働き方改革

【働き方改革法】「労働時間の状況の把握義務」法律と通達を解説

働き方改革法(2018年6月29日成立)により、労働安全衛生法が改正され、2019年4月1日から、労働時間の状況を把握する義務が新たに定められます。

これまでも、通達やガイドラインによって、同様の義務が定められていましたが、今回の改正によってこれまでの内容がどのように変わるのか、また、具体的にどのように労働時間を把握していかなければならないのかについては、法律や通達を紐解きながら、丁寧に理解していく必要があります。

そこで、今回は、これまでの経緯や、法律・通達の改正内容などを、総整理して解説します。

法律が改正されるまでの経緯

最初に、働き方改革法が成立するまでの経緯を整理します。

まず知っておくべき前提として、会社が従業員の労働時間の把握をするべき義務や、労働時間をどのように把握すべきかの具体的方法について、労働基準法に定めはありません。

しかし、労働基準法に定められている、法定労働時間や、法定労働時間を超えた場合の割増賃金の支払いなどの義務を履行するためには、その前提となる労働時間の正確な把握が欠かせません。

そこで、会社が従業員の労働時間をどのように把握すべきかについて、かつては「46通達」と呼ばれる厚生労働省による通達が存在していました。

46通達の名称は、通達が2001年4月6日に定められたことに由来しますが、正式名称は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」といいます。

その後、電通事件を皮切りに、長時間労働による労働基準法違反が多発したことが社会問題となったことを受けて、それまでの46通達の内容をより具体化した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます)」が2018年1月20日に公表されました。

そして、2018年6月29日に働き方改革法が成立し、ガイドラインの内容は、基本的にはそのままで通達から法律へと格上げされ、労働安全衛生法に定められることになりました。

改正される法律とその内容

2019年4月1日に施行される労働安全衛生法には、新たに以下の条文が新設されることとなりました。

労働安全衛生法

第66条の8の3

事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため厚生労働省令で定める方法(☆)により、労働者(次条第1項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握(★)しなければならない。

この法律のポイントは、次の2つであると考えます。

  1. 労働安全衛生法に定められていること(労働基準法ではないこと)
  2. 面接指導を適切に実施することを目的としていること

法律によると、会社が従業員の労働時間の状況を把握する目的は、労働安全衛生法における「面接指導」をきちんと実施するためにあります。

ここで、注目すべき重要な点は、労働時間の状況の把握をするべき「対象者」です。

これまでの46通達(2001年4月6日)やガイドライン(2018年1月20日)では、これらの趣旨が法定労働時間や割増賃金の支払いなど、労働基準法を遵守することを主な目的としていたことから、労働基準法上、労働時間に関する定めが適用除外とされる管理監督者や、事業場外のみなしが適用される従業員については、労働時間を把握すべき対象とはされていませんでした

一方で、労働安全衛生法は、会社で働くすべての労働者(「労働者」ですから、役員は除きます)の健康管理等を目的としています

「すべての」というくらいですから、当然、管理監督者(管理職)を含みます。

健康管理の必要性や重要性においては、会社での職位は関係ないためです。

したがって、これまでのガイドラインでは労働時間の把握の対象とされていなかった「管理監督者」も新たに対象となったことが、今回の改正の重要なポイントのひとつといえます。

労働時間の状況を把握すべき従業員の範囲

法律の対象となる従業員の範囲について、さらに具体的にみていきます。

前掲の労働安全衛生法第66条の8の3に関する通達(平成30年12月28日基発1228第16号、以下、単に「通達」といいます)によると、法律の対象となる従業員については以下のとおりです。

<労働時間の状況を把握しなければならない対象者>

・研究開発業務従事者

・事業場外労働のみなし労働時間制の適用者

・裁量労働制の適用者

・管理監督者

・派遣労働者

・短時間労働者

・有期契約労働者

・上記を含めた全ての労働者

<労働時間の状況を把握する対象とならない者>

・高度プロフェッショナル制度の適用者

つまり、高度プロフェッショナル制度が適用される従業員以外は、基本的にすべて対象となるということです。

「労働時間の状況」とは?

前掲の労働安全衛生法第66条の8の3のうち、★印の部分である「労働時間の状況の把握」とは、どのような意味なのでしょうか。

なぜ、「労働時間の把握」とはせず、わざわざ「状況」という言葉が足されているのでしょうか。

「労働時間の状況」の意味について、通達では以下のように説明しています。

新安衛法第66 条の8の3に規定する労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものである。

これは、法律が「労働時間数」を把握することを求めているのではなく、「労務を提供し得る状態にあった時間数」を把握することを求めていることを意味します。

前述のとおり、労働安全衛生法では「事業場外のみなし」や「裁量労働制」など、労働基準法では「労働時間が算定し難い」とされる働き方をしている従業員もすべて対象にしています。

これらの従業員は、労働時間を算定しにくい(または、できない)が故に、制度の適用対象となっているため、そもそも労働時間を正確に把握することは理論上できません。

とはいえ、労働安全衛生法が目的とする従業員の健康の確保のためには、これらの者も対象としたいところです。

そこで、労働安全衛生法では、これらの従業員について、労働時間の「状況」を把握することを求めることとしました。

例えば、裁量労働制で働く従業員が、いつも朝9時から夜の10時まで会社で働いているという状況があるとします。

この従業員は、自身の裁量による時間配分で働いているため、何時間働いたのか、正確な労働時間数を厳密に把握することができません(逆にいうと、把握できないから裁量労働制が適用できるのであり、把握できるなら裁量労働制を適用すること自体が違法になり得ます)。

