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【新型コロナウイルス】雇用調整助成金(休業手当)の要件・助成金額・申請方法などを解説

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナウイルス」といいます)における会社の対応として、従業員に休業を命じる場合があります。

そして、その場合に支給された休業手当の一部を助成する目的で、「雇用調整助成金」が設けられています。

雇用調整助成金の要件や助成金額は非常に分かりにくく、公表されている厚生労働省のリーフレットなどを断片的に読むだけでは、理解できない場合があります。

そこで、今回は、雇用調整助成金に関する情報を取りまとめて、わかりやすく解説します。

なお、本記事は、2020年3月30日現在において一般に公表されている内容をもとに作成しています。

本記事に記載する内容は、助成金の受給を保障するものではなく、助成金の支給決定にかかる判断は、あくまで行政(労働局)によるものであることをあらかじめご了承ください。

雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金は、景気の悪化などの理由によって、会社の業績に影響があった場合に、事業主が行った雇用調整(休業などの措置)に対して助成金を支給することにより、会社が従業員を解雇することを防ぐためにあります。

雇用調整助成金には、様々な種類があります。

今回の新型コロナウイルスにおいては、コロナウイルスの影響により業績が低下したなどの理由によって、事業主が従業員を休ませた場合に、その支払った休業手当の一部を助成するものです。

新型コロナウイルスに関する雇用調整助成金については、休業に限らず、従業員に教育訓練や出向をさせた場合も対象となりますが、話を分かりやすくするため、今回は「休業」に話を絞って解説します。

新型コロナウイルスにかかる雇用調整助成金の要件・助成額【まとめ】

新型コロナウイルスにかかる雇用調整助成金の要件と助成額を簡単にまとめると、次のとおりです。

以下、【①】から【⑦】の順に解説します。

要件

【要件】

新型コロナウイルスの影響に伴う「経済上の理由【①】」によって、事業活動が縮小したこと【②】により、事業主【③】が従業員【④】を一時的に休ませた場合【⑤】に、「休業手当【⑥】」を支払ったこと。

助成額

【助成額】【⑦】

事業主が支払った休業手当に相当する額の、2分の1(大企業)または3分の2(中小企業)を、事業主に対して助成する(ただし、日額の上限は、8,330円(日額))。

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、原則として3分の2(大企業)または5分の4(中小企業)とし、さらに従業員の解雇等を行わない場合は4分の3(大企業)または10分の9(中小企業)に引き上げられています。

雇用調整助成金の要件

【①】「経済上の理由」があること

厚生労働省のリーフレットによると、「経済上の理由」の例としては、新型コロナウイルスの影響によって、例えば、以下のような事例に該当する場合とされています。

【「経済上の理由」の一例】

  • 取引先が、新型コロナウイルスの影響を受けて事業活動を縮小した結果、受注量が減ったために、自社の事業活動が縮小してしまった場合
  • 国や自治体などから市民活動の自粛要請があり、その影響により外出などが自粛され、客数が減ったために、自社の事業活動が縮小してしまった場合
  • 風評被害により観光客の予約のキャンセルが相次ぎ、これに伴い客数が減ったために、自社の事業活動が縮小してしまった場合

【②】事業活動の縮小要件

助成金の支給要件として、「生産指標」が定められています。

生産指標とは、販売量、売上高などの事業活動を示す指標をいいます。

雇用調整助成金における生産指標の要件は次のとおりです。

【生産指標】

届出の直近1ヵ月の生産指標が、前年の同時期に比べて、10%以上低下していること

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、生産指標の要件は5%に引き下げられています。

事業を開始して間もない事業主については、前年に比較できる月がない場合には、「2019年12月」と比較して確認します。

生産指標をみる期間については、特例(2020年2月28日厚生労働省)により、3ヵ月から1ヵ月に短縮されています。

なお、他の雇用調整助成金においては、「最近3ヵ月の雇用量が対前年比で増加している場合」には対象となりませんが、この点については、今回は特例(2020年2月28日厚生労働省)により、当該要件は撤廃されています。

生産指標を確認するための提出書類として、直近1ヵ月分および前年同期1ヵ月分の月ごとの売上高、生産高または出荷高などを確認できる「月次損益計算書」、「総勘定元帳」、「生産月報」などの書類が必要になるとされています(雇用調整助成金ガイドブック(令和元年8月1日))。

【③】事業主の要件

事業主は、法人・個人事業主を問いません。

また、業種も問いません(全業種が対象)

