労働基準法

【割増賃金】計算の基礎となる賃金(計算に含む手当)・除外できる賃金(計算に含まない手当)を解説

従業員が法定時間外労働(いわゆる残業)をした場合には、会社は従業員に対して、その時間に応じて割増賃金(いわゆる残業代)を支払う義務が生じます。

割増賃金の計算において実務上間違えやすいのが、割増賃金の計算の基礎となる賃金と、除外することができる賃金とがあることです。

割増賃金の計算の基礎となる賃金を間違ってしまうと、割増賃金の計算がすべて誤ったものになり、いわゆる「未払い残業代」が生じるリスクがあります。

そこで、今回は、割増賃金の計算の基礎となる賃金と、除外することができる賃金を正しく理解するために、具体例を交えながら解説します。

割増賃金の計算の基礎となる賃金・除外できる賃金

割増賃金の算定方法

従業員が法定時間外労働(原則として1日8時間・1週40時間を超える労働)をした場合の割増賃金は、原則として次のように算定します。

割増賃金 = 1時間あたりの賃金額 × 法定時間外労働をした時間数 × 1.25

割増賃金は、「1時間あたりの賃金額」を基準に計算されます。

したがって、月給制の場合には、まずは月給から1時間あたりの賃金額を算定する必要があります。

多くの会社では、月給の内訳として、基本給に各種手当が上乗せされていることが一般的です。

このとき、基本給に各種手当を加えた月給を、割増賃金の計算の基礎として、これを1ヵ月あたりの平均所定労働時間で割ることにより、1時間あたりの賃金額を算定します。

1時間あたりの賃金額 = 割増賃金の計算の基礎となる賃金 ÷ 1ヵ月あたりの平均所定労働時間

割増賃金の基礎となる賃金から除外できる賃金

法律により、次の7つの賃金(手当)については、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができる(計算に含めない)こととされています。

【割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外できる賃金】

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ここで重要なポイントが2つあります。

1つ目のポイントは、上記①から⑦の賃金は、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができる賃金の例示(一例を示したもの)ではなく、限定して列挙したものであることです。

したがって、①から⑦に記載された賃金以外の賃金は、すべて割増賃金の計算の基礎としなければならないことに注意が必要です。

たとえ会社で就業規則などに定めたとしても、上記以外の賃金を割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することはできません。

2つ目のポイントは、上記①から⑦の賃金は、名称にかかわらず、実質、実態によって判断されることです(昭和22年9月13日基発17号)。

したがって、名称が一致していなくても、その賃金の趣旨や目的に照らして、上記①から⑦の賃金に該当する場合には、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。

割増賃金の計算の基礎から除外できる理由

上記①から⑤の賃金を、割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、これらの賃金は、一般的に、労働との直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給されているためです。

もし、これらの賃金を労働の対価として割増賃金の額に反映させてしまうと、例えば家族手当の場合、家族の多い従業員の方が、家族の少ない従業員に比べて残業単価が高くなり、不公平が生じます。

上記⑥の賃金を割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、当該賃金が労働基準法第37条に規定する「通常の労働時間または労働日の賃金」とはいえないためです。

上記⑦の賃金を割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、当該賃金が計算技術的に、割増賃金の計算の基礎に参入することが困難であるためです。

参考条文

参考に、根拠となる条文をご紹介します。

【労働基準法 第37条】

使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

【労働基準法施行規則 第21条】

法第37条第5項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

五 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

以下、上記の手当について個別に解説します。

①家族手当

割増賃金の計算の基礎から除外することができる家族手当とは、扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当をいいます。

除外できる例

扶養義務のある従業員に対して、家族の人数に応じて支給する家族手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。

【例】家族の扶養義務のある従業員に対して、配偶者は月額1万円、その他の家族は1人あたり5千円を支給する場合。

除外できない例

扶養家族の有無や、家族の人数に関係なく、一律に支給する家族手当については、割増賃金の計算の基礎から除外することができません。

【例】扶養家族の人数に関係なく、一律に、月額1万円を支給する場合

行政通達によると、家族手当が支給される従業員との均衡を図るために、独身者に対しても一定額の手当が支払われている場合には、独身者に支払われている手当と同額の部分は、割増賃金の計算の基礎から除外することはできないとされています(昭和22年12月26日基発第572号)。

