人事制度

【パワハラ】法改正で義務化される「パワハラ防止措置」への企業対応

現在、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」といいます)の防止措置を会社に義務付けるための法制化が進められており、早ければ2020年4月にも施行される予定です。

防止措置の詳細は、今後、厚生労働省が作成する「指針」によって明らかになる予定ですが、今回は、現段階で把握できる情報を元に、法律により会社に義務付けられる防止措置の内容や、罰則などについて解説します。

この記事でわかること
  • 2020年4月1日に改正される「労働施策総合推進法」の内容が分かります。
  • 法律におけるパワハラの定義、義務化されるパワハラの防止措置の内容、法律の施行日、罰則などの内容が分かります。

パワハラが法制化された背景

職場のパワハラについては、都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーに相談することができますが、そこに寄せられる職場の「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は年々増加し、2012年度に相談内容の中でトップとなって以来、今日に至るまで引き続き増加傾向にあります。

また、嫌がらせ・いじめ・暴行を受けたことによって精神障害となり、労災認定された件数は2017年度には88件まで増えています。

パワハラは従業員の人格や尊厳を傷つける悪質な行為であり、社会的にも、「パワハラはあってはならないことだ」という認識がもはや常識になっているといえます。

パワハラは、会社にとって、従業員に対する損害賠償のリスク、事件化することによる会社の信用の損失、従業員を失うリスクなど、多くの経営上のリスクにつながるため、細心の注意を払わなければならない重要課題です。

したがって、会社は、今回の法改正など、世の中の動きに敏感になり、いち早くパワハラの防止に取り組むことが必要です。

改正後の法律はいつから施行される?

今回改正される法律は、「労働施策総合推進法」といいます。

予定されている改正後の法律の施行日は、2020年4月1日です。

ただし、この施行日は大企業についてであり、中小企業については、2年遅れの2022年4月1日を施行日とし、2020年4月1日以降の2年間は「努力義務」とされる予定です。

【法律の施行日(予定)】

  • 大企業…2020年4月1日
  • 中小企業…2022年4月1日(2020年4月1日から2年間は努力義務)
「努力義務」とは、法律によって義務付けられてはいない(強制力はない)けれども、できる限り法律を守ることが望ましい、というニュアンスの義務をいいます。

ただし、中小企業であっても、法律上の義務に関わらず、人材の確保や労働環境の整備のために、パワハラの防止にいち早く取り組むことが必要です。

なお、大企業と中小企業の区分は、以下のとおりです。

会社単位でみて、金額または人数のいずれかの要件に該当すれば、中小企業に該当します。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の事業 3億円以下 300人以下

「パワハラ」の法律上の定義は?

「労働施策総合推進法」では、パワハラに対する防止措置について、以下の条文が新たに追加されます。

労働施策総合推進法

(雇用管理上の措置等)

第30条の2

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

条文によると、「パワハラ」について、以下のように定義付けています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

「優越的な関係」というと、多くの方は、上司や先輩が思い浮かぶと思います。

特に上司は、人事権や評価権を有していることにより、部下よりも優越的な立場にあることが一般的です。

しかし、職場では、立場に関係なく、業務上必要な知識や、豊富な経験を有していることにより、優越的な地位にあることも起こり得ます。

例えば、立場上は上司(先輩)であっても、異動により自身よりも業務経験が長い部下(後輩)と共に働く場合があります。

このような場合に、部下(後輩)が、業務経験の乏しい上司(先輩)に対して行う嫌がらせ(業務に必要なことをわざと教えない、知識や経験のないことを馬鹿にするなど)等も、広くパワハラに該当し得る行為であるといえます。

「業務上必要かつ相当な範囲」とは、業務上、上司の部下に対する教育や指導として、その内容や必要性に応じて、社会通念上許されるものであることを意味します。

しかし、教育・指導とパワハラは、その線引きが非常に曖昧で難しいものです。

この法律の文言によって、「どんな行為がパワハラに該当するか」まで明らかなるものではありません。

具体的にどのような行為がパワハラに該当するのかについては、今後、厚生労働省が「指針」という形で公表する予定です。

おそらく、具体例を列挙する形で指針が作成されると予想しますが、パワハラはどうしても程度問題の要素が多く、案件ごとの個別性があるため、指針をもってしても明確な基準を定めることまではできないでしょう。

会社に義務付けられる「パワハラ防止措置」の内容は?

