労働基準法

遅刻・早退・欠勤をした時の給与の控除額の計算方法(欠勤控除・不就労控除)を解説

従業員が遅刻、早退、欠勤をした場合に、その時間分の賃金を控除することがあります。

このような場合、実際にどのように控除額を計算するべきか、ご相談をいただくことがあります。

そこで、今回の記事では、実務で一般的に用いられている控除額の計算方法を解説します。

給与の欠勤控除(不就労控除)とは?

不就労控除・欠勤控除とは?

「不就労控除」とは、従業員が遅刻、早退、欠勤することによって、本来就労すべき時間に就労しなかった場合に、本来支払われるはずの給与から、その不就労部分の額を控除することをいいます。

不就労控除のうち、特に「欠勤」による不就労部分の額を控除することを「欠勤控除」ということがあります。

いずれも法律上の用語ではなく、厳密に区別して用いられているものではないため、どちらも「実際に働いていなかった分の賃金を控除すること」と理解しておけば十分でしょう。

この記事では、1日(終日)働かなかった場合を「欠勤」、1日のうち一部の時間を働かなかった場合を「遅刻」「早退」と区別して解説します。また、これらの場合に賃金を控除することをまとめて「欠勤控除」といいます。

「ノーワーク・ノーペイの原則」と欠勤控除の注意点

はじめに、欠勤控除において、注意しなければならないポイントをお伝えします。

それは、「欠勤した時間を超える賃金の控除をしてはならない」ということです。

例えば、次のような控除は、法律に違反する可能性が高いといえます。

【問題がある欠勤控除の例】

  • 10分遅刻をした従業員について、それを1時間に切り上げ、1時間分の賃金を控除する場合
  • 遅刻を3回した場合には、遅刻をした時間に関わらず、1日の欠勤があったものとして取り扱う場合

このような取り扱いが法律上問題になる理由として、「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。

「ノーワーク・ノーペイの原則」とは?

ノーワーク・ノーペイの原則」とは、労働基準法をはじめとする労働法の分野において、広く認知され、確立されている考え方です。

この原則は、「労働者が働いていないのであれば(NO WORK)、それに対して使用者は賃金を支払う必要がない(NO PAY)」という、いわば当然の論理を示しています。

重要なことは、この原則は、裏を返すと「賃金を支払う必要がないのは、あくまで働かなかった時間に対応する部分に限られる」ことを意味するということです。

つまり、上記の例では、10分の遅刻をした従業員について賃金を控除できるのは、あくまで10分に相当する賃金を上限として認められるということです。

会社の判断で勝手に切り上げて1時間分の賃金を控除することは、50分の労働に対する賃金を正しく支払っていないことと評価され、労働基準法が定める「賃金の全額払い」に違反することとなります(労働基準法第24条)。

なお、ノーワーク・ノーペイの原則では、「働くことができなかった理由」は考慮されません。

例えば、通勤時の電車の遅延、台風など、いわば不可抗力によって遅刻をした場合であっても、遅刻をした時間に対する賃金を控除することは問題ありません。

「減給の制裁」とノーワーク・ノーペイの原則

実際に働かなかった部分を超えて、賃金を控除することは違法となり得ますが、遅刻や欠勤が会社の就業規則や雇用契約に違反する場合には、それに対する懲戒処分として、賃金の減給をする余地はあります

ただし、減給は、無制限に行えるものではなく、労働基準法によって、次のとおり制限が設けられています(労働基準法第91条)。

【減給の制裁】

  1. 一回の減給額が、平均賃金の1日分の半額を超えないこと
  2. 減給する総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えないこと
懲戒処分は、会社が無制限に行えるものではなく、就業規則に懲戒処分に関する規定があり、かつその処分が客観的にみて妥当なものであるなど、厳格な要件があることに留意が必要です。

欠勤控除の計算方法

ここからは、実際に欠勤控除をする場合の計算方法を解説します。

欠勤控除の計算方法

欠勤控除をする際の控除額の計算方法については、法律上の決まりはありません

したがって、会社は就業規則などによって、あらかじめ「どのような計算方法で欠勤控除するか」を決めておく必要があります(就業規則の規定例は後述します)。

欠勤控除の際の控除額の計算方法

ここでは、一般的な月給制を例に、計算式をご紹介します。

計算方法①

まず、最もシンプルな計算式をご紹介します。

【欠勤控除額の計算方法①】

1ヵ月の給与額(月給)÷欠勤があった月の所定労働日数

例えば、月給22万円の従業員が1日欠勤をした場合、仮にその月の所定労働日数(あらかじめ定められている出勤日)が22日であった場合、欠勤控除額は「22万円÷22日=1万円」となります。

