同一労働同一賃金

【労働者派遣法】2020年改正(同一労働同一賃金)のポイントをわかりやすく解説

2018年6月29日に成立した働き方改革法を受けて、2020年4月1日から労働者派遣法が改正されます。

今回の改正は、派遣労働者の同一労働同一賃金を目指すものであり、労働条件の中でも特に重要である賃金に影響を与えるため、その影響は多大です。

労働者派遣法については、派遣元事業主と派遣先事業主のそれぞれに義務が定められているため、きちんと整理して理解することが重要です。

そこで今回は、労働者派遣法の改正内容について、ポイントを整理して解説します。

「派遣労働者の同一労働同一賃金」とは?

今回の労働者派遣法を改正する目的は、「派遣労働者の同一労働同一賃金」を実現することにあります。

「派遣労働者の同一労働同一賃金」とは、簡単にいうと、「派遣労働者と、派遣先で雇われている正社員との間の、不合理な賃金格差をなくす」ことをいいます。

派遣労働者に賃金を支払うのは、派遣労働者を雇用している派遣「元」事業主です。

これに対して同一労働同一賃金を目指すのは、派遣「先」事業主がその正社員に対して支払う賃金です。

この点が、制度を理解するうえで最も重要なポイントです。

改正される労働者派遣法の施行日と経過措置

労働者派遣法の改正の施行日は、2020年4月1日です。

また、改正に際して中小企業の経過措置(猶予措置)が設けられていないため、事業規模にかかわらず、一斉に施行されます。

なお、正社員とパート・有期雇用社員との間における同一労働同一賃金に関する法改正の施行日が、中小企業は大企業(2020年4月1日施行)に1年遅れて2021年4月1日に施行される点と取り扱いが異なりますので注意が必要です。

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「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」

今回の労働者派遣法の改正により、派遣元事業主が派遣労働者の賃金を決定するための方法として、2つの方法が定められました。

そして、派遣元事業主は、この2つの方法のうち、いずれか1つを選択しなければならないこととなりました。

それが、「派遣先均等・均衡方式(法30の3)」と「労使協定方式(法30の4)」です。

以下、それぞれ解説します。

今回の法改正の最大の目的は、「派遣労働者の同一労働同一賃金の実現」です。

そして、これから解説する2つの方法は、いずれも、この目的を達成するために新たに設けられた仕組みです。

いずれの方法にも一長一短があり、また、派遣先事業主にとっては、派遣元事業主がどちらの方法を選択するのかによって、とるべき対応が異なりますので、それぞれの特徴をきちんと理解しておくことが大切です。

派遣先均等・均衡方式

この方式は、簡単にいうと、派遣元事業主が、派遣労働者の賃金を決める際において、派遣先で同じ(または同様の)職務に就いている従業員の賃金とのバランスを考慮して決定することを求めるものです。

まずは、改正された法律の条文を紹介します。

労働者派遣法 第30条の3第1項(不合理な待遇の禁止等)

派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない

まず前提として、雇用契約は、派遣元事業主と派遣労働者との間で締結されるものであり、したがって、賃金をはじめとする派遣労働者の労働条件を左右できるのは、あくまで派遣「元」事業主です。

したがって、この条文が定めている義務は、あくまでも派遣元事業主の義務です。

しかし、「派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において」不合理な相違を設けてはならないとしても、実際には、派遣元事業主は、派遣先事業主がその従業員にいくらの賃金を支払っているのかについては、当然ながら知り得ない立場にあります。

そこで、法律は、派遣先事業主に対しては、派遣元事業主に対して、派遣先事業主の従業員の賃金に関する情報を提供するよう義務付けることとしました(詳細は後述)。

そして、派遣元事業主は、派遣先事業主から得た情報を元に、均等・均衡のとれた派遣労働者の賃金を決定する、という流れになります。

派遣先均等・均衡方式は、一時点でみると確かに同一労働同一賃金を実現できますが、派遣労働者にとっては、派遣先が変わるごとに、その派遣先の賃金水準に合わせて賃金が変わる、ということになります。

一方で、派遣労働者のスキルが向上しても、そのスキルに応じた賃金にはならないこととなり、この点については不合理であると考えます。

個人的には、この方法によって、本当の意味で派遣労働者の待遇が改善されるとは考えにくいものです。

労使協定方式

まずは、改正された法律の条文を紹介します。

労働者派遣法 第30条の4

派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第40条第2項の教育訓練、同条第3項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。ただし、第2号、第4号若しくは第5号に掲げる事項であって当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第3号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。

「労使協定方式」は、派遣労働者の賃金の決定の方法を、派遣元事業主における労使協定で締結する方法です。

この方法では、派遣労働者の賃金を決定する際に、派遣先労働者の賃金とのバランスを考慮しません。

労使協定は、派遣元事業主と、その従業員の過半数代表者(または過半数労働組合)との間で締結する必要があります。

労使協定において記載しなければならない事項は法定されていますが、最も重要なのは、次の事項です(法30の4二)。

派遣労働者の賃金の決定の方法

イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。

ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること。

ここでは、派遣労働者の賃金の決定方法を協定する際には、「一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています。