法律の改正を受けて、企業に義務付けられる「パワハラ防止措置」の具体的な内容は、今後、厚生労働省が「指針」という形で定めることとされています。

現時点で予定されている内容としては、以下のとおりです。

【パワハラ防止措置の内容】

  1. パワハラに関する経営者の方針を明確にする
  2. パワハラをした加害者の懲戒規定を整備する
  3. パワハラがあった場合(または疑われる場合)の相談窓口を設置する
  4. パワハラに関する社内調査体制を整備する
  5. パワハラについて相談した者のプライバシーを保護し、相談したことによる不利益な取り扱いを禁止する

①経営者の方針の明確化

例えば、会社が「パワーハラスメント防止方針」などを作成して、従業員に周知・啓蒙することが考えられます。

「当社は職場におけるパワーハラスメントを絶対に許さない」という会社の方針を明確にすることが必要になります。

②加害者の懲戒規定の整備

就業規則に懲戒規定を設けるなど、パワハラをした加害者を厳正に処分するルールを定めることが必要です。

おそらく、多くの会社の就業規則には、すでにパワハラに関する懲戒規定が定められていると思います。

例えば、次のような定めが自社の就業規則にあるかどうかを確認してください。

(なお、厚生労働省の「モデル就業規則」を参考にしています)

【就業規則の規定の一例】

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第○条 当社の従業員は、職務上の地位や人間関係など職場内の優越的な立場を利用して、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の従業員の就業環境を害することをしてはなりません。

(懲戒の事由)

第〇条 従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給、または降格とします。

また、その情状が悪質と認められるときは、懲戒解雇とする場合があります。

一、第〇条(職場のパワーハラスメントの禁止)の定めに違反したとき。

③相談窓口の設置

これは、パワハラの被害者が相談できる窓口を設けることを会社に義務付けるものです。

例えば、人事部や総務部を相談窓口とするようなケースが想定されます。

また、被害者本人に限らず、パワハラの現場を目撃した同僚などが、パワハラの事実を通報することができる仕組みを整備することも必要です。

相談は、相談者が躊躇することに備えて、匿名ですることもできるよう、配慮することも必要です。

匿名で相談するには、メールによる相談を認めることや、会社の外(例えば弁護士など)を窓口にすることも考えられます。

被害者は、加害者の報復を恐れて、匿名による相談を希望する可能性が高いため、単に窓口を設けるだけでは、防止策が機能しない可能性があります。

これらを踏まえ、相談窓口に関する規定の例として、例えば次のような定めが考えられます。

【相談窓口に関する規定の一例】

(相談窓口)

第〇条 パワーハラスメントに関する相談窓口は人事部とし、人事部は従業員からの相談の受付および対応、相談に関する事実関係の調査、調査の報告などを行うこととします。

2 パワーハラスメントを受けた、または職場においてパワーハラスメントの事実があると疑われる場合には、従業員は、相談窓口に対してその相談を自由に行うことができます。

3 相談窓口への相談の方法は、対面、電話、電子メールによることとします。

4 相談窓口への電子メールによる相談は、匿名で行うことができることとします。

④社内調査体制の整備

パワハラが発覚した場合には、速やかに社内調査を行い、正しい事実関係を確認する必要があります。

これは加害者を懲戒処分にする前提としても、非常に重要なプロセスになります。

さらに、パワハラについては、調査の終了をもって対応が完了するのではなく、その後、社員研修などで事件を共有し、再発防止のために改めて啓蒙するなど、事後対応も重要になります。