①の計算方法のメリット

この計算方法のメリットは、欠勤控除額の計算方法としては最も簡便で分かりやすいことです。

①の計算方法のデメリット

この計算方法のデメリットは、欠勤した月によって、控除される額の単価が変動することです。

1ヵ月の所定労働日数は、毎月一定ではなく、休日数の影響で月によって変動することが一般的です。

すると、所定労働日数が少ない月(ゴールデンウィークや夏期休暇などがある月)ほど、控除額の単価が高くなります。

月給制とは、もともと毎月の所定労働日数が変動しても、それに関係なく毎月一定額の固定給を保障して支給する制度です。

これに対して、この計算方法では、欠勤をした月によって、欠勤1日あたりの控除額の単価が変動してしまうことに矛盾が生じます

計算方法②

【欠勤控除額の計算方法②】

1ヵ月の給与額(月給)÷1ヵ月あたりの平均所定労働日数

この計算方法では、「1ヵ月あたりの平均所定労働日数」を用いて、欠勤1日あたりの控除額を算出します。

これは、労働基準法によって定められている、割増賃金(残業代)の計算方法に準じた方法を用いています。

1ヵ月あたりの平均所定労働日数は、次の計算式によって算出します。

【1ヵ月あたりの平均所定労働日数】

1年間の所定労働日数÷12ヵ月

例えば、1年間の所定労働日数が240日であれば、1ヵ月あたりの平均所定労働日数は、「240日÷12ヵ月=20日」となります。

つまり、1年間の平均所定労働日数で控除額を計算することによって、毎月の所定労働日数の変動の影響を受けることがなくなり、これにより月給制の趣旨にも沿うこととなります。

また、遅刻・早退の場合には、時間単価を算出する必要があります。

この場合には、1ヵ月あたりの平均所定労働時間を算出します。

【1ヵ月あたりの平均所定労働時間】

1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヵ月

例えば、1年間の所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間であれば、1ヵ月あたりの平均所定労働時間は、「240日×8÷12ヵ月=160時間」となります。

仮に月給が22万円であれば、時給額は「22万円÷160時間=1,375円」となります。

②の計算方法のメリット

控除単価が一定になるため、①の計算方法によるデメリットが解消されます。

②の計算方法のデメリット

この計算方法では、従業員の欠勤日数によっては、不具合が生じることがあります。

前述の例のように1ヵ月あたりの平均所定労働日数が20日である場合において、例えば所定労働日数が21日の月に20日間の欠勤をした場合、1日は出勤しているにも関わらず、その月はまったく給料が支払われないこととなります。

【事例A】

・1ヵ月あたりの平均所定労働日数…20日

・欠勤のあった月の所定労働日数…21日

・欠勤した日数…20日(出勤した日数は1日)

(計算)

1日あたりの控除額=月給20万円÷20日=1万円

1ヵ月の控除額=1万円×20日=20万円

支給額=20万円-20万円=0円

(矛盾)

1日は出勤しているにも関わらず、支給額は0円となる

また、これとは逆のパターンもあり得ます。

【事例B】

・1ヵ月あたりの平均所定労働日数…20日

・欠勤のあった月の所定労働日数…19日

・欠勤した日数…19日(出勤した日数は0日)

(計算)

1日あたりの控除額=月給20万円÷20日=1万円

1ヵ月の控除額=1万円×19日=19万円

支給額=20万円-19万円=1万円

(矛盾)

1ヵ月すべて欠勤しているにも関わらず、1万円が支給される

デメリットの解消方法

このような矛盾を避けるために、ある一定の欠勤日数までは、欠勤日数に応じた減算を行い、その日数を超える場合には、出勤日数に応じた加算を行うことも考えられます。

例えば、1ヵ月のうち、欠勤日数が10日以内であれば減額、10日を超える場合には加算を行うと定めます。

このとき、事例Aの場合には、欠勤日数が10日を超えるため、「出勤」日数である1日分を(加算して)給与として支払います。

事例Bの場合には、欠勤日数が10日を超え、かつ出勤日数が0日であるため、給与は支払われません。

1ヵ月の給与額(月給)について

一口に「月給」といっても、多くの会社では、基本給に加えて手当などを支給しています。

控除額を計算する際に、単純に支給総額(基本給+手当)を基準にして控除額を算出するのか、それとも手当の全部または一部を除いた額を基準にするのかは、会社の任意で定めることができます

この点について、手当の種類・性質によっては、従業員の出勤とは直接的な関係がないものも含まれるため、単純に出勤日数に応じて減額することが適さないものがあるという考え方があります。

例えば、通勤手当など出勤に要する費用を補助する手当については、出勤をしなかった以上、控除されて然るべきといえます。

一方、家族手当や住宅手当など、従業員の出勤とは直接的な関係がない手当については、欠勤控除の対象にはしない、という取り扱いも考えられます。

欠勤控除に関する就業規則の規定例

欠勤控除に関する就業規則の規定例をご紹介します(1日の所定労働時間が8時間の会社の場合)。

【計算方法①の規定例】

(欠勤等の扱い)

従業員の欠勤、遅刻、早退については、基本給から当該日数または時間分の賃金を控除する。この場合、控除すべき賃金の1日あたりまたは1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。

一、1日あたりの金額

基本給÷欠勤があった月の所定労働日数

二、1時間あたりの金額

基本給÷欠勤があった月の所定労働日数÷8時間

【計算方法②の規定例】

(欠勤等の扱い)

従業員の欠勤、遅刻、早退については、基本給から当該日数または時間分の賃金を控除する。この場合、控除すべき賃金の1日あたりまたは1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。

一、1日あたりの金額

基本給÷1ヵ月の平均所定労働日数(年間所定労働日数÷12ヵ月)

二、1時間あたりの金額

基本給÷1ヵ月の平均所定労働時間(年間所定労働日数×8時間÷12ヵ月)

控除額の端数処理について

最後に、いずれの計算方法による場合でも、計算の結果生じた控除額の端数については、「切捨て」することが実務においては一般的です。

控除額を切り上げしてしまうことは、欠勤などをした時間を超えて控除をしてしまうことになりかねず、厳密には「ノーワーク・ノーペイの原則」に反してしまうこととなるためです。

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上西賢佑(京都うえにし社会保険労務士事務所)
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