社会保険

【法改正】短時間労働者(パート)の社会保険の適用拡大(501人→51人以上)について解説【2020年・2024年改正予定】

2019年12月現在、短時間労働者(パート)の社会保険への適用拡大を目指した法改正の動きがあります。

法改正の内容を簡単にいうと、特定適用事業所の要件について、これまでは被保険者数が501人以上の企業を対象としていたところ、これを51人以上の企業にまで拡大するというものです。

この法改正を理解するためには、その前提として、短時間労働者の社会保険への加入要件である「4分の3基準」を理解したうえで、さらに「特定適用事業所」の要件について、知っておく必要があります。

そこで、今回は、短時間労働者の社会保険への加入要件について、初歩的な知識から解説したうえで、現在検討されている法改正の概要について併せて説明します。

4分の3基準とは?社会保険(厚生年金・健康保険)の短時間労働者への適用基準

まずは、短時間労働者(パート)が、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入しなければならない(被保険者になる)要件として、いわゆる「4分の3基準」をご説明します。

【被保険者資格(健康保険・厚生年金保険)の取得基準】

1週間の所定労働時間および1ヵ月間の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上

(健康保険法第3条第1項、厚生年金保険法第12条)

 

ここで、1週間の所定労働時間と、1ヵ月間の所定労働日数については、両方とも4分の3要件を満たす必要があります(接続詞が「および」となっているため)。

したがって、例えば、正社員の所定労働時間が1日8時間の会社において、ある短時間労働者が、1日1時間、1ヵ月に30日間の勤務をしていたとしても、原則として被保険者にはなりません。

1週間の所定労働時間と、1ヵ月間の所定労働日数は、原則として、「就業規則」または「雇用契約書」の記載をもとに、その者が通常の週および月に勤務すべきとされている時間および日数をもとに判断します。

なお、所定労働時間を1ヵ月単位で決めている場合には、「1ヵ月の所定労働時間×12ヵ月÷52週間」によって、1週間の所定労働時間を算出します。

4分の3未満の短時間労働者は社会保険に加入できる?加入できない?

2016年10月1日施行の法改正により、短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大が実施されました。

この法改正により、4分の3基準を満たさない者であっても、以下の5つの要件を満たす場合には、健康保険・厚生年金保険の被保険者として取り扱うこととされました(平成28年5月13日 保保発0513第2号)。

【被保険者資格(健康保険・厚生年金保険)の取得基準(5要件)】

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
  3. 報酬の月額が8万8千円以上であること
  4. 学生でないこと
  5. 特定適用事業所に使用されていること
なお、①と④の要件は、雇用保険の取り扱いと同じです。

①1週間の所定労働時間が20時間以上であること

1週間の所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書によって、その者が通常の週に勤務すべきと定められている時間をいいます。

ここで、「通常の週」とは、祝祭日およびその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇などの特別休日を含まない週をいいます。

②同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること

使用期間が1年未満である場合であっても、雇用契約書などによって、「契約を更新する場合がある」旨が明示されている場合も、「1年以上使用されることが見込まれる」場合に該当するものとして取り扱うことに注意が必要です。

③報酬の月額が8万8千円以上であること

「報酬」には、最低賃金法で賃金に参入されないものを除くこととされています。

例えば、次の賃金は報酬に含まれません。

【報酬に含まない賃金】

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  • 割増賃金(残業手当、休日出勤手当など)
  • 最低賃金法で参入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)
なお、上記の賃金を報酬に含まないのは、あくまでも本要件の判定についてです。

被保険者とされた場合の標準報酬月額は、残業手当や通勤手当などを含んで算定されることに注意が必要です。

④学生でないこと

⑤特定適用事業所に使用されていること

「特定適用事業所」とは、通常の労働者(厚生年金保険の被保険者)の総数が、常時500人を超える(501人以上)事業所をいいます。

1年間のうち6ヵ月間以上、500人を超えることが見込まれる場合を「常時500人を超える」ものとして取り扱います。

なお、事業主が法人(会社)である場合には、法人そのものを事業主として取り扱い、その法人に属するすべての事業所を合算して人数をカウントします。

また、個人事業主については、適用事業所単位で人数をカウントします。

法人の場合は、法人番号(法人のマイナンバーのようなもの)が同じ事業所を適用事業所の単位にしています。

さらに、2017年4月1日施行の法改正により、被保険者数が常時500人以下の事業所においても、労使の合意に基づいて申し出をすることにより、適用対象になることができるようになりました。

今後の法改正による短時間労働者の社会保険の適用拡大(2022年・2024年予定)

この記事を作成している2019年12月現在の報道では、公的年金制度の改革案は、概ね次のとおりです。

要するに、上記の5要件のうち、特例適用事業所の要件とされる被保険者の数について、改正されます(他の4要件については、改正の予定はありません)。

【特定適用事業所の要件】

  1. 2022年10月改正(予定)…厚生年金保険の被保険者の総数が、常時100人を超える(101人以上)事業所を対象とする
  2. 2024年10月改正(予定)…厚生年金保険の被保険者の総数が、常時50人を超える(51人以上)事業所を対象とする

現在、2020年1月から始まる通常国会において、上記の法改正案の提出を目指しています。

厚生年金には、2018年度末時点で約4,400万人が加入していますが、厚生労働省の試算では、法改正によって、新たに65万人が加入する見通しをしています。

社会保険の適用拡大による短時間労働者への影響

短時間労働者側のメリット

短時間労働者が新たに社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することのメリットは次のとおりです。

  • 厚生年金保険においては、基礎年金に上乗せして、「報酬比例」の厚生年金を受け取ることができるようになる。
  • 健康保険においては、傷病手当金や出産手当金を受け取ることができるようになる。

短時間労働者側のデメリット(130万円の壁)

短時間労働者側が社会保険の適用を避ける理由のひとつとして、「130万円の壁」があります。

社会保険上の被扶養者になるためには、年収を130万円未満におさえる必要があります。

社会保険上の被扶養者になることにより、保険料を負担することなく、年金においては「第三号被保険者」、健康保険においては「被扶養者」となり、社会保険の恩恵を受けることができます。

したがって、社会保険の適用拡大により、新たにその対象となる短時間労働者のうち一定数は、その適用を回避するために、1週間の所定労働時間を20時間未満に短縮する動きをすることが予想されます。

逆に、社会保険に加入しても、なお現在の手取り額を維持するために所定労働時間を増やす動きも予想されます。

社会保険の適用拡大の対象となる企業にとっては、このような短時間労働者の動きに合わせた雇用調整を事前に検討しておく必要があります。

まとめ

「扶養」という概念が色濃く影響する社会保険においては、その適用拡大によって短時間労働者の経済面や働き方に与える影響は少なくありません。

適用拡大によって新たに適用対象となる企業においては、短時間労働者に十分説明したうえで、働き方の意向を十分に踏まえたうえで、必要となる人員を確保する必要があります。

なるべく早く法改正の情報をキャッチし、適切に対応する必要があります。