しかし、普通に考えると、休憩を除いて最大で12時間、合間に多く休憩をとっているとしても、最低10時間くらいは労働をしているだろうことは容易に想像できます。

そうすると、この従業員については、労働時間の「状況」からして、長時間労働が疑われることから、健康に問題はないか、面接指導の対象とするべきかなど、会社として配慮が必要になるといえます。

このような趣旨から、正確な労働時間数ではなく、あえて「労働時間の状況の把握」という法律の定めにしている点が最大のポイントであると考えます。

労働時間の状況を把握する方法

では、労働時間の状況を把握するために、会社は具体的にどのようなことをしなければならないのでしょうか。

前掲の労働安全衛生法第66条の8の3のうち、☆印の部分である「厚生労働省令」として、以下の「安全衛生規則」に具体的な内容を定めています。

労働安全衛生規則

第52条の7の3(法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法等)

法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。

上記の規則では、会社が従業員の労働時間の状況を把握する方法として、以下の3つの方法を定めています。

  1. タイムカードによる記録
  2. パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録
  3. その他の適切な方法

これら3つの方法について、通達では、もう少し詳細に説明しています。

事業者が労働時間の状況を把握する方法としては、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならない。

②はパソコンを使用した時間によって労働時間の状況を把握するものですが、通達から、使用時間とは「ログインからログアウトまでの時間」であることが分かります。

つまり、パソコン上の勤怠管理システムなどを用いている場合でも、従業員がシステムに自分で入力した始業終業時刻をベースにした労働時間の状況の把握は、客観的であるとは評価されにくく、パソコンを立ち上げていたすべての時間によって管理する必要があるとしています。

現実には、出社したら何気なく、習慣的に、始業時刻前でもパソコンを立ち上げてログインしているようなケースもあり、このような時間についてまですべて労働時間として把握しなければならないとするのは、厳しい要件であるといえます。

また、③による場合の具体例として、通達では「事業者の現認」を挙げています。

「現認」とは、従業員が出社した時間と退社した時間とを、上司などが実際にその目で見て確認した時間を記録するようなことを意味します。

しかし、上司が部下の行動をすべて把握することは現実には困難なことから、この方法によるには相当無理があるでしょう。

自己申告制による場合

③において特に問題になるのは、「自己申告制」による場合です。

実際には、この自己申告制による労働時間の把握をしている会社も多く存在しています。

自己申告制は、従業員本人の申告による時間をベースにするため、上司からの圧力や社風などの影響により、本来の労働時間よりも過少に申告するケースが起こりやすく、長時間労働の温床になりかねないことが懸念されます。

したがって、以下の通達が示すように、自己申告制による場合には、厳しい要件が課せられています。

「その他の適切な方法」としては、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において、労働者の自己申告による把握が考えられるが、その場合には、事業者は、以下のアからオまでの措置を全て講じる必要がある

ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の状況の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

イ 実際に労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

ウ 自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。

エ 自己申告した労働時間の状況を超えて事業場内にいる時間又は事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。

その際に、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間の状況ではないと報告されていても、実際には、事業者の指示により業務に従事しているなど、事業者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間の状況として扱わなければならないこと。

オ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該阻害要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

さらに、新労基法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36 協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

自己申告制によることが認められるための前提条件として、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」であることが必要になりますが、具体例として、通達で以下のように定められています。

「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があり、この場合に該当するかは、当該労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ、適切な方法を個別に判断すること。

ただし、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても、例えば、事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない。

また、タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合にもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められない。

さらに、労働時間の状況を自己申告により把握する場合に、どのくらいの頻度で申告を行わせるべきか、例えば毎日の申告が必要になるのかどうかについては、通達で以下のように定められています。

労働時間の状況を自己申告により把握する場合には、その日の労働時間の状況を翌労働日までに自己申告させる方法が適当である。

なお、労働者が宿泊を伴う出張を行っているなど、労働時間の状況を労働日ごとに自己申告により把握することが困難な場合には、後日一括して、それぞれの日の労働時間の状況を自己申告させることとしても差し支えない。

ただし、このような場合であっても、事業者は、新安衛則第52 条の2第2項及び第3項の規定により、時間外・休日労働時間の算定を毎月1回以上、一定の期日を定めて行う必要があるので、これを遵守できるように、労働者が出張の途中であっても、当該労働時間の状況について自己申告を求めなければならない場合があることには、留意する必要がある。

まとめ

総じて、労働時間の状況の把握については、タイムカードやパソコンを用いた客観的な方法によることが最も望ましいといえます。

一方で、自己申告制はどうしても客観性が乏しくなるため、複数の目線による労働時間の状況の把握が不可欠となり、かえって煩雑な労務管理に陥ることも懸念されます。

労働時間の正確な把握は、法定労働時間や36協定、割増賃金の支払いなど、労働基準法を遵守する上で必要になるとともに、長時間労働を防止し、従業員の健康管理をするためにも重要になります。

法律の施行を機に、勤怠システムの導入など、会社の取り組みとしてどのように法律を遵守していくかを検討することが必要であると考えます。

くれぐれも自己流の管理によることなく、法律や通達を正しく理解し、労働時間を適切に管理するための労務管理の仕組みを構築していくことが、今後ますます必要になると考えます。