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はじめに
改正される法律
傷病手当金に関する内容を定めている「健康保険法」が改正されることとなり、傷病手当金の支給期間について改正されます。
同法は令和3(2021)年6月11日に公布され、令和4(2022)年1月1日に施行されます。
今回の法律の改正は、傷病手当金の支給期間について、被保険者(受給者)にとって有利に働く(傷病手当金を多く受給しやすくする)方向での改正といえます。
改正の目的
傷病手当金の「協会けんぽ」における疾病別の構成割合は、令和元(2019)年度で「精神障害」が約31%、「新生物(がん)」が約18%となっており、これらの疾病の特徴として、治療が長期間に及ぶケースが多いことが挙げられます。
今回の法律の改正は、がん治療など、特に長期間にわたって治療を要する疾病への対応を目的とした改正で、再発などによる入退院の繰り返しがあっても、傷病手当金の支給日数に影響が生じにくくなります。
傷病手当金とは?
「傷病手当金」とは、従業員(健康保険の被保険者)が病気やケガによって会社を休んだことによって、会社から給与が支給されなくなった場合に、その生活を保障するために、健康保険から給付を受けることができる制度をいいます(業務上の病気やケガを除きます)。
給付内容をごく簡単にいうと、病気やケガによって会社を休んだ日について、給与の3分の2程度の金額が、支給が開始された日から1年6ヵ月にわたって支給される制度です。
制度の内容について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
法律の改正内容(支給期間の通算規定)
法律の改正前は、傷病手当金が支給される期間は、支給が開始された日から、「1年6ヵ月が経過するまで」と定められていました。
この期間を過ぎてしまうと、たとえ再び同じ病気やケガで休業したとしても、傷病手当金は支給されませんでした。
つまり、この支給期間は、必ずしも「1年6ヵ月分」の傷病手当金が支給されることを意味せず、1年6ヵ月の間に、仕事に復帰し、再び同じ病気やケガにより休業した場合、この仕事に復帰していた期間も1年6ヵ月に含まれることとなり、その期間に対する傷病手当金は支給されませんでした。
これにより、休職と復職を繰り返すようなケースでは、復職期間が長くなるほど、傷病手当金の支給日数が減ることになり、さらに1年6ヵ月経過後は一切支給されることがないため、特にがん治療などのように、治療に長期間を要する性質の疾病については、保護に欠けるという問題点がありました。
そこで、法律の改正により、傷病手当金が支給される期間として、支給が開始された日から、「1年6ヵ月分の傷病手当金を受給するまで」と改められました。
これは、期間で打ち切るのではなく、傷病手当金の支給日数を通算して支給することを意味します。
これにより、休職と復職を繰り返しながら、長期間にわたって治療を続けるようなケースにおいても、従業員に対して傷病手当金が支給されやすくなりました。
【法律改正の内容】
法律の改正前…支給を始めてから、1年6ヵ月間支給
法律の改正後…支給を始めてから、1年6ヵ月分支給(通算)
なお、正確には、法律の条文(健康保険法第99条第4項)の文言としては、法律の改正前は、支給を始めた日から「1年6ヵ月を超えない」と定められており、法律の改正後は、支給を始めた日から「通算して1年6ヵ月間」と定められています。
この記事では、改正内容を分かりやすく表現するために、条文の定めとはやや異なる表記をしていることをご理解ください。
法律の施行日と経過措置
法律の施行日
改正される法律は、令和4(2022)年1月1日に施行されます。
経過措置
法律の施行日の前から傷病手当金を受給している方は、改正後の法律(通算規定)の適用の対象になるのでしょうか。
この点については経過措置が設けられており、施行日の前日(令和3(2021)年12月31日)時点において、傷病手当金の支給を始めた日から起算して1年6ヵ月を経過していない傷病手当金については、改正後の通算規定を適用することとされています。
言い換えると、施行日である令和4(2022)年1月1日よりも前に、1年6ヵ月の支給期間が満了した傷病手当金については、従前どおり(改正前)の法律が適用され、改正後の法律は適用されません。
具体的には、令和2(2020)年7月2日以後に支給が始まった傷病手当金については、施行日の前日である令和3(2021)年12月31日時点で1年6ヵ月が経過していないため、改正後の法律が適用され、支給期間が通算されることとなります(令和3年11月10日付の厚生労働省保険局保険課 事務連絡「傷病手当金及び任意継続被保険者制度の見直しに関するQ&A」(以下、「Q&A」といいます)問10参照)。
支給期間の計算方法(「1年6ヵ月間」とは何日間か?)
法律の改正により、傷病手当金は「支給を始めた日から、通算して1年6ヵ月間」支給されますが、1年6ヵ月とは具体的に何日間をいうのか、実際の支給日数の計算方法を説明します(Q&A問1参照)。
【支給期間の計算ルール】
- 待期期間である3日間経過後、傷病手当金の支給が開始される4日目から、暦(こよみ)によって1年6ヵ月間を把握し、支給期間を確定する
- 支給期間の途中に傷病手当金が支給されない期間(無支給期間)がある場合には、その無支給期間の日数分について、支給期間は減少しない
以下、例を用いて説明します(Q&A問2参照)。
【例】
- 2022年3月1日から4月10日まで労務不能(支給期間:38日間)
- 2022年4月11日から4月20日まで労務不能(支給期間:10日間)
- 2022年5月11日から6月10日まで労務不能(支給期間:31日間)
上記の例の①では、2022年3月1日から3月3日までの3日間は待期期間となり、3月4日が支給開始日になりますので、最初の3日間は支給日数にカウントせず、傷病手当金の支給期間は3月4日から開始します。
そして、傷病手当金の支給期間は、「暦(こよみ)」によって把握することから、2022年3月4日から18ヵ月後に対応する、2023年9月3日をもって、1年6ヵ月が経過することとなります。
そして、この期間の日数を合計すると、支給日数は「549日」ということになります。
傷病手当金の支給があるごとに、支給日数は減っていき、残りの支給日数が「0日」になる日が支給満了日となります。
上記の例の③まで経過した時点では、残日数は470日(549日-38日-10日-31日)となります。
なお、②と③の間に20日間就労しており(4月21日から5月10日)、この期間は傷病手当金が支給されない期間(無支給期間)となりますが、今回の法律の改正により、支給日数には影響を与えません。
その他
資格喪失後(退職後)の継続給付
傷病手当金は、一定の要件を満たせば、退職後においても支給されることがあります。
しかし、資格喪失後の傷病手当金は、「(資格喪失後も)継続して」受給することが要件とされています(健康保険法第104条)。
したがって、退職後において、一時的に働くことが可能な状態になった場合には、その時点で傷病手当金の支給が終了するため、その後に再び治療が必要になった場合でも、傷病手当金は支給されません。
その意味で、今回の法律の改正は、退職後(資格喪失後)の傷病手当金の支給については影響しないといえます(Q&A問11参照)。
傷病手当金の支給額
今回の法律の改正により、傷病手当金の支給額の算定方法に変更はありません(Q&A問12参照)。
したがって、従来どおり、傷病手当金の支給が開始するときに算定した支給額が支給されることとなります。