労働基準法

有給休暇の先取り(前借り)は適法?違法?

今回は、有給休暇の先取り(前借り)について解説します。

有給休暇は、原則として、勤続年数に応じて、労働基準法に定められている日数が与えられます。

これに対して、法律で定められている有給休暇が与えられるよりも前に、「前倒しで有給休暇を使いたい」というような事情が生じた場合、有給休暇の先取り(前借り)を認めるべきかどうかの問題が生じることがあります。

そこで、今回は、有給休暇の先取り(前借り)について、法的な問題を中心に説明します。

有給休暇の先取り(前借り)ができるかどうかについては、労働基準法において明確に定められていないため、適法か違法かを判断するには法律の解釈によるしかありません。

 

有給休暇の先取り(前借り)とは?

そもそも、有給休暇の先取り(前借り)は、どのような場合に必要になるものなのでしょうか。

例えば、ある従業員が4月1日に入社したとします。

この従業員については、法律上、原則として、入社してから6ヵ月が経過した10月1日に、10日間の有給休暇が与えられることになります。

逆にいうと、入社してから10月1日までの間は、有給休暇がない(0日)ということを意味します。

もし、この有給休暇がない期間中に、病気などの事情によって会社を休むと欠勤扱いになり、この欠勤した日については、原則として給料が支払われません。

そこで、この従業員について、10月1日に与えられる予定の有給休暇を先取り(前借り)して有給休暇をとることを認めることによって、欠勤扱いにしない(つまり、給料は支払われる)ことが法律上できるのかどうかが問題になることがあります。

有給休暇の先取り(前借り)は従業員の権利か?

まず、有給休暇の先取り(前借り)が従業員の権利であるかどうかを確認しましょう。

有給休暇の先取り(前借り)は、従業員の権利として、法律で定められているものではありません

したがって、もし従業員から希望があったとしても、会社はこれに応じる義務はありません。

有給休暇の先取り(前借り)を制度として導入することはできるか?

次に、会社の制度として、有給休暇の先取り(前借り)を導入することができるかどうかについて、以下の2つのパターンに分けて検討します。

【A】会社が法律どおりに有給休暇の日数を与えている場合

結論からいいますと、この場合には、会社は、従業員が先取り(前借り)した有給休暇を、(その後に与えられる)法定の有給休暇の日数から差し引くことは、認められません

例えば、以下の図のように、入社後6ヵ月経過後の10月1日に与えられる有給休暇(法律どおり10日間)のうち、2日間を先取り(前借り)し、10月1日にはその分を差し引いた8日間の有給休暇を与えるということは、認められません。

その根拠としては、労働基準法第39条第1項に違反すると解釈されるためです。

労働基準法 第39条第1項

使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。

労働基準法の条文では、継続勤務した期間に応じて、法律で定められた日数分の有給休暇を与えると定められています。

そして、この法律で定められた日数を、いかなる理由があったとしても下回ることはできません

なぜなら、労働基準法という法律は、「強行法規」であるためです。

(法律は、その法律で定められた内容を必ず守らなければならない「強行法規」と、当事者の契約などによって法律で定められた内容と異なる取り扱いをすることが認められる「任意法規」とに分けられます。)

つまり、会社と従業員との間で、たとえ合意があったとしても、有給休暇の日数について、法律で定める日数を下回る日数(つまり先取り分を差し引いた日数)を与えることはできません。

【B】会社が法律を上回る有給休暇の日数を与えている場合

このパターンは、会社が法律を上回る有給休暇の日数を、就業規則などに基づいて与えている場合です。

労働基準法は前述のとおり強行法規であるため、法律を下回ることは認められませんが、法律を上回る(つまり従業員にとって有利になるようにする)ことは認められます。

例えば、労働基準監督署の通達にも「労働者に対し、法律を上回る年次有給休暇を与えることは、差支えない」とされています(昭和22.12.15基発501)。

例えば、ある会社で、法律では入社後6ヵ月経過した場合に10日間の有給休暇が与えられるところ、会社独自の制度として、「12日間の有給休暇を与える」などと定めている場合です。

そして、この場合には、法律を上回る「2日間」分の有給休暇については、労働基準法に縛られることはなく、その扱いについて会社と従業員との間で自由に取り決めても良いと解釈することができます。

つまり、この2日間についてだけは、有給休暇の先取り(前借り)を認めたとしても、法律に違反することにはなりません

したがって、この会社では、2日間までは有給休暇を先取り(前借り)することを認める制度を設けることができると考えられます。

制度を導入することにより想定されるトラブル

有給休暇の先取り(前借り)は、前述のとおり一定の要件を満たせば認められますが、同時にトラブルも想定されます。

それは、「先取り(前借り)したままで(例えば入社後6ヵ月が経たないうちに)、従業員が辞めてしまう」というようなケースです。

有給休暇の先取り(前借り)は、後に発生する有給休暇の権利を先に行使するため、もしその有給休暇の権利が発生する前に退職してしまった場合には、その扱いに困ることがあります。

この場合の会社の対応としては、本来欠勤になるはずだった日に対して、特別に有給休暇を与えたものとして処理するのが妥当でしょう。

一度先取りした有給休暇を、事後的に欠勤として処理することによって、支払った給料を精算(返還)してもらうという選択肢も一応は考えられますが、法律上はあまり望ましくありません(複雑な問題であるため、ここでは触れませんが、法的に認められるためのハードルは高いといえます)。

まとめ

私見ですが、有給休暇の先取り(前借り)については、会社の制度として導入する必要性やメリットはあまりないと考えます。

確かに、病気の場合など、有給休暇がないことにより欠勤とするには心苦しい場面があることも理解できますが、ひとつ例外を認めはじめると、労務管理がどんどん煩雑になるリスクも伴います。

どうしても仕方のない事情によって休まざるを得ない場合には、そのために「特別休暇」や「慶弔休暇」などの制度を定めておけば、十分かと考えます。