また、扶養家族のある従業員に対して支給される家族手当のうち、「本人分」として支払われている部分は、割増賃金の計算の基礎から除外することはできないとされています(同通達)。

②通勤手当

割増賃金の計算の基礎から除外できる通勤手当とは、通勤距離または通勤に要する実際の費用に応じて算定される手当をいいます。

除外できる例

通勤に要した実際の費用に応じて支給される通勤手当(実費支給の通勤手当)は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。

【例】6ヵ月定期券の金額に応じた費用を、通勤手当として支給する場合

除外できない例

通勤に要した費用や通勤距離に関係なく、一律に支給される通勤手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができません(昭和23年2月20日基発297号)。

【例】実際の通勤距離に関わらず、従業員に対して一律に1日500円を支給する場合

③別居手当

別居手当は、転勤など会社の異動命令により、従業員がその扶養家族との別居を余儀なくされる場合などに支給される手当をいいます。

例えば、「単身赴任手当」などが該当します。

④子女教育手当

子女教育手当は、従業員が扶養する子の教育費などを補う目的で支給される手当をいいます。

⑤住宅手当

割増賃金の計算の基礎から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。

除外できる例

住宅に要する費用に、一定率を乗じた額を支給する住宅手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。

【例】賃貸住宅に居住する従業員に対しては、家賃の一定割合を支給し、持ち家に居住する従業員に対しては、ローン月額の一定割合を支給する場合

【例】賃料額やローン月額が段階的に増えるにしたがって、額を多くして支給する場合。例えば、家賃月額が5万円から10万円の従業員には2万円、家賃月額が10万円を超える従業員には3万円を支給することとされている場合

除外できない例

住宅の形態ごとに、一律に定額で支給する住宅手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができません(平成12年3月31日基発170号)。

【例】賃貸住宅に居住する従業員に対しては、2万円を支給し、持ち家に居住する従業員に対しては、1万円を支給する場合

⑥臨時に支払われた賃金

具体例

臨時に支払われた賃金とは、以下の賃金をいいます(昭和22年9月13日基発17号)。

・臨時的・突発的な事由にもとづいて支払われたもの

例…私傷病手当、加療見舞金

・支給条件はあらかじめ確定しているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するもの

例…結婚手当、退職金

参考裁判例(業績給について)

PMKメディカルラボ事件(東京地方裁判所 平成30年4月18日判決)では、会社が支給する「業績給」が「臨時に支払われた賃金」に該当すると判断されました。

この事件では、エステサービスを提供する会社が、店舗ごとに売上目標金額を定め、その売上目標を達成した場合に業績給を支給していました。

そして、多くの店舗では業績給が毎月支給されるものではなかったことから、その支給実績を考慮し、その発生が不確実な一定の条件に結び付けられており、「臨時に支払われた賃金」に該当するものとして、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外されました。

⑦1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金とは、賞与や、1ヵ月を超える期間についての精勤手当、勤続手当、能率手当などを指すと解されています(労働基準法施行規則第8条)。

【1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金】

  • 1ヵ月を超える期間を対象として支給される「賞与」
  • 1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される「精勤手当」
  • 1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される「勤続手当」
  • 1ヵ月を超える期間にわたる事由によって算定される「奨励加給」または「能率手当」

典型例としては賞与(ボーナス)が該当しますが、ここでいう賞与とは、あくまで、あらかじめ支給金額が確定されていない賃金を意味することに留意してください(昭和22年9月13日発基第17号)。

そのため、年俸制の給与体系で、月払いの給与部分と賞与部分とを合計した金額を年俸として定めている場合には、賞与の支給額があらかじめ確定しているといえるため、割増賃金の計算基礎から除外することはできないと解されています(平成12年3月8日基収第78号)。

その他の手当

宿日直手当

宿日直手当は、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外されます。

割増賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金」に対して生じるものであり、一般に深夜ではない所定労働時間に労働した場合に支払われる賃金です。

これに対して、宿日直手当は、所定労働時間外になされる労働に対する賃金であるため、「通常の労働時間または労働日の賃金」には含まれないと解釈されています。

夜間看護手当

正規の勤務時間による勤務の一部又は全部が深夜(午後10時後翌日の午前5時前の間)において行われる看護等の業務に従事したときに支給される「夜間看護手当」は、「通常の労働時間または労働日の賃金」ではないから、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができると解されています(昭和41年4月2日基収第1262号)。

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