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はじめに
令和4(2022)年10月1日に育児・介護休業法が改正され、「出生時育児休業」という新たな制度が創設されます。
出生時育児休業は、厚生労働省による通称では「産後パパ育休」ともいわれ、男性が、子の出生後8週間以内に、最大4週間まで休業することができる制度をいいます(育児・介護休業法第9条の2第1項)。
これに伴って、雇用保険法が改正され、従業員に対する休業期間中の給付として、「出生時育児休業給付金(以下、適宜「給付金」といいます)」が創設されます(雇用保険法第61条の8)。
今回は、出生時育児休業給付金について、支給される金額や受給要件、申請手続などについて解説をします。
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「出生時育児休業給付金」の制度の概要
従業員が出生時育児休業を取得した場合には、会社には休業期間中の賃金を支払う義務がありません。
そこで、雇用保険では、従業員の休業期間中の生活を保障するために、休業をした従業員に対する給付金を設けることによって、従業員の生活と雇用の安定を図っています。
出生時育児休業給付金の制度内容については、育児休業を取得した場合の「育児休業給付金」と共通する部分が多いですが、分割して休業できる点や、休業中の就労を可能としている点などの特徴がありますので、育児休業給付金との相違点を確認しながら理解するとよいでしょう。
出生時育児休業給付金を受給できる要件
受給できる要件
給付金を受給するためには、休業開始日前の2年間に、雇用保険の被保険者であった期間(これを「みなし被保険者期間」といいます)が12ヵ月以上あることが必要です(雇用保険法第61条の8第1項)。
なお、「休業開始日」は、出生時育児休業を分割して取得する場合には、初回の休業開始日をいいます。
また、「雇用保険の被保険者であった期間」とは、月のうち賃金支払基礎日数(簡単にいうと、働いた日)が11日以上ある月をいいます。
なお、入社して間もない従業員であっても、前に勤務していた会社で加入していた雇用保険の被保険者期間を通算することができる場合があります。
受給できる回数
出生時育児休業は2回まで分割することができるため、出生時育児休業給付金も2回まで受給することができます。
出生時育児休業給付金の支給額の計算方法
出生時育児休業給付金の支給額の計算方法
出生時育児休業を取得すると、出生時育児休業給付金として、休業1日あたり「休業開始時の賃金日額の67%」が支給されます(雇用保険法第61条の8第4項)。
なお、給付金については所得税などが課税されず(雇用保険法第12条)、また、休業期間中は社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の免除の対象となります。
【出生時育児休業給付金の支給額】
休業開始時賃金日額(A)×休業をした日数(B)×支給率67%(C)
休業開始時賃金日額(A)
「休業開始時賃金日額」は、従業員が休業を開始した日を基準として算定した、賃金の日額をいいます。
賃金日額は、「休業を開始する前6ヵ月間の賃金÷180」によって算定します。
なお、賃金日額を計算する際の賃金は、賃金の総支給額であり(手取りではない)、賞与は含まれません。
休業をした日数(B)
出生時育児休業は、最長4週間まで取得することができるため、支給日数は最大で「28日」になります。
支給率(67%)(C)
給付金は、休業1日あたり、賃金日額の67%が支給されます。
なお、出生時育児休業に引き続いて、その後、育児休業を取得した場合には、育児休業給付金が支給されます。
育児休業は、原則として子が1歳になるまで休業することができる制度です。
育児休業給付金は、休業開始後180日までは賃金日額の67%が支給され、181日目以降は賃金日額の50%が支給されます。
このときの留意点として、育児休業給付金が賃金日額の67%支給される期間である180日については、出生時育児休業給付金を受給した日数も通算されます(雇用保険法第61条の8第8項、第61条の7第6項)。
例えば、出生時育児休業を28日間取得した後、引き続いて育児休業を取得した場合、賃金日額の67%の育児休業給付金が支給されるのは、180日から28日を差し引いた、残りの152日間ということになります。
会社から賃金が支払われた場合の支給額の調整
休業中に会社から賃金が支払われた場合は、会社から支給された賃金が、賃金日額の80%を超える場合には、出生時育児休業給付金は支給されません(雇用保険法第61条の8第5項)。
会社から支払われた賃金が賃金日額の80%未満である場合には、その賃金と給付金の額の合計が、賃金日額の80%を超える場合には、その超える部分について給付金が減額されます。
【会社から賃金が支払われた場合の支給額の調整】
会社から支払われた賃金が、「休業開始時賃金日額×休業日数」(以下、「A」という)に対して、
- 13%以下の場合:「A×67%」を支給(全額支給)
- 13%超80%未満の場合:「A×80%-会社から支給された賃金額」を支給(一部支給)
- 80%以上の場合:給付金は支給されない(全額不支給)
出生時育児休業期間中に就労をした場合の取り扱い
原則(最大28日の休業をした場合)
給付金の支給については、休業期間中における就労日数(または就労時間)の上限が設けられており、上限を超える場合には給付金は支給されません。
就労日数の上限は原則として10日とし、10日を超える場合には、上限は80時間となります。
ただし、これは出生時育児休業を最大28日間取得した場合の上限であり、休業日数が28日に満たない場合には、次の例外によります。
例外(28日に満たない休業をした場合)
従業員が28日に満たない休業をした場合には、前記の上限日数(または時間)は、休業期間に比例して変動します。
具体的には、次の計算によって、上限日数を算出します。
【上限日数の計算式】
10日×(休業をした日数÷28日)=上限日数
例えば、出生時育児休業として14日間休業した場合、出生時育児休業給付金の支給対象となる日数の上限は、「10日×(14日÷28日)=5日」となり、給付金を受給するためには、原則として就労日数を5日以下に収める必要があります。
このとき、計算結果に1日未満の端数があるときは、これを切り上げた日数とします。
また、休業日数が上記日数を超える場合には、次の計算によって算出する時間が上限となります。
【上限時間の計算式】
80時間×(休業をした日数÷28日)=上限時間
出生時育児休業給付金の申請手続
申請先
出生時育児休業給付金の支給申請手続は、事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に申請書を提出することによって行います。
申請期限
申請期限は、出生の日(出産予定日前に子が出生した場合にあっては、当該出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から起算して2ヵ月を経過する日の属する月の末日までの期間に申請する必要があります。
この申請期限は、2回に分割をして出生時育児休業を取得した場合においても同じです。
申請書および添付書類
給付金の申請に際しては、主に次の書類を提出する必要があります。
- 申請書
- 休業開始時賃金証明書、および、賃金の額を証明する書面(賃金台帳など)
- 休業の対象となる子がいることを証明する書面(母子健康手帳など)
- 従業員が雇用されていることを証明する書面(労働者名簿など)
なお、②の休業開始時賃金証明書については、同一の子について2回以上の育児休業をした場合、休業開始時賃金証明書は、初回の育児休業についてのみ提出することが求められます。
出生時育児休業給付金が不支給となる事由
従業員が次のいずれかに該当する出生時育児休業をしたときは、出生時育児休業給付金は支給されません(雇用保険法第61条の8第2項)。
- 同一の子について従業員が3回以上の出生時育児休業をした場合の、3回目以後の出生時育児休業
- 同一の子についてした出生時育児休業の日数が合計28日に達した日後の出生時育児休業
出生時育児休業給付金の施行日
出生時育児休業給付金を定める雇用保険法の施行日は、令和4(2022)年10月1日です。