取り扱いを「減給の制裁」(会社が行う懲戒処分の一種)として労働基準法の範囲内で行うことは、差し支えないとされています(昭和63年3月14日基発第150号)。

ただし、減給の制裁は、労働基準法第91条により、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされており、遅刻や早退した時間をすべて控除することは認められません。

平均賃金の計算における端数処理

労働基準法の定めに従い、以下の場合において、従業員の平均賃金を計算することがあります。

【平均賃金を計算する場合】

  • 解雇予告手当(労働基準法第20条)
  • 休業手当(労働基準法第26条)
  • 有給休暇取得時の賃金(労働基準法第39条)

平均賃金は、原則として、直近3ヵ月間の賃金総額を、当該期間の歴日数で割ることにより算出します。

この場合に、平均賃金の計算の結果生じた端数については、行政通達により、「銭未満を切捨て」して処理することとされています(昭和22年11月5日基発232号)。

例えば、3ヵ月間の賃金総額が890,000円であった場合には、90日で割ると、「9,888円8888…」という計算結果になります。

この場合の端数処理は、銭未満を切り捨てるため、平均賃金は「9,888円88銭」となります。

時間単位年休の時間数の端数処理

労働基準法により、会社は、従業員との間で労使協定を締結することにより、有給休暇を1時間単位で取得することが認められます。

時間単位年休に関する詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。

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労使協定においては、「1日分の有給休暇が、何時間分の時間単位年休に相当するか」を定める必要があります。

通常は、「所定労働時間」を基準に定めますが、会社によっては、所定労働時間に1時間未満の端数の時間がある場合、例えば、所定労働時間が7時間30分や7時間45分である場合があります。

この場合には、行政通達により、1時間未満の端数を「1時間に切り上げる」ことが必要です(平成21年5月29日基発第0529001号)。

したがって、1日の所定労働時間が7時間30分や7時間45分であれば、端数を切り上げて「8時間」とする必要があります。

まとめ

労働時間や賃金の端数処理は、従業員の賃金に影響するため、会社が知らなかったでは済まされません。

本記事を参考に、ぜひ正しい知識を身に付けていただき、無用な労働トラブルを減らしていただければと思います。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。