当初は、中国関係の事業に限定されていましたが、厚生労働省により、2020年2月28日以降、対象が全業種に拡大されました。

これにより、日本人観光客の減少の影響を受ける観光関連産業や、部品の調達・供給の停滞の影響を受ける製造業なども幅広く助成金の対象となります。

助成金は雇用保険から支給されるため、雇用保険の適用対象となる事業所であることが必要です。

今回の雇用調整助成金については、以下の「特例」により、事業主の要件を大幅に緩和しています。

  • 事業所を設置してから1年未満でも対象となる
  • 他の雇用調整助成金を受給してから1年が経過していない場合でも、支給対象となる
  • 他の雇用調整助成金を受給した際の受給日数は考慮されない
他の雇用調整助成金は、前回の助成金の支給対象となった期間の満了日から1年(この期間を「クーリング期間」といいます)経過していないと助成金を受給できず、また、受給する場合には前回の受給日数の影響を受けることがあります。

その意味で、新型コロナウイルスに関する雇用調整助成金は、事業主に関する要件が大幅に緩和されています。

【④】従業員の要件

従業員については、雇用保険に加入している者(被保険者)であれば、原則として対象となります。

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、雇用保険の被保険者でない従業員の休業も助成金の対象に含めることとしています。

他の雇用調整助成金では、6ヵ月以上雇用されていることが要件とされていますが、特例(2020年3月4日厚生労働省)により、この要件は撤廃されています。

したがって、入社後間もない新入社員が休業した場合であっても、助成金の対象となります。

【⑤】休業および休業期間に関する要件

対象となる休業

「休業」とは、以下のような理由による休業を想定しています。

  • 事業活動が縮小したことにより、生産活動などに要する人員が減ったことによって従業員を休ませた場合
  • 新型コロナウイルスの拡大防止を図るために、従業員を一斉に休業させたり、濃厚接触者を休ませた場合

助成金における「休業」とは、所定労働日に従業員を休ませることをいいます。

単に会社が営業日を休みにすることを意味するものではありませんので、例えば、会社の営業日としては休むこととするものの、従業員を出勤させ内部の事務処理などをさせている場合は「休業」には該当しません(「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置に関するQ&A(令和2年3月4日版)」)。

休業日に関する要件

助成金の対象になる休業は、休業の「初日」が、2020年1月24日から2020年7月23日まで(6ヵ月間の期間限定)とされています。

必要となる休業日数

助成金の要件として、休業等の延べ日数が、判定基礎期間(賃金締切期間)における所定労働日数の20分の1以上(中小企業)または15分の1以上(大企業)であることが必要です。

助成金は原則として全1日単位(終日)の休業が必要であり、半日だけの休業など、短い休業については対象になりません。

ただし、終日ではなく短時間休業を行う場合に、1時間以上、かつ、従業員全員が一斉に休業する場合には、助成金の対象となります。

助成金の支給限度日数

休業した日のすべてが助成金の対象となるものではなく、支給限度日数が定められています。

雇用調整助成金の支給限度日数は、「1年間で100日」とされています(従業員1人あたりの上限です。休業させる従業員の人数について上限はありません)。

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、上記の日数に、当該対象期間の日数を加算することが認められています。

休業等計画届の提出

通常の助成金では、休業の前に計画届を提出することが必要ですが、特例(2020年2月28日厚生労働省)により、休業等計画届は、「事後提出」が認められています

ただし、事後提出をする場合には、2020年5月31日までに届出することが必要です。

5月31日以降に休業を行う場合は、通常どおり事前提出が必要になります。

事前提出する場合は、計画届を、休業を開始する日の2週間前をめどに提出する必要があります。

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、休業等計画届の事後提出を6月30日までに延長しています。

労使協定の作成・提出

休業は「労使協定」に基づき実施される必要があり、その労使協定書を提出する必要があります。

労使協定書には、最低限、以下の内容を定める必要があります。

【労使協定の内容】

  1. 休業の実施予定時期・日数
  2. 休業の時間数
  3. 対象となる労働者の範囲および人数
  4. 休業手当額の算定基準
労使協定においては、会社と従業員の代表者が記名・押印しますが、従業員代表者が適切に選任されたことを証明する書類として、「労働者代表選任届」を提出することが求められます。