「一般の労働者の平均的な賃金」をどのように決定するのかについては、具体的な内容が、労働者派遣法の規則第25条の9において定められています。

規則では、「法第30条の4第1項第二号イの厚生労働省令で定める賃金の額は、派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金の額とする。」と定められています。

つまり、「一般的な労働者の平均的な賃金」の額は、職種、能力・経験、地域ごとの特性を加味して決定する必要がある、ということです。

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「労使協定方式」では、派遣先事業主における賃金を考慮する必要がなく、派遣元事業主において派遣労働者の賃金を決定できる点で、派遣元事業主にとっては実務的な負担が軽減される方法といえます。

派遣先事業主の「情報提供義務」とその内容

派遣先事業主の「情報提供義務」とは

今回の法改正により、派遣先事業主は、派遣元事業主と労働者派遣契約を締結する際に、派遣元事業主に対して、「賃金等に関する情報を提供する義務」を負うことが新たに定められました(法27Ⅶ)。

このような義務が定められた理由は、特に派遣元事業主が「派遣先均等・均衡方式」を採用している場合には、派遣先事業主から、その従業員の賃金等に関する情報を提供してもらわないと、均等・均衡のとれた賃金を決めることができないためです。

したがって、ここで提供する義務がある「賃金等に関する情報」とは、派遣先事業主で働くすべての従業員の情報ではなく、あくまで、派遣労働者と同じ内容の仕事に就いている従業員(法律上、これを「比較対象労働者」といいます)の賃金等に関する情報です。

そして、派遣元事業主は、派遣先事業主から必要な情報の提供がないときは、労働者派遣契約を締結してはならないことが新たに定められました(法27Ⅸ)。

したがって、派遣先事業主は、派遣元事業主から情報提供の求めがあれば、これに応じない限り労働者派遣契約を締結できなくなることに注意が必要です。

提供する情報の内容

派遣先事業主が提供すべき情報は、派遣元事業主が「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれを採用しているかによって異なります。

派遣元事業主が「派遣先均等・均衡方式」による場合

この場合には、派遣先事業主は、以下の情報を提供する義務があります(主なものを抜粋)。

a. 情報を提供した従業員の職務の内容配置の変更の範囲雇用形態など

b. その従業員を選んだ理由

c. その従業員の待遇の内容(賃金の額や、支給している手当の内容・金額など)

派遣元事業主が「労使協定方式」による場合

この場合には、派遣先事業主は、以下の情報を提供する義務があります。

d. 教育訓練に関する事項

e. 福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)に関する事項

「労使協定方式」では、派遣先事業主は上記a.~c.の内容を提供する義務はありません。

これは、派遣される方の賃金は、派遣元事業主において、労使協定で定められた方法で決定されるため、わざわざ派遣先事業主における賃金等を確認する必要がないためです。

したがって、派遣先事業主にとっては、派遣元事業主が「労使協定方式」を採用している場合の方が、実務上の負担が圧倒的に少なく済むといえます。

派遣労働者に対する説明義務

今回の法改正により、派遣元事業主について、次のとおり派遣労働者に対する説明義務が定められました。

  1. 雇い入れ時の説明
  2. 派遣時の説明
  3. 派遣労働者から求めがあった場合の説明

雇い入れ時の説明・派遣時の説明

派遣元事業主は、雇い入れ時と派遣時に、あらかじめ、次の事項を説明しなければなりません。

  • 派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか
  • 労使協定方式によりどのような措置を講ずるか
  • 職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決定するか

派遣労働者から求めがあった場合の説明

派遣元事業主は、派遣労働者から求めがあれば、派遣労働者と比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由などについて説明しなければなりません。

また、派遣元事業主は、派遣労働者が説明を求めたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされています。

まとめ

今回の法改正は、特に派遣元事業主にとって影響の大きい改正です。

賃金の決定については2つの方法が定められましたが、個人的には、実務的な負担を考慮し、多くの派遣元事業主が「労使協定方式」を採用すると考えます。

そうなると、派遣労働者の賃金は主に世間水準の賃金をベースに決定されることになり、これで本当に同一労働同一賃金を実現できるのかについては疑問を感じます。

世間的な関心の高まりを受けて、非正規労働者については同一労働同一賃金を争った裁判例が次々と出されていますので、各企業においては、今後しばらくは、これら裁判の結果や世間の動向を注視しながら、対応を探っていくことになりそうです。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
京都の社会保険労務士です。このブログでは、会社経営者様や、人事・労務・総務担当者様に向けて、労務管理に役立つ情報を発信しています。お陰様で当ブログの閲覧数は月間最大17万pv・累計170万pvを突破しました。些細な疑問やご質問でも大歓迎です。お問い合わせは、以下の当事務所のホームページからご連絡ください。