労働安全衛生

会社の職場における勤務時間中の禁煙命令(禁煙の強要・強制)は適法?違法?

2020年4月1日に健康増進法が改正され、会社は法律に従い、職場に喫煙専用室を設置するなど、受動喫煙を防止するための措置を講じることが義務付けられます。

法律の改正により、今後は、職場内を全面禁煙とする会社の割合が増えることが予想されます。

さらに、会社によっては、喫煙場所を職場外に制限するだけに留まらず、就業時間中の喫煙自体を禁止する動きもみられるようです。

そこで、この記事では、会社が従業員に対して、勤務時間中、休憩時間中、勤務時間外のそれぞれの時間帯における禁煙命令を発することの是非について、法律をもとに解説します。

なお、健康増進法の改正に関する基本的な事項は、以下の記事をご覧ください。

健康増進法の改正による職場(事務所)の受動喫煙対策義務をわかりやすく解説【2020年施行】受動喫煙の防止義務を定めた健康増進法が改正され、2020年4月1日から全面的に施行されます。 今回の改正は東京オリンピックの開催に...

会社の職場における勤務時間中の禁煙命令の是非

結論として、会社が従業員に対して、勤務時間中の喫煙を禁止すること(禁煙命令)は、原則として違法ではありません

その理由は、大きく次の2つです。

  1. 従業員には「職務に専念する義務」があること
  2. 従業員の「喫煙の自由」は、一般的に制限されること

従業員の「職務専念義務」とは?

一般的に、従業員は、会社の指示する業務の内容・遂行方法・場所などに従い、労働を誠実に遂行する義務(誠実労働義務)を負うと解されています。

そして、従業員は、その勤務時間中は職務に専念し、私的な活動を差し控える義務(職務専念義務)を負うと解されています。

これらの義務があることを根拠として、会社は従業員に対し、その職務に専念するために勤務時間中の喫煙を禁止する(喫煙によって職場を離れないようにする)よう命じることができる、と解されます。

従業員に「喫煙の自由」はあるか?最高裁判所の判例は?

従業員の「喫煙の自由」については、権利として法律に明記されていません。

過去に「喫煙の自由」について争われた裁判(最高裁判所昭和45年9月16日判決)では、喫煙の自由は「制限に服しやすい性質の権利」であると判断しています。

判決内容をごく簡単に要約すると、次のとおりです。

  • たばこは生活必需品とまでは言えず、ある程度普及率の高い嗜好品に過ぎない
  • 喫煙の自由は、あらゆる時、場所において保障されなければならないものではない

現在では、判決当時(昭和45年)よりも、さらに禁煙に対する世間の意識が高まっており、喫煙者の権利よりも、「受動喫煙の被害にさらされない」という非喫煙者の権利を守るべきとする風潮が強くなっています。

このような事情から、やはり喫煙者の「喫煙の自由」はかなりの制約を受けざるを得ないものであるといえるでしょう。

従業員の休憩時間中まで禁煙命令を発することはできるか?

会社は、就業時間中のみならず、休憩時間中も含めて、つまり、従業員が会社にいる間の時間をすべて禁煙するよう命じることはできるのでしょうか。

「休憩時間の自由利用の原則」と禁煙命令

会社は、従業員に対し、労働基準法の定めに従い、休憩時間を与えなければなりません。

この休憩時間は、従業員を一定時間仕事から解放し、心身を休め、疲労を回復させるための時間であることから、原則として、会社は従業員に休憩時間を自由に利用させなければなりません(労働基準法第34条Ⅲ)。

これを、「休憩時間の自由利用の原則」といいます。

この原則に素直に従えば、会社が従業員の休憩時間中の喫煙を禁じることは、一見、命じてはならないことのようにも思えます。

休憩時間の自由利用の原則と、会社の施設管理権

一方で、会社は、その施設を管理する権利(施設管理権)を有しており、企業秩序を維持する必要性から、従業員は会社の規律による制約を免れない場合があります。

例えば、最高裁判所の昭和52年12月13日判決では、休憩時間中の従業員によるビラ配布行為を制限する就業規則を「有効」であると認めています。

さらに、通達(昭和22年9月13日基発17号)においても、「休憩時間の利用について、事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を害わない限り差支えないこと」としています。

したがって、休憩時間中といえども、会社による企業秩序を維持する必要性から、従業員は会社の禁煙命令に従う義務が生じる場合があると考えます。

「企業秩序を維持する必要性」とは、例えば、喫煙者である従業員の健康を保持し、生産性を高める目的や、喫煙者の受動喫煙や臭い被害、サードハンド・スモーク(三次喫煙)を防止する目的など、会社の事業運営において秩序を維持するための必要性をいいます。

勤務時間外(就業時間外)の禁煙命令(禁煙の強要)はできるか?

会社の勤務時間外は、従業員の私生活(プライベート)であり、会社が従業員の禁煙を強要することは、特段の理由がない限り、原則としてできないと考えます。

しかし、例えば、通勤経路などにおいて、従業員が条例に違反して歩きたばこをしているようなケースでは、会社の社会的信用を低下させるおそれがあり、禁煙を命令することに合理的な必要性が認められるといえるでしょう。

さらに、勤務時間外の取引先との接待や、従業員同士の懇親会などの場のように、法的には原則として労働時間と解されない(私的な)時間中における喫煙も、それがその場に同席している他の者の受動喫煙の被害を拡大させる危険性が高いと判断されるのであれば、会社が喫煙を禁止するよう命じることも、法的に認められる可能性が高いと考えます。

喫煙者を不採用とする(非喫煙者のみ採用する)ことは違法か?

会社が職場の受動喫煙防止策を進める一環として、喫煙者を不採用とする(非喫煙者のみ採用する)ことは法的に問題になるのでしょうか。

会社は、原則として、「採用の自由」を有しており、どのような従業員を雇入れるかは、会社の自由な意思に委ねられていると解されています。

一方で、会社は、人種や思想、社会的身分など、従業員のセンシティブな個人情報を収集することが法律上禁止されており、従業員の能力や適性に関連しないこれらの事項を理由に、従業員を不採用にすることはできません。

しかし、従業員が喫煙するかどうかは、単なる個人の趣味・嗜好であり、本人の人権などには何ら関連しないことから、応募者に対して喫煙の有無について申告を求めることは問題なく、また、応募者が喫煙することをもって不採用とすることも、「採用の自由」の範疇に収まると解されます。

まとめ

法律の改正を受けて、現時点で受動喫煙について何らの対策をしていない会社は、対応が急務となるでしょう。

また、健康増進法では、喫煙する「場所」に関する対応が必要になりますが、加えて、喫煙する「時間」についても、どこまで自由に喫煙を認めるべきなのかを検討するとよいでしょう。

たばこについては、従業員の健康管理という点はもちろん、離席による生産性の低下や、非喫煙者の不満感など、複合的な要素を加味しながら、バランスのとれた対策を検討する必要があります。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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