育児・介護休業法の改正により、令和4(2022)年4月1日から、会社に対して、育児休業の取得の促進に向けて、次の3つの措置を講じることが義務付けられます。
【会社に義務付けられる3つの措置】
- 雇用環境の整備に関する措置を講じる義務
- 育児休業制度を従業員に周知する義務
- 育児休業の取得の意向を確認する義務
以下、順に解説をします。
なお、今回の改正によって、会社は、就業規則または育児・介護休業規程などの変更まで求められるものではありませんが、会社の労務管理の運用に関わる内容であるため、就業規則や育児休業規程などに定めておくことが望ましいと考えます。
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Contents
雇用環境の整備に関する措置を講じる義務
措置義務の内容
この義務は、従業員が育児休業の申し出や、その取得を円滑にすることができるよう、会社に雇用環境を整備していくことを義務付けるものです。
具体的には、会社は、次のいずれかの措置を選択して講じなければならないと定められています(育児・介護休業法第22条第1項)。
【雇用環境の整備に関する措置】
- 育児休業・出生時育児休業に関する研修の実施
- 育児休業・出生時育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
- 自社の従業員の育児休業・出生時育児休業の取得事例の収集・提供
- 自社の従業員への育児休業・出生時育児休業の取得促進に関する方針の周知
また、会社は、可能な限り複数の措置を講じることが望ましいとされています。
なお、次の取り組みは、会社が雇用しているすべての従業員(正社員やパート・アルバイトなど雇用区分を問わない)を対象に行う必要があります。
育児休業・出生時育児休業に関する研修の実施
「研修」とは?
会社が雇用環境の整備のために行う「研修」としては、例えば、社内で育児休業に関する制度について、従業員に向けた勉強会・講習・啓蒙などを定期的に実施することが考えられます。
これらの実施は、外部(業者や専門家)に依頼する、あるいは総務・人事担当者などが対応してもよいでしょう。
研修の形式は、対面(集合研修)に限られておらず、例えば、動画の視聴や、eラーニングなどによる方法も考えられます。
研修の内容
研修の内容としては、例えば次の内容が考えられます。
【育児休業に関する研修内容の例】
- 育児休業などに関する制度内容(対象者、休業期間、手続など)
- 社内規程の説明(就業規則・育児休業規程など)
- 育児休業中の保障(社会保険による給付金、社会保険料の免除など)
- マタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)など、妊娠・出産に関するハラスメントの防止に向けた取り組み
- 育児休業の取得促進に向けた会社の取り組み(目標など)
研修の対象者
研修の対象者として、経営者・管理職層に向けた研修と、一般従業員層に向けた研修の内容とを分けることも考えられます。
その理由は、社内の立場や役割に応じて、知っておくべき、あるいは気を付けるべき内容が異なる場合があるためです。
特に、経営者・管理職層に対しては、現場で管理職(上司)による育児休業を阻害するような言動が生じないように、育児休業を取得しやすい組織風土の醸成を目的とした研修が考えられます。
育児休業・出生時育児休業に関する相談体制の整備
相談体制の整備を行う場合には、例えば「育児休業に関する相談については、人事部の担当者を窓口とします」など、自社の相談体制を周知・啓蒙しておくことなどが考えられます。
形式的に窓口を設置するだけであれば、比較的簡単にクリアできる措置といえますが、形式面だけでなく、実質的にも相談窓口が適切に機能することを目指す必要があります。
相談窓口を設置したものの、周知・啓蒙がなされておらず、まったく相談がないまま窓口が機能していないケースはよくあります。
そこで、相談窓口を担当する部署や担当者は、普段から窓口の存在を周知・啓蒙すると共に、従業員から問い合わせがあった際には的確に対応できるよう、必要知識の研鑽や相談マニュアルを作成するなど、事前の準備をしておくことが必要です。
自社の従業員の育児休業・出生時育児休業の取得事例の収集・提供
自社である程度の取得実績が出てきたら、その事例を収集し、従業員に提供することが望まれます。
