社会保険

厚生年金への加入義務が70歳以上に拡大される?法改正に向けて検討開始

2019年4月16日の日本経済新聞で、厚生労働省が、厚生年金の加入義務を70歳以上に拡大する方向の検討に入ることが報道されました。

高齢者の就労が進む中でこれが実現すれば、ひときわ影響が大きい法改正になりますので、今後の動向を見守る必要がありそうです。

まだまだ情報不足の段階ですが、本記事では、厚生年金について、まずは関連する現行の制度内容を確認しながら、新たな情報が入り次第、随時アップデートしていきたいと考えています。

今後検討される法改正の内容(2019年4月16日時点)

現時点の報道では、主に以下の内容について検討が開始されるとのことです。

  1. 厚生年金への加入義務を、70歳以上に拡大する
  2. 一定額以上の収入要件を設ける
  3. 70歳超でも年金を受け取れるようにする制度の改正と併せて検討する
  4. 2020年にも国会へ関連法案を提出する

もし報道されているとおり、2020年の通常国会で関連法案が提出されると、法改正の施行日は、早ければ、2021年4月頃になることもあり得ます。

総務省の統計(2018年の労働力調査)では、70歳から74歳までの雇用者は129万人、75歳以上の雇用者は53万人おり、今後の高齢化に伴ってさらに増加することが予想されますので、法改正の影響は非常に大きいものになりそうです。

以下、検討の始まる法改正と関連する内容について、現行の法律ではどのように定められているのかを説明します。

厚生年金の加入年齢(何歳から何歳まで)

そもそも、厚生年金に加入しなければならない年齢は、何歳から何歳までとされているのですか?

原則

まず、「何歳から」については、厚生年金は、一定の年齢になったからといって加入したりしなかったりするものではありません。

厚生年金は、「被用者年金」といわれ、会社に勤めている(雇われている)方を対象としています。

したがって、厚生年金に加入している会社で勤め始めたときから、年齢を問わず、加入する義務があります。

次に、「何歳まで」については、厚生年金の加入義務があるのは、現行の法律では「70歳まで」と定められています(厚生年金保険法第9条)。

ただし、被用者年金ですから、定年などによって会社を退職している場合には、70歳を待たずとも厚生年金に加入する義務はありません。

今回検討されている法律の改正により、例えば、厚生年金への加入義務について、原則として「75歳まで」などのように延長される可能性があります。

または、原則は、現行の法律と同じく70歳までとしておき、例外として、「一定の収入がある被保険者に限り75歳までとする」というような改正になる可能性もありそうです。

なお、厚生年金の加入義務年齢と混同しやすいのが、国民年金の加入義務年齢です。

国民年金に加入しなければならない年齢は、原則として「20歳から60歳まで」とされています。

国民年金と厚生年金とで、何歳まで加入する義務があるのかが異なりますので、きちんと整理して理解する必要があります。

高齢任意加入被保険者

現行の法律では、70歳以上であっても、申請に基づき任意に、厚生年金に加入することができる制度があります。

それが、「高齢任意加入被保険者」という制度です(厚生年金保険法第4条の3)。

ただし、加入するための要件として、70歳になった時点で、「厚生年金の受給資格期間が足りない(=年金を受給する権利がない)」ということが必要になります。

老齢厚生年金(老後に受け取る年金)が支給されるための要件として、原則として「(国民年金に)加入していた期間が10年以上であること」が必要です。

この老齢厚生年金の支給を受けるために必要な加入期間を、「受給資格期間」といいます。

厚生年金に加入している方の中には、70歳になった時点で(国民年金に)加入していた期間が10年に満たないことがあり、「もう少し加入すれば厚生年金がもらえるのに…」という場合があります。

そこで、このようなケースに該当する方を救済するために、70歳以降も申請をすれば厚生年金に任意加入できる制度を設けました。

この特例は、あくまで受給するための要件である10年の加入期間を満たすことを目的としているため、例えば、「年金の額を増やしたいから」などの目的で、高齢任意加入被保険者になることはできません。

厚生年金の収入(年収)要件

厚生年金の加入義務の有無には、収入(年収)は関係あるのでしょうか?

現行の法律では、原則として、収入によって加入義務の有無に影響はありません

ただし、パート(短時間労働者)の方について厚生年金保険に加入義務が生じるかどうかを判断する要件のひとつとして、「標準報酬月額が8万8千円以上であること」とされています。

今後検討が始まる法改正では、70歳以上に加入義務が生じるための要件として、「一定額以上の収入があること」を設ける方向で検討するとされています。

厚生年金の受け取り開始年齢

厚生年金は、何歳から受け取ることができるのでしょうか?

厚生年金のうち、老後の年金として支給される「老齢厚生年金」は、一定の要件を満たすと、原則として「65歳」から支給が始まります(厚生年金保険法第42条)。

なお、昭和36(1961)年4月1日までに生まれた男性(女性は昭和41(1966)年4月1日)については、その年齢に応じて、特別に65歳より前に支給が開始する特例が設けられています。

在職老齢年金

一方、厚生年金に加入する義務があるのは原則として70歳までとされているため、65歳以降会社に勤める場合には、厚生年金に加入しながら、同時に老齢厚生年金の支給が始まる場合があるということになります。

働きながら老齢厚生年金を受け取る場合でも、年金の額は同じになるのでしょうか?

65歳以降、働きながら老齢厚生年金の支給が始まった場合には、「在職老齢年金」という制度が適用されます。

これは、働きながら、ある程度の収入を得ている方については、通常受け取ることのできる年金額よりも差し引いた年金を支給する仕組みです。

制度の詳細は割愛しますが、簡単にいうと、年金の月額と収入の月額とを合計した金額が47万円以下であれば、年金が全額支給され、47万円を超えると、その超えた金額に応じて年金が減額して支給されることになります。

年金の繰り下げ支給

老齢厚生年金の支給が始まるのは、原則として65歳からですが、例外として、申請により、65歳よりも遅らせて年金を支給してもらう制度があります。

これを「老齢厚生年金の繰り下げ支給」といいます。

これは、あらかじめ老齢厚生年金の支給年齢を繰り下げる(遅らせる)ことを申請することにより、最大70歳まで年金が支給される年齢を遅らせるとともに、本来よりも増額された年金額(最大で42%の増額)を受け取ることができるようにする制度です。

報道では、すでに厚生労働省は、公的年金の支給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにする法改正の検討に入っているとされています。

法改正により厚生年金への加入義務を70歳以上に延長するのであれば、なおさら、「繰り下げ支給を75歳まで認める」というような改正を併せて行うべきであると考えます。

例えば、75歳まで加入義務が延長された場合、年金が支給される65歳から10年間も在職老齢年金が適用されることになりますので、繰り下げできる年齢の延長も併せて行っておかないと、制度としてアンバランスになるおそれがあると思われます。

まとめ

少子高齢化が急速に進む中、厚生年金の財政状況は厳しさを増していきます。

厚生年金に加入する期間が長くなり、保険料の負担が増加する一方、受け取ることのできる年金額は減ってしまうおそれがあり、これにより年金制度自体への国民の信頼が低下し、老後の働き方に不安を抱かれている方も多いと思います。

自分の身を守るためにも、今後の法改正の動向を見守りながら、「自分が何歳まで働くのか(働けるのか)」、「退職後はいくらの年金を、何歳から受け取ることができるのか」などを正確に把握し、老後の計画をしっかりと立てていくことが必要であると考えます。