休業協定書のひな型

以下の協定書は、「雇用調整助成金ガイドブック(令和元年8月1日)」を参考に作成したひな型です。

インターネット検索で、「休業協定書 様式見本 雇用調整助成金」などと入力すれば、各労働局のウェブサイトに掲載されている見本をダウンロードすることができます。

休業協定書

●●株式会社は、その従業員代表者との間で、休業の実施に関し下記のとおり協定する。

一、休業の実施予定時期

休業は、●年●月●日から●年●月●日までの●ヵ月間において、●日間実施することを予定する。

二、休業の時間数

1日の休業は、始業時刻(●時●分)から終業時刻(●時●分)までの間に行う。

三、休業の対象者

休業の対象者は全従業員とし、休業実施日においてはそのうち、概ね●人をできる限り輪番によって休業させるものとする。

四、休業手当の額の算定基準

休業中は、休業1日当たり、次のとおり算定した額の60%相当額の休業手当を支給する。なお、当該賃金には基本給に加えて、●●手当と●●手当を含むものとする。

<1日当たりの賃金額の算定方法>

イ、月ごとに支払う賃金(月給制)…その月額÷1ヵ月の所定労働日数

ロ、日ごとに支払う賃金(日給制)…その日額

ハ、時間ごとに支払う賃金(時給制)…その時間額×1日の所定労働時間数

五、有効期限

この協定は●年●月●日に発効し、●年●月●日に失効する。

 

協定日 ●年●月●日

●●株式会社

代表取締役社長 ●●●● 印

従業員代表 ●●●● 印

【⑥】休業手当の支払い

休業手当の支給額については、労働基準法第26条に定められており、事業主がこれに違反する場合には、助成金が支給されません。

労働基準法 第26条

(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

雇用調整助成金の助成額

【⑦】雇用調整助成金の助成額

助成額は、事業主が支払った休業手当の額に相当する額(基準額)の2分の1(大企業)または3分の2(中小企業)が支給されます。

ただし、厚生労働省が2020年3月28日に公表した緊急対応期間(2020年4月1日から6月30日まで)においては、原則として3分の2(大企業)または5分の4(中小企業)とし、さらに従業員の解雇等を行わない場合は4分の3(大企業)または10分の9(中小企業)に引き上げられています。

日額の上限は、日額8,330円です。

厳密には、事業主が従業員に支払った休業手当の金額がそのまま助成金の基準額となるものではなく、労働局所定の算定基準により算定された額が基準となり、その額に助成率(2分の1または3分の2)が乗じられます。

基準額(参考)

雇用保険料の算定の基礎となった賃金総額÷被保険者数(1ヵ月平均)÷年間所定労働日数×休業手当の支払率

「支払率」については、例えば、平均賃金の100%を支給したのであれば、支払率は100%となります。

大企業・中小企業の分類

助成金における大企業・中小企業の分類は、以下の基準によります。

資本金の額または労働者数がいずれかに該当すれば、中小企業に該当します。

主たる事業 資本金の額または出資の総額 常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

雇用調整助成金の申請手続

助成金の申請は、休業を実施した期間が終了してから2ヵ月以内に行います。

申請は、事業所を管轄する都道府県労働局、助成金センター、ハローワークなどに対して行います。

管轄および申請先は、こちらをご確認ください。

支給申請した後、2ヵ月程度を目安として、都道府県労働局により、支給または不支給が決定されるようです。

雇用調整助成金の申請書類

本記事の最後に、申請書類を掲載します。

申請書類は、厚生労働省のホームページ内にある「雇用調整助成金の様式ダウンロード」にあります。

申請書類は複雑であり、ケースによって異なる場合もあるため、インターネット上の情報だけで判断することは難しいといえます。

したがって、申請の際には、必ず申請先に確認をしてください。

一般的には、概ね次の申請書が必要になるようです。

【支給申請書】

  • 休業等支給申請書〔様式第5号(1)〕

【休業を証明する書類】

  • 休業等労使協定
  • 労働者代表選任届
  • 休業・教育訓練実績一覧表〔様式第5号(3)〕
  • 休業等実施計画(変更)届〔様式第1号(1)〕

【事業の縮小を証明する書類】

  • 雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書(新型コロナウイルス感染症関連)〔様式特第4号〕
  • 生産指標を証明する書類(決算書など)

【その他の書類】

  • 会社の業種・事業規模・資本金などを証明する書類(登記簿、組織図、会社案内など)
  • 会社の所定労働日数や賃金額などを証明する書類(就業規則、賃金規程、年間カレンダーなど)
  • その他、労働局から提出を求められる書類
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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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