取得実績の有無によって、従業員にとって育児休業の取得のしやすさが大きく異なるためです。
その際には、単に「何日取得したか」という情報だけでなく、「業務への引継ぎをどのように工夫したか」「周りはどのようなサポートを行ったか」「取得に際して困ったことはあったか」など、より具体的な情報も併せて収集・提供すると良いでしょう。
自社の従業員への育児休業・出生時育児休業の取得促進に関する方針の周知
「方針」とは、自社における育児休業の取得促進について、経営トップを含めた経営者層がどのように捉え、取り組んでいくのか、従業員に対するメッセージを表明するものです。
抽象的な方針に終始することなく、例えば、「男性の育児休業の取得率を、3年以内に何%にする」など、数値目標を明らかにする指針も良いと考えます。
育児休業制度を従業員に周知する義務
措置義務の内容
会社は、従業員本人、または男性従業員の配偶者が妊娠・出産したことを会社に申し出た際に、当該従業員が利用できる制度について、本人に周知する義務が定められました(育児・介護休業法第21条第1項)。
なお、当然ではありますが、取得を控えさせるような形での周知は認められません。
周知すべき事項
会社は、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、育児休業制度等に関する次の事項の周知を、個別に行う必要があります。
会社が従業員に対して周知する事項は、次のとおりです。
【周知すべき事項】
- 育児休業・出生時育児休業に関する制度の内容
- 育児休業・出生時育児休業の申請先
- 育児休業給付金・出生時育児休業給付金に関する事項
- 従業員が育児休業・出生時育児休業期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
個別周知・意向確認の方法
周知、および後述する取得意向確認の方法として、会社の所属長や人事担当者などが従業員との面談を実施して行う、もしくは書面に制度内容を記載して交付するなど、次の選択肢が定められています。
【個別周知・意向確認の方法】
- 面談
- 書面の交付
- FAX(従業員が希望する場合のみ)
- 電子メール(従業員が希望する場合のみ)
上記のうち面談の方法によるにしても、単に口頭で制度を通知するだけでなく、あらかじめ説明資料を作成しておき、これらの書面をもとに説明する方が望ましいでしょう。
特に、従業員は休業期間中の収入面に不安を感じることが多いため、休業期間中の給付金の支給額や、社会保険料の免除について丁寧な説明が必要になると考えます。
育児休業の取得の意向を確認する義務
措置義務の内容
会社は、育児休業を取得できる要件を満たしている従業員に対して、育児休業を取得する意向があるのかどうか、面談などによって確認するための措置を講じる義務が定められました(育児・介護休業法第21条第1項)。
留意点としては、会社から意向を確認する「働きかけ」を行うことまでが義務なのであって、育児休業などを「取得するか、それともしないのか」までを確定させることまでは求められていません。
取得意向を確認するタイミング
取得意向を確認するタイミングについては、特に決まりはありません。
通常は、女性であれば安定期に入り、会社への報告があったタイミングや、男性であれば子の出生を会社に届け出たタイミングなどで行うのが自然でしょう。
ただし、会社として育児休業の取得率を上げるためには、例えば、出生後に一定期間が経過しても育児休業を取得していない従業員に対しては、改めて取得の意向確認を行うなど、段階的に取得をしていくことも考えられます。
罰則
会社が育児・介護休業法に違反した場合において、直ちに罰則が適用されるものではありません。
厚生労働大臣(実施は都道府県労働局長)は、育児・介護休業法への違反が疑われる会社に対しては、報告を求め、または助言、指導、勧告をすることができるとされています(育児・介護休業法第56条)。
この報告の求めに対して、会社が何ら報告をせず、または虚偽の報告をした場合には、「20万円以下の過料」に処せられる場合があります(育児・介護休業法第第68条)。
さらに、勧告を受けた会社がこれに従わなかったときは、厚生労働大臣はその事実を「公表」することができるとされており、この公表が会社に対する実質的なペナルティ(社会的制裁)といえます(育児・介護休業法第56条の2)。
施行日
法律の施行日は、令和4(2022)年4月1日です。