働き方改革法(2018年6月29日成立)により、2019年4月1日から、年に5日間の有給休暇を取得することが義務になります。
今回は、法律の改正に伴い、有給休暇の管理などの実務に携わっている総務や人事の担当者の方にとって必要となる知識を解説します。
できるだけ分かりやすく解説していますが、少し上級者向けの内容になりますので、知識に不安のある方は、まずは基本的な内容を確認してからお読みいただくことをお勧めします。
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有給休暇の取得義務化 法律の「経過措置」について
有給休暇の取得義務化に関する法律(労働基準法)の改正は、2019年4月1日を施行日としています。
しかし、実務上は、施行日当日からいきなり法律を適用してしまうと、不都合が生じることが予想されることから、働き方改革法には「経過措置」が定められています。
では、もし経過措置がない場合、どのような不都合が生じるのでしょうか?
例えば、有給休暇の基準日(有給休暇が付与される日)が毎年6月1日である従業員のAさんがいるとします(図中2.の場合)。
2019年4月1日以降、年に5日間の有給休暇を取得することが義務になりますが、もし、このAさんに改正後の法律をいきなり適用してしまうと、Aさんは4月1日から5月31日までの2ヵ月の間に、5日間の有給休暇を取得しなければならない義務が生じることになります。
しかし、そのように取り扱ってしまうと、会社にとってもAさんにとっても大きな負担が生じる可能性があります。
さらに極端な例では、有給休暇の基準日が4月10日である場合、厳密に法律を当てはめると、4月1日から4月9日までの間に、5日間の有給休暇を取得させなければなりません。
そこで、このような実務上の支障を生じさせないために、経過措置が設けられています。
経過措置の内容は、法律の施行日からすぐに法律を適用するのではなく、法律の施行日後、最初の基準日が到来するまでは、この法律を適用させないこととし、施行日後、最初に到来する基準日から1年間について法律を適用する(5日間の有給休暇を取得する)こととしています。
したがって、Aさんは、2019年4月1日から5月31日までの間は、経過措置により改正後の法律が適用されず、2019年6月1日から2020年5月31日までの1年間に、5日間の有給休暇を取得すれば良いことになります。
ただし、基準日が4月1日ちょうどである従業員については、上記のようなタイムラグが生じないため、法律の施行日当日からこの法律を適用する(2019年4月1日から2020年3月31日までの1年間に、5日間の有給休暇を取得する)こととしています(図中1.の場合)。
最後に条文をご紹介します。
この法律の施行の際4月1日以外の日が基準日(継続勤務した期間を労働基準法第39条第2項に規定する6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間をいう。以下この条において同じ。)の初日をいい、同法第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る当該各期間の初日より前の日から与えることとした場合はその日をいう。以下この条において同じ。)である労働者に係る有給休暇については、この法律の施行の日後の最初の基準日の前日までの間は、新労基法第39条第7項の規定にかかわらず、なお従前の例による。
有給休暇の基準日が、法律と異なる場合の対応
有給休暇を与えるタイミング(=基準日)については、会社によって、法律とは異なる独自のルールを設けている場合があります。
この会社独自のルールがある場合に、働き方改革法による改正について、実務上どのように対応していくべきかを解説します。
基準日に関する会社独自のルールとは?
有給休暇の基準日については、法律よりも良い条件(法律よりも基準日を早める)にする分には、会社の自由です。
法律では、原則として、入社日から6ヵ月を経過した日が基準日となり、10日間の有給休暇が与えられますが、例えば、会社が独自に「入社日を基準日とする」と定めて、「入社日に10日間の有給休暇を与える」というルールに変えたとしても、法律よりも良い条件(従業員にとっては法律よりも早いタイミングで有給休暇をもらえる)であるため、法律に違反することにはなりません。
逆に、例えば、会社が「入社日から1年経過した日を最初の基準日とする」と定めることは、従業員にとって法律よりも不利な条件であるため、法律に違反することになります。
会社の独自ルールがある場合、実務上どのような対応が必要になるか?
独自のルールの内容によって対応が異なりますので、ここでは、以下の2つのパターンをもとに解説します。
法律の基準日よりも前に有給休暇を与える場合
例:「入社日に10日間の有給休暇を与える」と定めている場合
例えば、2019年4月1日に入社する従業員については、法律どおりの基準日は同年の10月1日となります。そして、この基準日から1年以内に5日間の有給休暇を取得する必要があります。
これに対して、会社独自のルールにより、入社日に10日間の有給休暇を与えたとします。
この場合には、有給休暇は、(10月1日ではなく)入社日である4月1日から1年の間に、5日間取得させる義務が生じます。
つまり、会社独自の基準日を設ける場合には、その基準日からスタートして1年以内に5日間の有給休暇を取得させる必要があるということです。
さらに、次年度以降も同様に、2020年4月1日からの1年間について、5日間の有給休暇を取得させなければならないことになります。
入社して2年目以降に基準日を統一している場合
例:従業員の基準日を統一するため、「毎年4月1日を基準日とする」と定めている場合
有給休暇の基準日は、従業員の入社日に応じて決まるため、各従業員について基準日が異なるというケースが多くあります。
そのため、法律どおりの基準日に有給休暇を与えていくと、従業員ごとの有給休暇の日数の管理が煩雑になることから、会社によっては、基準日を4月1日などの分かりやすい日に統一していることがあります。
例えば、4月1日に入社した従業員は、6ヵ月経過後の10月1日が基準日(ここで与えられる有給休暇は10日間)となり、その次は、翌年の10月1日が基準日(ここで与えられる有給休暇は11日間)となります。
ここで、後者の10月1日の基準日を前倒しにして(この例では6ヵ月前倒し)、入社して1年後の4月1日を基準日とするように統一することがあります。
これによって、従業員が1年のうちどのタイミングで入社したとしても、4月1日で基準日を統一することができ、労務管理がしやすくなるというメリットがあります。
ここで、有給休暇の取得の義務化と関連して問題になるのが、「5日間の有給休暇をとらなければならない期間が、重なってしまう」ということです。
下図をご覧ください。
本来であれば、①2019年10月1日から2020年9月30日までの1年の間に5日間の有給休暇を取得させなければなりませんが、2020年4月1日に統一の基準日を設けることにより、重ねて、②2020年4月1日から2021年3月31日までの1年の間に5日間の有給休暇を取得させる義務も生じるため、①と②のうち重なってしまった半年間(重複期間)をどう処理すべきかが問題となります。(図中【A】)
重複期間が生じることにより、結局、いつからいつまでに、何日間の有給休暇を取得させるべきか分からなくなってしまいます。
この場合には、①の初日(2019年10月1日)から、②の最終日(2021年3月31日)までの18ヵ月間をひとつの期間として、比例按分することにより、当該期間中に取得すべき有給休暇の日数を計算します。
計算は簡単です。
「1年間(12ヵ月)で5日間」取得させるのですから、
5日間 ÷ 12ヵ月 × 18ヵ月 = 7.5日
つまり、この会社の例では、①の基準日から18ヵ月の間に、7.5日間の有給休暇を取得させる必要があるという結論になります。(図中【B】)
なお、この計算が必要なのは最初だけで、その後は、統一された基準日ごとに、1年に1回有給休暇が与えられることになりますので、その1年の間(毎年4月1日から翌3月31日まで)に5日間の有給休暇を取得することになります。