同一労働同一賃金

契約社員の「退職金なし」は違法?メトロコマース事件の地裁・高裁判決を解説

2019年2月20日に東京高等裁判所で、「契約社員にのみ退職金を支払わないことは不合理である」という判決がありました。

同一労働同一賃金について世間的な注目が集まる中で、この画期的な判決結果に、多くの報道がなされました。

そこで今回は、メトロコマース事件について、第一審判決から順を追いながら、丁寧に解説します。

この記事でわかること
  • メトロコマース事件について、第一審判決と第二審判決の内容を整理して理解することができます。
  • 契約社員に対して退職金を支払わないことが、「どんな場合に不合理(違法)と判断されるのか」を知ることができます。

事件の概要(どんな事件?)

この事件は、東京メトロの子会社「メトロコマース」の契約社員であった女性4人が、正社員との間の待遇の格差が労働契約法第20条に違反するとして、会社に対して、約4,600万円(一人あたり約800~1,300万円)の損害賠償を求めたものです。

第一審の東京地方裁判所(2017年3月)は、原告の請求の大半を認めない結果となりました。

第二審の東京高等裁判所(2019年2月)は、「長期間勤務した契約社員に退職金の支給をまったく認めないのは不合理である」と判断し、女性4人のうち2人に対して、退職金として45万円と49万円を支払うよう命じました。

事件の当事者(原告と被告)

原告(訴えた側)

事件の原告は、60~70代(当時)の女性4人です。

女性らは、株式会社メトロコマースに勤務し、有期の契約社員として、東京メトロ駅構内の売店で、販売業務に従事していました。

それぞれ2004年から2006年の間に採用され、そのうち3人は既に定年退職していました。

被告(訴えられた側)

事件の被告は、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の100%子会社である「株式会社メトロコマース」です。

事件の争点(訴えの内容)

主に以下のとおり、正社員と契約社員との間で、待遇差があることが不合理であり、労働契約法第20条に違反するかどうかが争われました。

判決内容(第一審 東京地方裁判所2017年3月23日判決)

第一審判決では、原告の請求の大半を棄却する(認めない)結果となりました。

第一審判決では、唯一、「早出残業手当の割増率」について、待遇差を不合理であると判断し、正社員との差額の分について支払いを命じました(原告の1人に対して、3,609円)。

その他の賃金については、待遇差は不合理ではないものと判断されました。

裁判所が正社員と契約社員との格差を不合理であると認めなかった理由は、正社員と契約社員では、以下のように、職務内容や人事異動(配置の変更)の範囲などが大きく異なると判断されたためです。

  1. 契約社員は売店業務以外の業務に従事することはないが、正社員は売店以外の多様な業務に従事している(「職務の内容」が異なる)。
  2. 正社員は配置転換や職種転換、出向を命じられることがあるが、契約社員にはそれらがない(「配置の変更の範囲」が異なる)。
  3. 正社員は、複数の売店を統括して、その管理業務を行うエリアマネージャーになることがあるが、契約社員がエリアマネージャーに就くことはない。
  4. 正社員に対する賃金や福利厚生を手厚くし、優秀な人材の確保・定着を図るという人事施策上の判断には、一定の合理性が認められる。

退職金

退職金については、会社が長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし、優秀な人材の確保・定着を図る目的で退職金制度を設けることとし、一方で、短期雇用を前提とする有期契約の社員については退職金制度を設けないという制度設計をすることは、人事施策上、一定の合理性を有するものと判断しました。

判決では、契約社員には、正社員への登用制度が設けられており、かつ、実際に登用実績(5年間で28名)があったこと(契約社員も頑張って正社員になれば、同様に退職金をもらうことができる)も、ひとつの判断材料としています。

判決内容(第二審 東京高等裁判所2019年2月20日判決)

第二審判決では、以下の内容について、正社員と契約社員との間の待遇差を不合理(違法)であると判断し、退職金など約220万円の支払いを会社に命じました。

退職金

原告が定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたことから、「退職金のうち、長年の勤務に対する功労報償の性格をもつ部分すら支給しないのは不合理である」と述べ、退職金の一部について不合理であると認めました。

その結果、正社員と同じ基準で算定した額の「少なくとも4分の1」を支払うことが妥当であると判断し、原告のうち2人に対して、45万円と49万円の支払いを命じました。

住宅手当

住宅手当に関しては、生活費補助の側面があり、「職務内容によって必要性に差異はない」と指摘し、原告のうち3人に対して、11~55万円の支払いを命じました。

勤続10年の正社員に対する褒章制度

早出残業の割増率

早出残業の割増率については、第一審判決と同じく、不合理であると認められました。

以上、不合理であると認められた賃金以外の賃金については、不合理であるとは認めず、待遇差を適法としました。

基本給や賞与については、正社員と契約社員とは「配置転換の有無などの労働条件が異なる」として、格差を認めました。

その理由としては、第一審判決の理由(職務の内容や人事異動の範囲が異なる点など)を踏襲しています。

判決の意義

今回の判決は、「非正規雇用である契約社員にも、退職金を支給する必要があるのか」という点について、裁判所がどのように判断するのかが注目されました。

結果として、裁判所の判断の枠組みは、労働契約法第20条に関する最高裁判所判決(2018年6月1日)の判断と同様に行われました。

つまり、正規雇用(無期雇用の正社員)と非正規雇用(有期雇用の契約社員)との間の労働条件の違いについて、「賃金ごとに、その労働条件が設けられた趣旨を個別に検討して不合理であるかどうかを判断する」ということです。

今回、退職金が不合理であると認められたのは、「功労報償」としての退職金が、正社員と契約社員とで同じ趣旨・性質をもっていたためであり、当然ながら、退職金を支払う趣旨によって、結論が異なることに留意が必要です。

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賞与について

本判決では、契約社員へ賞与を支給しない点については、適法と判断しています。

一方、2019年2月15日の大阪高等裁判所の判決(大阪医科大学事件)では、「契約社員に対して賞与を支給しないことは違法」と判断しており、一見すると本判決と逆の結論を出したようにも見えます。

しかし、両者で真逆の判決が出た理由は、大阪医科大学事件と本判決(メトロコマース事件)における、「賞与の位置付け」が異なっていたためです。

つまり、大阪高裁判決は、大阪医科大学事件の賞与について「従業員の年齢や成績に連動しない就労自体に対する対価」であると判断して、アルバイトへの不支給を違法としました。

一方、本判決は、東京メトロの賞与について「労務の対価の後払いと従業員の意欲向上のために支給されている」と判断して、時給制の非正規雇用者への不支給を適法としています。

両者は、同じ賞与でも、それを支払う「趣旨」を十分に検討することが重要であり、繰り返しになりますが、賃金の名目(基本給、賞与、退職金など)が同一であっても、必ずしも裁判例と同じ結果になるとは限らないことが重要です。

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この判決の影響(まとめ)

厚生労働省による同一労働同一賃金のガイドラインである「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(2018年12月28日)」によれば、退職手当について以下のように記載されています。

この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。』

つまり、厚生労働省の指針では、退職手当に関する正社員と契約社員との待遇差について、何をもって不合理とされるのか、考え方が示されていません。

だからこそ、今後は退職手当にかかる同一労働同一賃金を検討する際に、本判決が貴重な参考例になると考えます。