調査が発覚してから、調査を行う部署や担当者(総務部や人事部など)、報告先(社長や取締役など)、処分の決定(懲罰委員会や取締役会など)、再発防止策の実施(社員教育など)まで、一連の体制を整備していくことが重要です。

⑤プライバシーの保護・不利益取扱いの禁止

パワハラについて会社に相談した被害者について、相談内容が他の従業員に知られたり、相談したことをもって配置転換をしたり査定を下げるなど不利益な取り扱いをするようなことをしてはなりません。

不利益取扱いについては、労働施策総合推進法によって、以下のように定められています。

30条の2

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

会社のパワハラの防止義務に関する裁判例について

今回の法律改正により、初めてパワハラの防止義務について法制化がされましたが、実は、会社は本来パワハラを防止する法律上の義務があるということが既に裁判例で明らかになっています。

裁判例(東京高等裁判所 平成29年10月26日判決)では、裁判所は、会社には「職場環境を調整する義務」があるとしました。

この義務は、会社は、従業員が良好な職場環境で働くことができるように、職場におけるパワハラを防止する義務を負うというものです。

さらに、もしパワハラがあるという従業員からの訴えがあった場合には、会社は、その事実関係を調査し、その調査の結果に基づいて加害者に対する指導や、被害者との接触を避けるべく加害者の配置転換などの人事管理上の適切な措置を講じる義務があるとしました。

さらに、この裁判例では、被害者が相談をした上司などの対応にも問題があり、相談窓口が機能せず、その適切な対応を怠った場合には、加害者だけでなく、相談窓口となった担当者の対応についても、会社が責任を負うことがあるとしました。

会社は、従業員が心身ともに健康に働くことができるよう、職場環境に配慮しなければならないという「安全配慮義務」を負っています。

つまり、今回のパワハラの法制化は、もともと会社として行わなければならない対応を、あらためて法律という形で明確にした、ともいえます。

したがって、会社は、形式的に法律に合わせて体裁を繕うだけでは足りず、実質的に、パワハラを撲滅する姿勢で取り組まなければ、会社の安全配慮義務は果たされないと考えます。

法律に違反した場合の罰則は?

パワハラを行った者への罰則

今回の法律の改正では、パワハラを行った者への直接的な罰則は設けられていません

法案ができるまでの議論の段階では、パワハラ行為そのものを禁止し、パワハラをした者を罰することも検討されましたが、パワハラは業務上の「指導」との線引きが難しく、現状の法律でも悪質なパワハラは刑法や民法などの別の法律に違反することから、「行為自体の禁止」を法律で盛り込むことは見送られました。

会社に対する罰則

会社がパワハラ防止措置を講じなかったことに対する、直接的な罰則は設けられていません

例えば、会社が相談窓口を設けていなかった場合、それ自体に対する罰則が科せられることはありません。

ただし、法律により、厚生労働大臣は、会社に対して、必要な事項について報告を求めることができる旨が定められています。

そして、厚生労働大臣は、会社がこの法律に違反しているときは、「勧告」をすることができ、会社がその勧告に従わない場合、厚生労働大臣はその旨を「公表」することができることとされています。

これにより、会社にとっては、自社がパワハラ防止措置を講じず法律に違反していることを世間に公表されることにより、社会的に制裁されるという仕組みになっています。

これは、会社にとっては、ある意味で罰金などよりも重い制裁であるといえます。

なお、会社が厚生労働大臣の求めに対して、報告を怠り、または虚偽の報告をした場合には、「20万円以下の過料」が科せられることと定められています。

まとめ

パワハラを防止するために特に重要なのは、従業員への研修や育成であり、会社として「パワハラは絶対に許さない」という風土を醸成していくことです。

パワハラをしている上司が何ら制裁を受けることがなく、平然とパワハラを継続できるような状況は、部下のモチベーションを著しく下げてしまい、多くの退職者を生み出す原因となります。

繰り返しになりますが、パワハラの防止は、経営上、極めて重要な課題であるため、今回の法改正を機にしっかりと取り組んでいく必要があります。